最強ゲーマー、魚住しずく
「えっと……まずは、急に妙な話に巻き込んじゃって本当にごめんなさい。色々とごちゃごちゃしてる話だけど、発端はボクが薫子さんに阿久津く……さんを紹介してほしいってお願いしたことなんだ」
「そんなに気にせず、好きに呼んでもらって構わないですよ。それで、どうして俺に会おうと思ったんですか?」
大分マシになったが、それでも緊張していることが一目でわかる陽彩の様子に苦笑を浮かべながら零が尋ねる。
深く息を吸い、吐いた後、彼女は後輩からのご尤もな質問に答えていった。
「じ、実はボク、昨日の君のゲーム配信を観ててさ……とても初心者とは思えないくらい上手だなって、そう思ったんだよ」
「あ、ありがとうございます。嬉しいっす」
昨日の配信を観ていた、という陽彩の言葉に若干困りながらも、褒めてくれた彼女へと感謝の言葉を述べる零。
今の言葉は嘘ではないが、それ以上に事務所の先輩に荒れに荒れた配信の様子を見られたことに気まずさを感じる彼へと、梨子が言う。
「零くん、もっと喜んでもいいんすよ。ひーちゃんはV界隈でも名の知れたゲームプレイヤーで、特にFPSに関してはずば抜けた腕前を持ってるんすから! そんな人に褒められるだなんて、本当に坊やは多才な子っすねぇ……! ママ、嬉しい!」
「あっ! そういれば俺も聞いたことありました。魚住しずくといえば、【CRE8】でNo.1のゲーマーだって……!」
「ふひぃぃぃ……! お、お恥ずかしい話ですぅ……」
魚住しずく……その名前は、【CRE8】随一のゲーマーとしてファンたちの間では知れ渡っている。
人気ジャンルであるシューティングはもちろん、格ゲーにMMO、パズルゲームにシミュレーション、更にはボードゲームの類にも強く、腕前だけでなく知識という部分でも秀でている事務所最強のゲームプレイヤーである彼女の活躍は、零も小耳に挟んだことがあった。
スタバトでの最高ランクであるスーパースターランクへの到達はもちろん、他のゲームでも大体が最高ランクまで到達していたり、鬼畜難易度と呼ばれているゲームの最速攻略に挑戦してそれを達成したり、更には3日間ぶっ続けでゲームをプレイして、見事にエンディングまで辿り着いたり……と、ゲームに関する話題には事欠かない人物のようだ。
そういった自分の武勇伝を振り返り、そのことを恥ずかしがっていた陽彩へと、零は改めて先の質問をぶつける。
「でも、そんなハイレベルなゲーマーである蓮池先輩が、どうして俺に会いたいって思ったんですか? 俺レベルのプレイヤーなんて、先輩なら飽きるほど目にしてるでしょう?」
「う、あ、あの、それは、その、ね……ぼ、ぼぼぼ、ボク、阿久津さ……くんに、お願いがあって……」
いくら零がゲームのセンスがあるとしても、それはあくまで初心者にしてはというレベルの話だ。
スタバトにおける最高ランクに達している陽彩なら、その程度の腕前のプレイヤーなど腐るほど見てきただろうし、そんな人物がわざわざ自分に会いに来た理由は何なのか? という零の質問に対し、しどろもどろになりながらも意を決したように拳を握り締めた陽彩は、ぎゅっと目を閉じると大声で彼へと叫ぶ。
「ぼ、ボクと一緒に……スタバトの大会に出てくれませんかっ!?」
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