ここからが、再スタート
涙ながらに自分の行いを謝罪し、自分の中にあった懺悔の気持ちを吐露したスイが涙を拭う。
息を吸って、吐いて……自分自身を落ち着かせるために深呼吸を行った彼女は、PC画面へと視線を向けるとリスナーたちの反応を確認していった。
【なんかめっちゃ色々と混乱してるけど、リア様が滅茶苦茶反省してることはわかった。その上で言わせてもらうなら、リア様だけが悪いわけじゃあないからそこまで自分を責めないでほしいとは思う】
【俺は……どうだろう? 方言隠してたとかそういうのはどうでもいいけど、そのせいで2期生のみんなに迷惑を掛けてたって部分はまだちょっと許せない。でも、最終的に言っちゃえばラブリーの問題はラブリー自身の責任だと思うし、枢の件は事務所の責任だと思うからなぁ……】
【謝れて偉い! とか軽く言う気分にはなれないな。でも自分の悪かった部分をしっかり反省して、こうしてきちんと次に活かす姿を見せたのは本当に偉い】
【枢が倒れた原因はオーバーワークし過ぎたあいつにも責任がある。そういった仕事量のコントロールをしっかり出来ていなかった事務所にも問題はある。でも、原因の大半はリア様にあって、そういった意味で言うならば騒動の元凶はリア様なんだろう】
【難しいな。許してあげたいけど、今は気持ちが落ち着いてなくてどうにも無理だ。だけど、リア様の気持ちはちゃんと伝わったよ】
スイの告白と謝罪を聞いたリスナーたちの反応は様々で、そこまで反省しているならばと彼女を許す者もいれば、周囲に迷惑を掛け続けたことに関して猛省すべきだという意見を口にする者もいる。
ただ、それでも彼女が心から反省し、事務所や2期生の面々に対して申し訳ないという気持ちを抱いていることは、彼らにも伝わったようだ。
これで良かったのか、悪かったのか、今のスイには判断がつかない。
だが、最初の目的である自分の気持ちをしっかりと伝えるということが出来たという点に関しては、成功といえるだろう。
そして、これは終わりではなく始まりであり、ここからが真のスタートであるということをスイもわかっていた。
この件で芽生えた自分への反感を覆し、いつかこの失敗をファンたちが笑って話せるようになるまで努力すべきだと、そう理解している彼女は、送られてきたコメントに対してはっきりとした声で返答をした。
【リア様、これからどうするの? 責任取って引退とかしないよね?】
『それはしません。本気で責任を取るつもりなら、引退ではなく信頼の回復に努めるべきだと、私は思っています。星野社長も、蛇道さんも、きっとそう言うでしょう。こんな私のことを、これからも応援してくださいだなんて虫のいいことは言えません。私はただ……これまで私のことを応援し、期待してくれた人たちへの恩に報いるため、今度こそ自分自身に胸を張れる自分になるため、心を入れ替えて活動していくつもりです』
引退や活動休止といった選択肢は取らず、また事務所からもそういった処分はくだされていないと明言するスイ。
これから自分に寄せられるであろう批判を全て真っ向から受け止め、同じ過ちを二度と犯さぬよう尽力することこそが今の自分がすべきことだと考えている彼女は、この件で世話になった人物たちの名前を挙げながらその決意をリスナーたちへと伝える。
その回答に安堵したのか、リスナーたちはスイの決意を応援するようなコメントが多く送られてきていた。
【それを聞けて安心した。大変かもしれないけど、頑張って】
【枢も俺たちが考えているような最悪な事態に陥ってるわけじゃなさそうだし、帰ってきた時にしっかりやってるリア様の姿を見せてあげられるといいね】
【まだ全部を許せたわけじゃないから、これからも見守っていこうと思う。許すかどうか決めるのは、リア様の今後次第】
『……ありがとうございます。ほんの十数分のお話でしたけど、こうして誰かに自分の考えとか想いを伝えるのって本当に大変なんだなって、凄く実感しました。改めて……今回は、私のせいで多くの人たちに迷惑を掛け、大きな騒動の発端を作ってしまい、申し訳ありませんでした。もう一度、皆さんに信じていただけるよう反省し、信頼の回復に努めていきます。今日はこんな私の話に付き合ってくださって、ありがとうございました』
伝えるべきことは、伝えられたと思う。
改めて視聴者たちへと謝罪し、感謝し、その2つの気持ちを同居させながら頭を下げたスイは、顔を上げると配信停止のボタンをクリックした。
なにもかもを吐き出して、すっきりしたという気分にはなれない。
ここから新しいスタートを切るのだと、完全に気持ちを切り替えることもすぐには無理だろう。
だが、しかし……今まで隠していた自分を曝け出し、きちんと自分の言葉でファンたちに想いを伝えられたことで何かが変わるはずだ。
逃げないと決めたのだから、信頼と応援に応えると決めたのだから……自分はただ、真っ直ぐ前を向いて前に進もう。
「けっぱれ、わー。こごがらが、本当のスタートだぞ……」
零が戻ってくるまでの間に、自分の尻は自分で拭けるようになっておく。
それが再スタートの第一歩だと自分に言い聞かせたスイは、部屋の天井を見ながら1人呟くのであった。
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