まあ、当然だよね


 枢の言葉に耳を傾けるリスナーたちの、同期たちの、心臓の鼓動が期待と緊張で早くなっていく。

 この状況下で彼が優先する人物は誰なのか? 彼が最も大切に想っている人物は誰なのか? という問いに対して、枢が答えたのは誰もが予想していた人物の名前だった。


『――トップバッターに選んだのは、芽衣ちゃんです』


【よぉぉぉぉしっ! よしっ!!】

【ベネ! やっぱりくるめいなんだよなぁ!】

【¥10000 くるめい過激派さん、から】

【お前はやってくれる男だと信じていたよ、枢!】

【まあ、太陽が東から昇ってくるのと同じくらい当たり前のことだと思ってたよ、俺はね】


『うんうんうん、まあまあまあ、ここはお姉さんもそうだろうと思ってたよ』


『2人の間さ入り込める気がすねもんね……』


『波乱は起きず、か……つまんねえの』


 芽衣を最優先した枢への賞賛のコメントが飛び、リスナーたちが当たり前ながらもその結果が順当に出たことに歓喜する。

 そんな中、気恥ずかしそうにしている枢へと、たらばが選考理由についての質問を投げかけた。


『で? 芽衣ちゃんを1番にした理由は? そこも含めて、このランキングだと思うから、教えてほしいさ~!』


『いや、まあ……普通に考えて、1番にしない理由がないですよね。仲の良さとか、恩の大きさとか、絡んだ順番もそうですし、やっぱり俺も初めては芽衣ちゃんがいいかなって』


『そりゃそうよね。むしろここで私なんかを1番手なんかにしたら、どうして芽衣ちゃんを選ばなかったんだってリスナーたちから袋叩きに合うに決まってるもの』


『そういう損得勘定もありはするけどな。でもやっぱ、4人の中で誰を優先するかって言われたら、諸々の事情を抜きにしても芽衣ちゃんを選ぶと思うよ、俺は』


『うっひょ~っ! 枢くんってば、大胆~っ! で? 芽衣ちゃん的には、1番に選ばれてどうなの?』


『え、ええっとぉ……そう、ですね……』


 自分でも予想はしていただろうが、改めてそういった結果が出た時に味わう恥ずかしさを拭い去ることは出来ないのか、若干しどろもどろになりながら芽衣がたらばの質問に答えを返す。

 少し思い悩み、心の中にある感情を言葉として紡いで口から発した彼女は、素直な感想を枢とリスナーたちの前で述べていった。


『ほっとした……かな? やっぱり、枢くんて私なんかと違ってコミュニケーション能力が高いし、柳生先輩とか獅子堂先輩にも気に入られてるみたいだし、交友関係の幅が広がっていくのを見てると、遠くに行っちゃったような気がしてたから……1番に選んでもらえて安心してるし、嬉しいよ』


『どんなに交友関係が広がっても、芽衣ちゃんを蔑ろにはしないよ。色々とね、大切なことを教えてもらった人だからさ』


【言ったな? その言葉に掛けて、一生芽衣ちゃんを大切にしろよ!】

【やっぱくるめいなんだよなぁ……! 教会ここに建てるか?】

【ご祝儀¥30000 ニヤニヤニーヤさん、から】

【リスナーの中に神父様はいらっしゃいませんか!? 結婚式に必要なんです!】

【恋人であり夫婦であり親友でもある。てぇてぇの塊だな、くるめいは】


 なんとも甘酸っぱく、心が踊ってしまうような空気に包まれた配信の中、リスナーたちが思い思いにコメントを送ってその空気を盛り上げる。

 この時点で半数ほどのリスナーたちは知りたかった部分を知れたが故に十分な満足感を味わっていたが、残りの半分はむしろ本番はここからであると考えているようだ。


 枢が最優先する同期は間違いなく芽衣。そこは天変地異が起こらない限り……いや、起こっても揺るぐことはないだろう。

 故に、大事なのはここから先の順位であり、芽衣を殿堂入りだと考えた場合、次に名前を挙げられた人物こそが実質的な1位だと考えていいはずだ。


 というわけで、くるめいのてぇてぇを堪能した一同は、2位であり1位でもある人物が誰であるのかという期待を胸にしながらその発表を待ち続ける。

 ややあって、再び順位発表に戻った枢は、シンと静まり返った配信の中、大きく息を吸い込むと……とても嫌な表情を浮かべ、肺に溜まった空気を深く吐き出しながら、心底不本意だという雰囲気を纏いつつ、2番手として選んだ女性の名を配信を見守っている面々へと告げた。


『え~……芽衣ちゃんに続いて2番目に選んだ同期ですが……信じられないことに、愛鈴となっております。ええ、愛鈴です』

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