一応平和な、同期の会話


『にしても、あんたもまた無茶したもんよね~……文句は全部俺に言えって、体張り過ぎじゃない? ま~た格好いいことしちゃってさぁ……!』


「うえっ!? え、ええ、まあ、そうっすね……」


 とまあ、そんな風に自分自身の心情と甜歌の境遇を重ね合わせて物思いに耽っていた零であったが、天が不意に昨日の配信について触れてきた途端、曖昧な返事を見せながら焦りの感情を滲ませ始めた。

 どうにも妙なその反応に違和感を抱いた天がPCの前で首を傾げていると――?


『……そうだよね、また無茶したよね? 零くんってばまた自分のことを蔑ろにして……!!』

 

「あ、有栖さん、もういいじゃない。朝もそうだったけど、さっきもそれでお説教されたばっかだし――」


『よくない、全然よくない。前に倒れたの、もう忘れちゃったの? 私、沢山心配したって言ったよね? 零くんも反省するって言ったよね? それから1か月ちょっとでまた同じことしてるけど、あの約束は何だったの?』


「うぐぅ……」


 唐突に、容赦のない言葉のラッシュが零を襲い始める。

 ここまでずっと黙って話を聞いていた有栖が口を開いたかと思えば、明らかに怒りを感じさせる口調と声で彼を詰問し始めたではないか。


 突然の彼女の行動に驚きを隠せない天であったが、そんな彼女に対して事情を知る沙織が苦笑を浮かべながら言う。


『ああ……天ちゃんの発言で、また有栖ちゃんがぷんすか状態になっちゃったね~。朝からず~っとあんな調子で、零くんに怒りっぱなしなんだよ~』


『わーも秤屋さんが入ってくる前さ阿久津さんが入江さんにお説教されでら場面さ遭遇しました。わった……おっかなぐであっただ』


『な、なるほど……! さっきから大人しいと思ってたら、そんな事情があったのね……』


 同期たちからの解説を受けた天が事情を把握すると共に大きく頷く。

 零の自己犠牲を前提とした行動にトラウマを抱えている有栖は、彼の今回の行動に対して本気で怒っているようだ。


「わかった、わかったから! 流石に今回の件で俺も懲りたよ! 朝から何回も同じお説教されてるんだし、もういいでしょ!?」


『前もそうやって次は大丈夫って言ってたよね? で、あんなことしたよね? 何が大丈夫なの?』


「いや、その、結果として炎上もしなかったわけだし、俺もぴんぴんしてるわけだから何も問題はなかったってことで……」


『私は炎上したり倒れなかったりしなければ何をしてもいいって言ってるんじゃないの。炎上したり零くんに負担がかかるような行動は止めてって言ってるの、わかる? 折角、薫子さんたちが事務所の体制を整えて前みたいなことがないようにって努力してくれてるのに、零くん本人がそのままじゃあ何の意味もないじゃない』


「ぐぅ……」


 ギリギリ、ぐうの音が出るレベルの有栖の正論攻撃によって完全に意見を封殺される零。

 飛び火(と有栖)が怖いので仲裁に入ったり零のフォローをしたりといった行動をしないでいる沙織たちは、そんな2人の会話を聞きながらひそひそ声でこう話し合う。


『これは流石に零くんが悪いと思うよ~。有栖ちゃんが怒るのも納得だよね~……』


『あの入江さんがこごまで怒り続げるごどすたってわげすたはんでね……』


『まあ、かわいい嫁から心配してもらってるからこそのお説教なんだし、零もありがたく受け止めればいいんじゃない? 形はあれだけど、いつものいちゃつきの発展形みたいなもんだし……』


「ちょっとぉ!? そこの人たち、黙って聞いてないで助けてくださいよ! 特に秤屋さん! あんたの発言が発端なんだから少しはフォローする気持ちを見せろって!」


『零くん? 私の話をきちんと聞いてるのかな? ……ああ、でも、秤屋さんをお話に参加させるのはいい案かもしれないね。さっきみたいに零くんの無謀な行動を持ち上げたりする人が身近にいるからこそ、あんな真似をし続けちゃうんだろうし……その辺について、私とお話しましょうか?』


『ひぇっ……!?』


 我関せずのポジションを貫こうとした天であったが、秘密の会話を耳にした零によって有栖のお説教に巻き込まれてしまうと同時に通話越しからでもわかる彼女からのプレッシャーを感じて小さな悲鳴を上げる。

 ガミガミ怒るのではなく、静かに淡々と詰めてくる有栖のお説教に心の底から恐怖する2人が彼女から責め立てられる様子を目に(耳に)する沙織とスイは、苦笑しながらそれに対する自分たちの感想を述べた。


『なんか、平和ですね。こごだげ見ぢゅど、今、Vtuber界隈荒れぢゅだなんて思えね』


『そうだね~! このままドタバタはするけど誰も傷つかずに大会までいけたらいいのにね……』


 慌ただしくもあるが、平穏といえば平穏でもある同期たちの会話がそのまま今のVtuberに反映されてくれればいいのに……という願望を口にした沙織が小さく笑みを浮かべる。

 全てがそう上手くいくことはないとは思うが、零の尽力や【ペガサスカップ】運営や参加者たちの努力、そして2つのVtuberが力を合わせて問題に対処しているのだから、きっと大丈夫だと自分自身に言い聞かせながら、彼女は有栖にお説教される2人を助けるべく、仲裁に入るのであった。

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