彼の、感謝



『う~ん……そうっすね。配信の最中は絶対これ炎上するなって思ってましたし、実際に若干焦げ臭いことにもなったんですけど……最終的には、やってよかったかなって思ってます』


『ほう? その心は? やっぱ私らみたいな魅力的な女性たちに口説かれて、いい気分になれたからとか?』


 言ってろ、と普段通りの悪態交じりの台詞を自分に詰め寄ってきた愛鈴へとぶつけ、笑みを浮かべる枢。

 皿の上に焼き上がったお好み焼きを乗せながら、彼は淡々とその理由を答えていった。


『今の話を聞く限り、2期生全員があの配信で手応えを感じたみたいじゃないっすか? 俺はそういうの特にないんすけど……みんながそうやって喜んでくれてる姿を見れるのなら、炎上のリスクを背負った甲斐があったのかなって。ぶっちゃけ、あの配信で愛鈴とかめっちゃ輝いてたしさ。ちょっと前にあんなことがあって、色々と心配してたけど……演技に対して真摯に向かい合ってるお前の姿が見られて、本当によかったよ』


『お、おお……!? なんか真面目に褒めてくれるじゃん。やっぱお前、私のこと大好きか~?』


『別に、お前だけじゃねえよ。俺は2期生全員が好きなの……自分も含めてな』


 珍しく真剣に自分を褒めてくれた枢へと愛鈴が照れ隠しの言葉を投げかければ、彼は自身の本心をさらりと口にしてみせた。

 連続して繰り出された猛スピードの直球に流石の愛鈴も閉口する中、枢は続けてこんなことを言う。


『みんながさ、あの配信を通じて自分の夢に1歩近付けたっていうんなら、俺はそれで十分だよ。俺はみんなの夢を応援したいって思ってるから、それが達成出来たなら何も言うことなんてない。こういう風に思えるようになった自分のことも多少は好きになれたし……まあ、そんな感じかな』


【くるるん、語るん……! 内容がエモエモのエモでしゅき……!】

【デビュー直後の炎上を考えると、ここまで同期たちと絡めるようになったのも奇跡だよな。これも全部、枢が色んな物事に逃げずにぶつかったからだろ】

【2期生全員炎上してて、全員が何らかの形で枢の世話になってるっていうのが凄い。誇張表現抜きでメイン盾になってる】

【こうして同期が揃って仲良くしてる配信が観れるだなんて、数か月前は想像もしてなかったもんな……】

【枢も夢に向かって歩き続けてる。俺たちはずっとお前を応援してるぞ!!】


『サンキュ。放火されたり煽られたりしてムカつくこともあるけど、お前らにも感謝してるからな』


 同期たちの感想に対してそう語った後、リスナーたちへと感謝を告げる枢。

 彼のその言葉や素直な態度に多少驚きながらも、芽衣たちもまた話に乗って枢へと感謝の気持ちを伝えていった。


『考えてみれば、デビューしてからずっと枢くんにはお世話になりっぱなしだね。いつか、その、絶対にこの恩は返すから!』


『お姉さんも枢くんにはおっきな借りがあるからな~……おっぱい揉ませるとかの冗談抜きで、本当に感謝してるさ~。にふぇーでーびる、枢くん!』


『迷惑も心配も負担もおがげすて、ほんにかにな本当にごめんなさい。蛇道さんがいだはんで、わーも少すは成長出来だって思えでら。どうもありがとうございます


『……正直、こうしてあんたが殴り合ってくれるお陰で凄く助かってる。1度しか言わないからよく聞いときなさいよ? ありがとうな!!』


『ははっ、な~んか妙な感じ。俺がこうして誰かに感謝されるようになるなんてなぁ……』


 同期たちからの感謝の言葉は流石に効いたのか、あるいはここまでの赤裸々な本心の告白の羞恥が今更になってやってきたのか、枢が気恥ずかしそうにそう呟きながら顔を伏せる。

 数か月前のデビュー直後の頃……いや、それよりずっと前から続く自分自身の人生を振り返った彼は、今、こうして自分が親しい友人たちに囲まれながら感謝されているという現実が、どうにも夢であるかのように思えていた。


『うん、まあ、その、なんだ……こういう風にみんなが俺の存在を認めてくれるようになって、俺としては凄く嬉しいです。これからも頑張っていきますよ、はい』


 適当なようでいて、自分自身の胸の内にある感情をしっかりと吐露した枢がこの恥ずかしい雰囲気に終止符を打つかのように感謝の流れを締める。

 そして、こういう雰囲気をぶち壊してくれることに定評がある母親ママの顔を思い浮かべながら、次の配信の振り返りを行っていった。


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