短編・2期生、お買い物に行く

予定変更、新計画へ移行


「足りない! 全っ然足りない!!」


 PCと睨めっこしていた天が、悲しみの感情を込めた声で叫ぶ。

 【CRE8】事務所、貸しスタジオにて夜から行われる配信のための話し合いを行っていた2期生たちは、彼女のその叫びにびっくりしながらも突っ込みをいれた。


「足りないって、予算がってことっすか? んなわけないでしょ。17000円っすよ? 17000円! 仮に2000円を飲み物とかデザートで使ったとしても、15000残るじゃないっすか」


「そりゃそうなんだけどさ……思ってたよりも高いのよ、寿司が! 何よこれ? 1人前10貫セットが2000円ってヤバすぎない?」


「10貫……お皿に直すと5皿……わー、そんなんじゃ全然足りね……」


「そんな高い店じゃなくって、スーパーの寿司でも買えばいいじゃないっすか。それなら資金も足りるでしょう?」


 張り切って良い店を選ぼうとするからそんな目が飛び出るような金額になるのだと、リーズナブルな価格で十分に腹を満たせる大衆的な寿司でいいじゃないかという提案をする零。

 彼の意見の正しさを理解しつつも、納得出来ないように顔を顰めた天は、顔を逸らしつつ自分の想いを呟く。


「零の意見は正しいけどさ……折角、私たち全員が協力して成し遂げた大型企画の打ち上げみたいなものなんだから、パーッと盛大にいきたいじゃない。それに、スイちゃんだって滅多にこっちに来れないわけなんだから、美味しい物を食べて楽しい思い出を作ってほしいしさ……」


「う~ん……そうだよね。楽しい思い出を作るためにもお金に糸目をつけたくないっていう天ちゃんの意見も、堅実に予算内で準備が出来るように安いものを買おうっていう零くんの意見も、どっちも正しくて困っちゃうよ~」


「お腹いっぱい食べたいけど、美味しいものも食べて。わー、わがままだな……」


 予算内で支度をしろという零の意見は尤もだが、折角の機会なのだから全員で楽しい思い出を作りたいという天の意見もまた間違ってはいない。

 特に、今回は2期生全員が協力して行った大型企画である2期生ウィークの実質的な打ち上げであり、オフコラボで揃って食事や会話を楽しめる数少ない機会なのだから、その思いもひとしおだろう。


 となると、安さと量とクオリティを両立している寿司屋を見つけ出すしかないわけだが、そんな店が都合よく見つかるだろうか?

 リアリストが過ぎる自分の考えに対しての天の意見に頷ける部分がある零が、そんなことを考えていると――


「あ、あの、ちょっと、いいでしょうか……?」


 ――悩んでいた同期たちの間にある停滞した空気を振り払うかのように、おずおずとした様子で挙手した有栖が自分の意見を述べるために口を開く。

 一斉に彼女へと視線を向けた2期生たちが視線でどうぞと彼女の話を促してみれば、有栖はやや緊張した面持ちでこんなことを言った。


「べ、別に、その、お寿司を食べる必要はないんじゃないかなって、私は思うんです。確かに豪華で準備も必要ないですけど、今の状況にマッチしていないのなら、固執する必要もないのかなって……」


「……なるほど。確かにそうだね。大事なのは寿司を食べることじゃなくて、全員で美味しいものを食べることだし……有栖さんの言う通りか」


「言われてみれば、寿司に固執し過ぎてたかもね。世の中には美味しいものが山ほどあるんだから、他のものでもいいわけか」


「ならわー、ケーキ食いで! 大ぎぇホールケーキ買って、みんなで食うべよ!」


「うん、いいね~! それじゃあ、近くのケーキ屋さん探して、豪華でおっきなケーキを買って食べようよ~!」


 有栖の意見を受けた一同は、一旦寿司を食べるという計画を白紙に戻し、スイが食べたいと要望を出したケーキの方に予算を再分配することを決めた。

 早速、PCで近場の洋菓子店を探し、そこに売っているホールケーキを予約した天は、そこで使った金額を予算からマイナスしてから改めて同期たちへとここからどうするかを尋ねる。


「ケーキが5000円で、飲み物とか紙コップなんかの食器代を全部合わせて大体2000円と仮定して……まだ残り10000円は残ってるわね。メインディッシュ、どうする?」


「……思ったんだけど、別にその金って今回の打ち上げで使い切る必要もないっすよね? 余ったら貯金しておいて、次の機会で使えばいいわけっすし」


「そうだね~! コツコツ貯金して、それが十分に貯まったらお寿司を食べに行けばいいさ~!」


「なら……今回は安くて美味くて量のあるものを、みんなで作って食べますか? それはそれでいい思い出になると思いません?」


「作るって……だ、大丈夫? 言っちゃ悪いけど私ら、料理出来ない人間が過半数超えてるわよ? それに、5人分の料理を準備するのって大変なんじゃ……?」


「ああ、大丈夫っすよ。そういう諸々を解決出来る料理があるんで」


 天の懸念に対して、ニヤッと笑った零が自身の案を同期たちに話す。

 彼の提案を聞き、なるほどといった様子で頷いた2期生たちは、本来の予定を大幅に変更した計画を再立案してそちらに舵を切ることを決めたようだ。


 そんなわけで、急遽メインディッシュを自作することにした彼らを代表し、沙織が元気いっぱいに仲間たちへと叫ぶ。


「そうと決まれば買い出しさ~! みんなでお買い物、行っくよ~!」

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