数日後、しし座の配信



『いいんじゃないの、別に。アタシはそう思うけどな』


 愛鈴の復帰から数日が経った夜、雑談配信を行っていた獅子堂マコトこと玲央は、リスナーからの質問にそう答えた。

 無論、その内容は賛否両論ある先日の配信に関してのことであり、愛鈴に罵倒されたメンバーの1人でもある彼女は、流れるコメントを見つめながら更に続ける。


『誰だって失敗はするだろうし、やっちまったことを責めても仕方がない。だから、大事なのはその後そいつがどうするかだろ?』


【まあ一理ある。事務所がクビにしないって決めた以上、俺たちがどうのこうの言ってもしょうがないしね】

【やらかしの大きさ的にはそこそこだけど、別に1発アウトの罪ってわけじゃないからな……】

【それを踏まえても俺は嫌だな。禍根っていうか、不安が残るのは】


『気持ちはわかるけど、愛鈴もやらかしたことに関しては本当に反省してるし、アタシも謝罪を受けたよ。何よりアタシなんかよりも近しい位置にいる2期生があいつを見守るって言ってるんだから、そこはその意思を汲んでやるべきじゃないかな』


 そう言って、水を一口。

 後輩を庇う発言をした彼女は、それに対しても賛否が分かれている様子を目にして苦笑を浮かべる。


 それでもまあ、炎上するような激しい非難の声は上がっていないのだが、自分でさえこれなんだから天はもっと大変なんだろうなと思いつつ、玲央は話を前に進めていく。


『誰だって大きな失敗の1度や2度は経験するだろうさ。さっきも言った通り、大事なのはそこからどう動くかってことだとアタシは思う。少なくとも愛鈴には監視の目もあるし、手を貸す人間もいてくれるんだから、もう同じ失敗はしないだろうさ。それでもあいつがやらかしたら、その時こそ今回の件も合わせた罰を受けるべきなんじゃないかな。それまでは静観、っていうのが無難というか、一般的な周囲の反応だろ』


【でもCRE8自体に不信が募ってるからな……問題が起きた時の対処はもちろんだけど、問題が起きないようにするための対策とかを練ってるのかもわからないしさ】

【昼間に謝罪文を掲載したし、所属タレントが活動しやすいような体制を整えるって声明もあったけど、どこまで変わってくれるんだろうか?】


『あ~……そっか、そうだよな。事務所も色々と大変だ。その辺に関しては1期生の先輩であるアタシたちにも非があると思ってるんだよな。なんていうか、全員が自由にのびのびとやらせてもらうために、敢えて縛りを緩くしてもらってたところがあるしさ』


【乙女とか特にそうだ。あれはフリーダムが過ぎたけど、あいつが開花したのは事務所側の緩さがあってこそだと思う】

【自由なのが売りだったし、そのお陰で伸びたVも沢山いるけど、今回の事件でその弊害が露わになった感じだよね】


『変わる時が来たんだろうね。自由と無法は似て異なるものだから、きちっとその辺を整備する時がやって来たんだよ。本来それは2期生募集の前にやっておくべきことだったって薫子さんも反省してた。今、マネージャーの増員とかアタシたちがメンタルやられた時に世話になるだろうケアスタッフの選定とかを進めてるみたいだから、口先だけではないみたいだよ』


 そう、慌ただしい事務所と薫子の動きをリスナーたちに説明した玲央が、あることを思い出して小さく噴き出す。

 あまりそういった反応を見せない彼女の珍しい姿にリスナーたちが驚く中、玲央は微笑みながら少し前の1期生が集合した時に見せた、ある人物の反応について彼らに説明し始めた。


『いや、ごめん。ちょっと前に事務所の体制変化についての話をされた時なんだけどさ、しゃぼん姉さんが――』


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