第4試合後攻・羊坂芽衣


『……まだ、起きてる? 急にごめんね。なんだか寝付けなくって、枢くんさえよければちょっとお話したいなって……』


 そんな、謝罪交じりの台詞から始まった芽衣の演技は、さくらのそれとは真逆の静かな立ち上がりを見せている。

 少しずつ『バイカムⅡ』との距離を縮めることで枢の傍に近付く様子を表現しながら、彼女は更に言葉を重ねていく。


『一緒に寝てもいいかな? ……うん、ありがとう。ふふっ、やっぱり枢くんは優しいね』


 彼に甘えながら、その優しさに感謝する芽衣。

 ふわりとした柔らかい微笑みを想起させるような笑い声を口にしながら本格的に添い寝の態勢を整えた彼女は、いよいよ本格的な演技を見せ始めた。


『ふ、ふふふ……! なんだかこうしてるとさ、初めてコラボした時のことを思い出すね。覚えてる? ワレクラでもこうして2人で寝ちゃって、めいとのみんなや枢くんのところのリスナーさんたちに怒られたこと。凄く、懐かしいなぁ……』


 過去の思い出を振り返るような、懐かし気な声でそう言った芽衣が目を細める。

 シチュエーション的には、彼女と枢が出会ってから大分年月が過ぎているのかと、今の台詞から2人が数年の月日を経て沢山の思い出を重ねていった関係性であることを理解したリスナーたちが見守る中、芽衣は枢へと自身の気持ちを伝えていった。


『あれから、色んなことがあったね。大変なこともいっぱいあったけど、枢くんと一緒だったから乗り越えられたよ。あなたと一緒だったから毎日楽しかった。本当にありがとう……枢くん』


 傍にいてくれたことへの感謝を、積み重ねた思い出の中に在る彼の姿を思い浮かべながら芽衣が告げる。

 そのまま、『バイカムⅡ』の頬部分を撫でながら口を開いた彼女は、枢へとこんな問いかけを投げかけた。


『枢くんは、どう? 私と一緒にいて、楽しかった? ……そっか、よかった。じゃあさ――』


 誰もが想像した通り、優しい枢からの肯定の返事を聞いたであろう芽衣が柔らかい安堵の笑みを浮かべる。

 そこで一旦言葉を区切り、思い切り耳元まで唇を近付けた彼女は、たっぷりの愛情を込めた囁きで自身の演技を締めくくってみせた。


『これからも楽しい思い出を一緒に作っていこうね。ずっと、ずっと……2……ね?』


 これから先の未来を共に進んでいくことを約束するようなその囁きを耳にした一同が揃って息を飲む。

 ホットココアをゆっくりと飲み干したような……甘く温かい感覚を胃の辺りに覚えた面々が色んな意味で声を詰まらせる中、そんな彼らの思いを代弁するかのように、愛鈴がボソッと感想を述べた。


『もうこれが優勝でいいんじゃない? 誰かこれを超えられる人、いる?』

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