3戦目・準備中
『あうぅ……結局、わーだげ脱出出来ねがった……何度も助げに来でくれだばって、申す訳ね……』
『あれは枢くんの立ち回りが上手だったからしょうがないよ。1回攻撃受けたらダウンするリアちゃんを徹底的に狙ってたもんね~』
『弱ってる女の子を執拗に狙うなんて、本当に性格が悪いな!』
『……お前にだけは言われたくねえ』
『うわぁ……! 凄く感情が籠ってる……!!』
キャラクターを変えての第2試合は、連携を取り始めた女性陣を何とか捌き切って捕まえたリアを脱落させることは出来たが、それ以上の成果を挙げることが出来なかったという結果で終わった。
遠距離攻撃は有用であったが、1人に時間をかけ過ぎると残りの3人が自由になる時間が増えてしまうという多対一の勝負において至極当たり前な数の不利というものをこの1戦で強く実感した枢は、その差を埋めるための方法を模索していく。
2戦目の試合の最中にも考えたが、やはり必要なのは相手の連携を崩すことだろう。
その方法としてまず真っ先に挙がるのは、瞬間的に敵を仕留めるというものだ。
相手が修理や救助といった連携を取ることを考えさせなくなるくらいに素早くランナーを仕留め、自由に動ける人数を減らしていく。
最初の『炎武者』での不意打ちを成功させた時のように、なにがなんだかわからず混乱している内に場面を制圧してしまえば全滅も狙えると踏んだ枢は、それを踏まえて次に使用するキャラクターを吟味し始める。
ハンターが所持している能力を確認し、自分の求めている要素と噛み合うキャラクターを探し続けた彼は、とあるハンターの能力説明を見て、PC画面の前でにやりと笑った。
(こいつだ! こいつなら、全滅だって狙えるぞ!)
―――――――――――――――
『
元は何処にでもいる気の優しい青年であったが、仕事中に家族と恋人を押し込み強盗に殺されたことで精神が崩壊し、殺人鬼と化してしまった。
自身の大切な者たちの命を奪った強盗集団を1人ずつ追い詰め、チェーンソーで四肢を切断してから嬲り殺すという残虐な殺人事件を連続して起こし、最後の1人を仕留めて復讐を完遂したところを逮捕される。
史上稀に見る悲劇の殺人鬼として彼の裁判には注目が集まったが、ある日、厳重に警備されていた特別房から大量の血痕だけを残して彼は姿を消し、警察の懸命の捜査も空しく、なんの手掛かりも見つけられないまま、数十年の月日が過ぎた。
人々が彼のことをすっかり忘れてしまった頃、かつて一家惨殺事件が起きた建物に恐ろしい化物が住み着いているという話がまことしやかに囁かれ始めた。
血まみれのチェーンソーを片手に侵入者を容赦なく切り裂くその化物は、どこからどう見ても悪魔か怪物としか思えないだろう。
だが、しかし……もしかしたら彼は、ただ家族と過ごした日々を思い返しているだけなのかもしれない。
あの日、守ることが出来なかった大切な家族のことを想いながら思い出の地を守り続ける彼の安息を踏み躙る者は、例外なくチェーンソーの餌食となるだろう。
能力はチェーンソーによる高速移動と一撃必殺の突進攻撃。
能力を発動後、数秒のチャージの後に前方へと突進。障害物かランナーに当たるまで走り続ける。
この時は旋回性能が大幅に低下するものの、移動速度は他の追随を許さない。
突進中にランナーと接触した場合、チェーンソーを振り下ろして一撃でダウンさせることが出来る。板も高速で破壊出来る。
その特性上、建物内や障害物が多いステージでは非力だが、逆に開けた土地だと無類の強さを発揮する。
―――――――――――――――
多少の運は絡むが、1発で相手をダウンさせられる能力というのは非常に魅力的だ。
しかも、能力を上手く使えば移動だって早くこなせるし、相手のかく乱と殲滅を狙うにはうってつけの能力ではないか。
『J.J』の能力を確認した枢は、一目惚れに近しい気持ちのままに彼を選択し、4人の準備が完了するまで待った。
その最中、ああでもないこうでもないと作戦会議を行う女性陣へと、彼は自信満々な様子でこう告げる。
『さ~て……! 次は俺、全滅狙っちゃいますよ~! 覚悟してくださいね~!!』
『おっ、言うねぇ!! でも、こっちだって段々とゲームに慣れてきてるんだから、そう簡単にはいかないさ~!』
『こっちこそ次のゲームでは全員で脱出してやるからな! 見てろよ!』
【どっちも自信あり気だな! くるるんも上手いし、他のメンバーも立ち回り理解してきたから、いい勝負になりそう!】
【遂に本気のくるるんが見られるか!?】
【全員(邪神のところに)お持ち帰りなんてしたらまた枢は燃えるな、可哀想に】
枢の強気な発言にこれまた強気な発言を返すたらばと愛鈴の反応もあってか、リスナーたちも次のゲームに期待を募らせてくれている。
この盛り上がりなら、全滅させた時は勿論だが、全員を逃がしてしまっても十分に録れ高になるなと、どう転んでも美味しい状況になったことをほくそ笑む枢であったが……この時の彼は知らなかった。
まさかこのゲームが、とんでもない展開を迎えるということに……!
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