まさかの、弱点
(よっしゃラッキー! 障害物が少ないステージを引けた!!)
そんなこんなで始まった第3戦目の試合。舞台となるステージに飛ばされた枢は、周囲を見回して心の中でガッツポーズをしていた。
見渡す限り、広大な畑。
中央に巨大な家のようなものは見えるが、それ以外は背の高い枯れかけのひまわりが並ぶ花畑が広がっており、発電機と発電機の間も中々に距離が空いているハンター有利なステージのように思える。
なにより、今自分が使っているキャラクターとの相性が抜群のステージを引き当てたことにほくそ笑んだ枢は、早速といった感じで周囲の哨戒を始めた。
『うわっ、ひっろぉ……! 障害物少なぁ……!』
『視界、通っちゃってますね。遠くからでも簡単に見つかっちゃいそう……』
『でもそれはこっちも同じだよ。遠くに枢くんを見つけたら、大急ぎでそこから離れればいいさ~』
『い、1戦目の姿を消せるハンターを使ってないといいなぁ……!』
開始早々、女性陣もこのステージの特徴に気付いたようだ。
情報交換をしながら、気を付けるべき点を注意し合う彼女たちは、確実に連携が取れるようになってきている。
それでもまだ、運が味方してくれている自分の方が優位を握っているはずだと考えた枢は、チェーンソーでの移動と攻撃は切り札として隠し持っておくことに決め、徒歩での捜索を行っていく。
『どこだ~? どこにいるんだ~?』
視界が通っているこのステージでは、ひっそりと隠れて移動することは難しい。
発電機同士の距離が離れていることも相まって、隠密行動はかなりの難易度を誇っているだろう。
だから、注意深く周囲を捜索すれば……自ずと、動き回る人影が目に付く。
音を立てないようにしゃがんで行動する小さな人影を見つけた枢は、その人物の下へと駆け寄りながら楽しそうに彼女の名前を呼んだ。
『芽~衣ちゃ~ん! あっそびっましょ~っ!』
『ぴえぇえっ!? み、見つかっちゃいましたぁぁっ!』
第一発見者となってしまった自分の不幸を呪いながら、追いかけてくる枢から距離を取るべく必死に走る芽衣。
発見した時点で距離が空いていたこともあり、一心不乱に逃げればそう簡単には追い付けない状況になっている彼女は、わき目も振らずに逃げの一手を打ち続ける。
数少ない障害物である岩が並ぶ地点を抜け、明るさが消え失せている枯れたひまわり畑へと芽衣が走る最中、残りの3人もまたその時間を無駄にしないように動きを見せていた。
『芽衣ちゃん、敵の種類はわかる? 能力は使われた?』
『ごごご、ごめんなさい~! 振り返る余裕がなくって、きちんと見れてません! でも、ちらっと見た感じ、これまで見たどのハンターとも違ったと思います!』
『またキャラ変えしたのか!? 今度はなんだ?』
『能力がわがねっていうのはやっぱりおっかねだね……』
ハンターの種類と、その能力の確認を真っ先に行おうとする女性陣の会話を聞いた枢は、そろそろ頃合いかと浮かべていた笑みを強めた。
邪魔な岩がない、開けた土地にまで芽衣を誘導することにも成功したし、ここでなら『J.J』の能力を遺憾なく発揮出来るぞ、と全てが思惑通りにいっていることに心を昂らせた枢は、コントローラーのボタンを押してチェーンソーダッシュのチャージを開始する。
『とにかく、芽衣ちゃんが追われてる間に発電機を少しでも多く回しちゃおう! 幸い、発電機同士の距離は空いてるから、そうそう簡単に枢くんが顔を出すことはないと思うし……』
(あと少し! もう少し!)
冷静に作戦を練り、仲間たちにそれを伝えるたらばの声を聞きながら、枢は画面に表示されるバーが満タンになる数秒間が待ち切れないとばかりに胸を高鳴らせていた。
このバーがMAXまでチャージされた瞬間、女性陣を心の底から震え上がらせる恐怖の宴が幕を上げるのだと……その時のことを想像した彼が過去最大級に悪い笑みを浮かべる中、遂に待ち望んだ瞬間がやって来た。
『よっしゃ! チャージ完了! 芽衣ちゃん、びっくりさせてやるからな~っ!!』
『えっ? えっ!? えっっ!?』
近付いてきた芽衣の背中は視線の先、真っ直ぐに伸びたところにある。
障害物もなく、芽衣が『J.J』の能力を知り得ない今の状況なら、自分がチェーンソーでの攻撃を外すわけがない。
確実に彼女を仕留められるという絶対の自信を持ちながら押さえていたボタンから枢が指を離せば、限界までチャージされたチェーンソーを振り上げた『J.J』が芽衣との距離を縮めるべく、猛スピードで駆け出していった。
『ゴアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!』
狂った野獣を思わせるハンターの怒声。唸るチェーンソーの轟音。疾走する怪物の足音。
一瞬の内に芽衣の無防備な背中を捉え、そこに得物であるチェーンソーを振り下ろした『J.J』が彼女を仕留め、歓喜の咆哮を上げる。
とまあ、ゲーム内の展開としては枢が思い描いていた通りになったのだが……ちょっとした予想外がここで発生していた。
自分が芽衣をダウンさせる寸前、というより、『J.J』がチェーンソーを唸らせて走り出してから1拍の間をおいて、全てのゲーム音を掻き消すような女性の叫びが響き渡ったのである。
『ひにゃああああああああああっ!?』
『えっ!? な、なになに!? どうしたの!?』
『
その声を耳にした愛鈴とリアが、枢と同じような驚きを感じながら大声で叫ぶ。
予想外の事態に対する驚きと、何が起きているのかを理解出来ていないが故の困惑が入り混じった声を上げた2人へと、枢の攻撃を受けてダウンした芽衣がおずおずとした雰囲気でこう述べた。
『え、ええっと……やられちゃったのは、私です。でも、今の悲鳴は……』
実を言うと、彼女もチェーンソーダッシュでの攻撃を喰らった時、結構な大声で悲鳴を上げていた。
の、だが……それすらも凌駕する声量の悲鳴が響いたことで逆に冷静になった彼女は、その悲鳴を上げた人物へと不安げな声で質問を投げかける。
『あ、あの……花咲さん? その、なにかあったんですか?』
『ひ、ひぃ……! ひゃあああ……!?』
攻撃を受けた自分よりも大きな声で叫んだたらばの安否を気遣い、彼女へと問いかける芽衣。
ここまで冷静だった彼女が急に我を忘れて悲鳴を上げたことで、まさか現実の方で何かトラブルがあったのでは……? と危惧する一同であったが、本当に珍しく震え声になっているたらばから返ってきたのは、誰にとっても予想外の答えであった。
『ちぇ、チェーンソー……!』
『え? ど、どしたの? チェーンソーがどうかした?』
倒れた芽衣を拾い上げることもせず、他の同期たちと共にたらばを心配していた枢が彼女の言葉に更に問いかけを発する。
その問いに答えるようにして必死の声で叫んだたらばは、知られざる自身の最大の弱点を同期とリスナーたちの前で告白してみせた。
『私、チェーンソーの音だけは駄目なんさ~! あの音だけは……どうしても苦手なんよ~っ!!』
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