助け合って、一緒に頑張ろう
『でも、だからこそ、怖いなぁ……緑縞さんも夕張さんも、リーダーとしてチームメイトを引っ張れる人だもの。それなのにボクは、どっちかっていうと阿久津くんと入江さんに助けてもらってばっかりでさ。先輩としてもリーダーとしても、2人に見劣りするっていうか、ダメさが際立ってるっていうか……』
――とまあ、結局は今まで通りのネガティブな考え方に囚われ、自分自身に絶望し始めた陽彩の反応にPCの前でズッコケてしまった。
もう少しポジティブになってほしいと願いつつ顔を上げた零は、一足早く陽彩を慰め始めた有栖の声を聞きながら自分もまた先輩へとフォローの言葉を投げかけていく。
『そ、そんなことないですよ! 蓮池先輩だって、ちゃんとリーダーやれてます!』
『あぅ……ごめんね。この流れ、何回目だって話だよね? 毎回毎回慰めたり励ましたりしてもらって、本当にごめんね……1回生まれ変わってくるよ……』
「落ち着いてくださいって、先輩! 俺たち、本当に先輩のことをダメだなんて思ってませんから! っていうか、感謝してるんですよ!?」
『んぇ……?』
唐突に自分へとそんなことを言ってきた零の言葉に動きを止める陽彩。
彼は自分の申し出を受け、長期間大変な目に遭うゲーム大会への参加を引き受けてくれたのだから、感謝するのは自分の方であって彼ではないだろう……と陽彩が考える中、零は改めて自分の想いを彼女へと告げる。
「俺たちは決して熱心なゲーマーってわけじゃないですから、蓮池先輩に誘ってもらえなかったらこんな大規模な大会に参加することなんてなかったと思います。蓮池先輩が誘ってくれたからこそ、新しくこういうことに挑戦しようって思えたわけで……その機会をくれた先輩には、滅茶苦茶感謝してるんですよ!」
『頼りなかったり、フォローしてもらってばっかりなのは、私も一緒です。いいじゃないですか、上手くやれなくても。初めての経験なんだから、最初から何もかもを完璧にできるわけないですよ。例え優勝できなかったとしても、お互いにチームメイトとして支え合って、大会が終わった後で出場してよかった、って思えればそれで大成功だって、私は思います』
『あ、阿久津くん……! 入江さん……!!』
自分を慰め、励ましてくれる2人の言葉に、これまでとは違った意味で涙が込み上げてきた陽彩が震える声で2人の名を呼ぶ。
自分のことを情けない、ダメな人間だと思う気持ちはそう簡単には変えられないが……そんな自分でも誰かに感謝されるような価値があるのだと思えた彼女は、その感動を胸に瞳に浮かんだ涙を拭うと、精一杯の元気な声で零たちへと言う。
『そうだね、2人の言う通りだ。誰かと比べるよりもまず、自分の目標を達成するために頑張るってことを意識しなくちゃね! 大丈夫、大丈夫……ボクならできる、やれる、頑張れる!』
「その意気っすよ! まずは何より、大会とスタバトを楽しみましょう! 滅多にない経験なんですからね!」
ようやく元気を取り戻してくれた陽彩が大声で大会への意気込みを叫び、それを聞いた零がほっと胸を撫で下ろす。
これで何も心配はない……とはいえないが、それでも全員が前向きになって大会に臨もうと思えている間は、チーム内の空気も良くなるはずだ。
【VGA】のように経験豊富なリーダーがいるわけではなく、誰かに引っ張ってもらうことができるわけではないが、零たちには零たちなりのやり方というものがある。
お互いに足りない部分を補い合って、助け合って、目標を達成するするために協力して前に進むこのチームの在り方も、決して間違いではないはずだ。
『じゃあ、最初の合同練習の日付を決めましょうか。早めの方がいいですよね?』
『あ、うん。それはそうだけど、まずはこの間の配信で阿久津くんに教えたことを入江さんにも教えておきたいから、3人での配信はそれが終わった後でも大丈夫かな?』
「俺は平気ですよ。2人きりで話とかできなさそうだったら俺も立ち会いますから、遠慮せず声をかけてください」
『あ、ありがとう……! あ、そうだ! メンバーが決まったんだから、SNSで告知もしておかなきゃ!』
『そうですね。じゃあ、この投稿のタイミングは――』
そんな風に色々なことを話し合って、3人で決めて……初顔合わせの会議は、順調に進んでいった。
現時点で決めるべきこと、すべきことを話し終えた後、解散の前に締めの挨拶を担当することになった陽彩は、緊張を滲ませながらもリーダーとして、先輩としての矜持を示すべく、務めて明るい声で2人へと言う。
『改めまして……今日から1か月間、チーム【CRE8】として一緒に頑張ろうね! ゲームと大会を楽しんでもらえるよう、ボクも全力を尽くすから!』
そんな言葉と、零と有栖の返しの挨拶を以て、第1回の打ち合わせは無事に終了した。
始まる前にあった様々な懸念点を吹き飛ばしてくれるようなその内容に満足しつつ安堵した零は、まだ全ては始まったばかりだぞと自分に言い聞かせると共に気合を入れ直すと、【ペガサスカップ】に向けて意欲を燃え上がらせるのであった。
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