予想外の、炎上主
『おっ、お疲れ様です! 遅くなってすまね!!』
「あっ、三瓶さん。お疲れ様です。今ちょうど、三瓶さんのことを話してたんですよ」
話が途切れたそのタイミングで、参加が遅れていたスイがサーバーに飛び込んできた。
今までのまったりとした雰囲気のまま、彼女の参加を歓迎した零は近況を尋ねようと口を開いたわけだが、慌てた様子の彼女は通話に入るや否やこんな質問を投げかけてくる。
『あの、阿久津さんと入江さん、今度ゲームの大会さ出るんだよね? その大会さ、他のVtuberさんも出でませんか!?』
『え……? 【ペガサスカップ】のことですか? 確かに私たち、参加しますけど……』
「【ペガサスカップ】に参加する俺たち以外のVtuberとなると、【VGA】の人たちのことっすかね? それがどうかしたんですか?」
『わ、わーもよぐはわがねんだばって、そのふとたぢが今、炎上すてらんだ! 「これがリーダーのチームなんて応援したくない」って、ネット上で凄ぇ騒ぎになってで……!!』
「は、はぁっ!?」
スイの突然の報告に素っ頓狂な声を上げる零。
自分たちと同じく【ペガサスカップ】に参加する【VGA】のタレントが燃え、しかもネットを大いに騒がせるような炎上をかましていると知った彼が茫然とする中、同じく驚いた有栖がまさかといった様子で呟く。
『そういえば、陽彩ちゃんも言ってたよね? 【VGA】の代表の片方は、凄く燃えやすい人だって……今回もまた、何かやらかしちゃったんじゃないかな?』
「ああ、そうだったね……でもまさか、このタイミングでかよ?」
有栖の言葉を受け、【VGA】所属Vtuberであり、今回【ペガサスカップ】に参加するBチームのリーダーでもある夕張ルピアはその性格のせいで今まで何度も炎上したことがあるという陽彩の話を思い返した零が顔を顰めながら困ったように頭を叩く。
何もゲーム大会が間近に迫ったこのタイミングで燃えることはないだろうと、事情はわからないがデリケートで大事な時期に不用意な言動をしてしまったであろうルピアへと、若干の恨みを込めた呟きを漏らした零であったが――
『あの人、そんなに燃えやすい人なんだか?
「え……?」
自分と有栖の話を聞いたスイが漏らした言葉を耳にした零が、その違和感に顔を顰める。
確かに自分は夕張ルピアの外見は知らないが、勝ち気で強気な性格をしていると言われる彼女のキャラクターデザインが穏やかな人っぽく見えるというのはどうにもおかしい。
口元に手を当て、その違和感に対して考えを巡らせた零は、ある可能性に思い当たるとスイへとこんな質問を投げかけた。
「あの、三瓶さん。その炎上してるVtuberさんって、緑縞穂香って名前ですか?」
『た、多分ですけど、そうだと思います! 漢字だったんで、読み方さ確信は持でねげど……』
「いや、決まりです。燃えてるのは緑縞穂香さんですよ」
名前が漢字、とスイが言った時点で片仮名の名前であるルピアは候補から消え、炎上しているVtuberは穂香であることが確定する。
何をしたのかはわからないが、どうやら彼女はとんでもない失態をしでかしてしまったらしい。
陽彩から話を聞いていたルピアではなく、穏やかで信頼できる人物だと言われていた穂香の方がそんな大炎上を起こしてしまったという予想外の事態に直面した零と有栖が唖然とする中、スイの話を聞いてから現在の状況を把握すべく動いていた沙織と天が、ここまでで掴んだ情報を2人へと伝えていった。
『本当だ。スイちゃんの言った通り、【VGA】の穂香って人が凄い叩かれてるよ』
『そ、そこまでの騒動に繋がるだなんて、その人は何をしちゃったんですか?』
『えっと……ごめん、よくわからないさ~。色々書かれてるんだけどゲーム用語が多過ぎて、私には解読不能だよ~!』
「ゲーム用語が出てるってことは、スタバトか何かのゲームで良くないことをしちゃったってことですよね? でも、何だ? このレベルの炎上を引き起こすゲーム関連の問題行動って、いったい何なんだ?」
断片的な情報から少しずつ考えを深め、穂香の炎上の理由を探っていく零。
ここまで炎上知らずで、確かな実力と穏やかな人間性を併せ持つと称される彼女が、どうしたらこんな騒ぎを引き起こせるのか……と、零が疑問に思う中、大声を出した天が通話チャンネルのメッセージ欄へととあるサイトのURLを張り付けながら言う。
『見つけた! ネットの掲示板を纏めたサイトだけど、そこに今回の炎上の経緯とかファンたちの反応が書いてあるみたい!』
「あざっす、秤屋さん!」
ほぼ答えとなる情報を提供してくれた天へと感謝しつつ、彼女が送ってくれたURLをクリックし、まとめサイトのページを開いた零がそこに載っている情報に目を通していく。
Vtuber好きのネット民たちが集まるスレッドの会話を丸々コピペしたその内容を確認していった彼は、段々とその顔を青ざめさせていった。
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