第4試合先攻・春日野さくら



 さくらの言葉と共に、配信画面が彼女の立ち絵を大写しにしたものへと切り替わる。

 軽い咳払いの後、添い寝ボイスに相応しい演技を開始した彼女は、底抜けに陽気な声で枢の名を呼んだ。


『うぉ~い、枢きゅ~ん! お布団、お邪魔するね~! にゃはは! そうそう、お姉さん、酔っちゃってるのだ~!』


 司会進行役を務めていた時のきっちりとした雰囲気を一変させ、軽薄で陽気な酔っ払いとしての自分自身を演出するさくら。

 強引に布団の中に入り込んだ彼女は、そのまま『バイカムⅡ』の耳元でややエロティックな演技を続ける。


『ん、ふぅ……緊張してる? こういうの初めて? え? 酒臭いぃ? もう、そういうこと言う男の子はモテないぞ!』


 酔っ払いの大胆さと、締まらない雰囲気を上手く両立させているさくらの演技は、距離感や諸々の要点を踏まえても十分に心臓を高鳴らせるものだ。

 完全にお色気に振るわけではなく、ある程度の接しやすさを含めて酔っ払いと添い寝の演技を続ける彼女は、ここで大胆な攻撃に打って出る。


『ふ、ふふふ……! 赤くなっちゃって、可愛いんだから……! ちょっといたずらしちゃおっかなぁ……!!』


 色香が漂う吐息が耳元に吹きかけられたかと思えば、その後に続いてぴちゃり、ぬちゅりという生々しい音が枢と視聴者たちの聴覚と脳を襲った。

 耳舐め……愛撫であり、責めでもある舌遣いで言葉通りに相手の耳を舐めるそのテクニックは、熟練のASMR職人であるさくらだからこそ出来る秘奥義とでもいうべきものだ。


『じゅぅ……♡ はふぁ♡ ぐりゅっ、ぐりゅっ♡ ちゅるぅ……♡ ふぅぅ……っ♡』


 穴を穿るように、輪郭をなぞるように、唾液が含んだ舌で弄ぶように……様々な手法で耳舐めの音を響かせながら、エロティックな吐息の物音を聞かせることも忘れないさくらは、最後にふぅと優しく強い息を『バイカムⅡ』へと吹きかけてから甘い声で囁く。


『どうする……? 反対側の耳もやってあげようか? 正直に言えたら、ご褒美としてもう1回気持ちいいことしてあげる、よ……』


 これまでこの配信を引っ張ってきた真面目なキャラクター性はなんだったのかと思わせるくらいの豹変ぶりを見せ、枢と視聴者たちを誘惑するさくら。

 彼女の声に、吐息に、そして耳を舐める舌の動きに完全に脳を蕩けさせられてしまったリスナーたちは、もう1度耳舐めボイスを聞かせてくれとコメント欄で必死の懇願を行っている。


 枢が炎上するとか、嫉妬民が湧くとか、そういうレベルの話ではなかった。

 下手をすれば案件であるはずのこの配信がサイトから有害であると判断されてBANされかねないような、そんなギリギリの演技を見せたさくらは、本当にすれすれのところでその演技を止め、纏っていた妖しい雰囲気を解除する。


 そして、少しだけ気恥ずかしそうな表情を浮かべながら、審査員である枢や出演者たちへと演技の感想を尋ねてきた。


『あはは……! どうだったかな? 私としては、かなり頑張ったんだけど……』


『頑張り過ぎだよ~! 流石に耳舐めボイスはやり過ぎだって~!』


『あはは、ですよね~……でも、花咲さんの演技もかなりアウト寄りだった気がしますよ?』


『いや、今のあんたの演技と一緒にしたら花咲さんに失礼でしょ! 私が言うのもなんだけど、ヤバいって!』


 たらばとなぎさの夏色コンビからの突っ込みを受けたさくらがてへっとおどけた雰囲気の笑みを浮かべる。

 かなりギリギリというか、明らかにラインを越えてしまっているような彼女の演技にスタッフたちもやや動揺気味になる中、出演者たちは改めてその感想を述べていった。

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