お買い物、夫婦二人


「えっと、粉にお餅に青のりにかつお節……乾物エリアで買うもの、いっぱいあるね。大丈夫? 重くない?」


「平気だよ。早く喜屋武さんたちと合流するためにも、必要なものを探しちゃおう」


「うん!」


 野菜エリアで必要なものをかごに入れた後、一旦零たちは二手に分かれて買い物を続けることにした。

 有栖と共に乾物が置いてある棚が並ぶスペースにやって来た零は、最も重要なミックス粉をはじめとした材料を次々と買い物かごの中に放り込んでいく。


 メインの材料だけでなく、トッピングとなる青のりやかつお節といった材料から味付け用のおたふくソースなども手慣れた様子で探し出していく零に対して、横を歩く有栖がこんな質問を投げかけてきた。


「零くん、やっぱり買い物は得意なの? 凄く慣れてるよね」


「買い物が得意っていうか、ただ慣れてるだけだよ。大体、スーパーの陳列って似たような感じだし、どこに何があるかは予想出来るからさ」


 そう言いながら餅の袋をかごに入れる零。

 自分が手を貸さずとも、ほいほいと必要な物を見つけ出してしまう彼の慣れっぷりに驚きつつ、ちょっと焦っていた有栖は、足元に並ぶサラダ油の容器を発見するとぱあっと笑みを浮かべながらそれを零へと差し出した。


「こ、これ! 必要だったよね!?」


「あ、うん。ありがとう、有栖さん」


 自分の手からサラダ油を受け取り、それをかごに入れた零の姿を見て、彼の役に立てたことを喜ぶ有栖であったが……冷静に考えてみると、今の自分が親の買い物を手伝う子供そのものであることに気が付いてちょっとした羞恥を覚えてしまった。

 これじゃあスイのことを言えないぞと、自分の子供っぽさを恥じた彼女は、溜息と共にその考えを呟きとして発する。


「なんだか私、子供みたいだね。お買い物の手伝いをしてる、零くんの娘みたい」


「うん? 別にいいじゃない。俺は助かってるし、楽しいよ」


「そうかもしれないけどさ……こういう形じゃなくって、もっと対等な形でお買い物してみたいなって。親子みたいな感じじゃなくって……そう、夫婦みたい、な……!?」


 零におんぶにだっこな状態ではなく、彼とお互いに並んだ形で買い物をしてみたいと語った有栖は、それを最もわかりやすく形容する表現として夫婦というワードを口走ってしまったわけだが、言った後で急に恥ずかしさが込み上げてきたようだ。

 咄嗟のこととはいえ、なんて大胆なことを言ってしまったんだ……と、自分の発言を恥じる有栖であったが、零の方は意外なくらいに落ち着いた反応を見せている。


「はははっ! 夫婦って、流石にそれはマズいよ。ま~た炎上しちゃう」


 からからとそう笑いながら自分へとそう言う零の様子に、彼が必要以上に今の発言を気に留めなかったことを察知して安堵する有栖であったが……同時に、そこまで軽い受け止め方しかされなかったことに不満を抱いてもいた。

 これではなんだか自分だけが意識しているみたいで、余計に恥ずかしいではないかという想いのままにぷくっと頬を膨らませた有栖は、軽く零の背中をぽこぽこと叩く。


「いたたたた。有栖さん? 急にどうしたのさ?」


「……知らない」


 まるでじゃれついてきた子供にそうするように自分に接する零の反応にやっぱり悔しさを感じてしまった有栖は、ほんのりと赤く染まった顔を隠すように彼から顔を背けると、そっけなく接してみせるのであった。

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