1周年記念ss【CRE8Animation 2期生特別回】

シーン1・待ち合わせ

小説の投稿から1年が経ったことを祝して、【CRE8Animation】特別回のようなお話を投稿させていただきます!

毎日、この小説を読みに来てくださって本当にありがとう! 2年目もよろしくお願いします!

――――――――――――――――――――


「……遅いな、まだ準備してるのか?」


 とある夏の夜、腕を組みながらスマートフォンで現在時刻を確認する男が1人。

 賑やかな声がする方向へと顔を向ければ、そこには多くの人々でごった返す祭りの会場があった。


【第111回バーチャル東京花火大会】と書かれた看板を目にした男……枢は、何ともいえない表情を浮かべてから視線を祭り会場から逸らす。

 家族連れ、恋人同士、あるいは友人たち……というように、殆どの人々が集団で夏の風物詩である花火大会を訪れる中、自分がたった1人だけで待ちぼうけをくらっている現状に嫌気を感じているであろう彼の出で立ちは、普段の着ている私服とはまた違う格好であった。


 黒字の布に、赤い炎が燃え上がっているようが柄が描かれている浴衣。

 胸元までは普通の黒い和服のように見えるが、腹部分や肘から先の部分に目立つ装飾がこれでもかと施されているその格好は、そこそこに人目を引くものだ。


 幸いにも祭り会場を訪れている人々が枢のことをじろじろと見つめたりすることはなかったが、自分が目立つ格好をしているという自覚がある彼からしてみると、いつまでもこうして人の通りが多い場所で突っ立っていたくはない。

 待ち合わせをしている者たちが、約束の時間を過ぎても姿を現す様子がないことに大きなため息を吐いた彼が、うんざりとした表情を浮かべていると――。


「お~い! 蛇道さ~ん!!」


「おっ……!」


 遠くの方から聞こえる、自分の名前を呼ぶ特徴的な訛りがある声を耳にした枢が小さく呟いた後で顔を上げれば、向こうの方から大きく手を振って駆け寄ってくるリアの姿が目に映った。

 少し前に手に入れたばかりの水色の浴衣を纏い、それに合わせた白の塗り台とブルーカラーの鼻緒で作られた下駄を履いた彼女の背後には、残る3人の同期たちの姿もある。


「ごめんね~! 思ったより準備が手間取っちゃってさ~!」


「まあ、男だったら5分、10分の遅刻ぐらい大目に見なさいよ。なにせ、浴衣姿の美少女たちを独占できるんだから、そんくらい問題ないでしょ?」


 両手を合わせて零へと遅刻を謝罪するたらばと堂々と開き直ってみせる愛鈴の2人は、態度もそうだが格好もかなり正反対だ。


 太陽のように明るい黄色の布にアサガオの柄をあしらった比較的シンプルな浴衣を着ているたらばだが、腹に巻かれた帯の上には見事に実った2つのパイナップルが乗っかっており、普段よりもウエストが細く見えることも相まって、露出度が減っているはずなのに破壊力が増しているように思える。

 逆に、桃色の布地にカラフルな花々を散らした浴衣を着ている愛鈴の方はというと、かわいいながらもどうにも子供っぽさが拭えないおしゃまという表現がぴったりの雰囲気を纏っていた。


 これで本当に同い年なのか……と、その差に心の中で苦笑を浮かべる枢は、必死にそれが表情に出ないようにギリギリのところでその反応を押し止めている。

 もしも笑ってしまったら、間違いなく愛鈴から執拗な追及を受けるに決まってる、と予測できる展開を回避するために適当に2人に返事をした彼は、最後に目にした少女の姿に小さく息を飲んだ。


「あ、えっと、その……どう、かな? あんまり浴衣って着たことないんだけど、似合ってる……?」


 鮮やかなライムグリーンに白色の梅の花を合わせた浴衣を、自身の髪の色と同じ金色の帯で留めたという出で立ちの芽衣が、上目遣いで枢へと問いかける。

 髪の方にもかんざしを挿してお洒落している彼女の、地味過ぎず派手過ぎでもない程よい格好に暫し見とれた後、はっとした枢は素直な感想を彼女へと告げた。


「あ、ああ、似合ってるよ。うん、かわいい」


「あ、ありがとう。枢くんも浴衣、似合ってるよ。炎の柄、格好いいね!」


 ぱあっと表情を綻ばせて自分のことを褒めてくれた芽衣からの言葉に気恥ずかしそうに頬を搔く枢。

 ちょっと前までは目立つ上に配信者としては縁起でもないこの柄の浴衣のことをあまり快く思っていなかったのだが……こうして褒められるとそれも悪くないなと思えてしまうのだから不思議だ。


 それに、まあ……悔しいことではあるが、愛鈴の言った通り、4人の美女美少女たちの浴衣姿をほぼ独り占めできるというのは多少待ちぼうけをくらったとしても十分にお釣りがくるくらいの僥倖であることは間違いない。

 少なくとも、女性抜きで遊びに来ている男性グループからしてみれば、呪いたくなるくらいに羨ましい状況であるはずだ。


「さあ、そろそろ行きましょうか。このままここでぼさっとしてたら、時間が勿体ないでしょ?」


「わー、お腹ぺごぺごだ。会場からいい匂いいかまりがしてきで、もう我慢……!!」


「あはははは、2人とも気が早いね~。待たせてごめんね、枢くん。ここからは、一緒に楽しむさ~!」


「行こ、枢くん」


「ああ、うん……そうだね。行こうか」


 そんな風に少しだけ自分の身に訪れた幸運に浸っていた枢であったが、次々と祭りの会場に向かっていく女性陣から誘いの言葉を受けると、笑みを浮かべてその誘いに乗ることにした。

 滅多にない機会だし、同期たちとの思い出を作るためにも今日という日を存分に楽しもうと決めた彼が先を歩く彼女たちに追いつくべく足早に屋台が並ぶ道を進む中、モノローグによってこの場面に至るまでの解説が行われていく。

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