配信終了、お疲れ様でした!


「ん~、お疲れさま~っ! いや~、いい汗かけて気持ちよかったよ~!」


「わた、しは、もう、だめ……死んじゃう、死んじゃうぅ……」


「……俺も死にそう、主に心が。わかっちゃいたけど、また軽く炎上してやがるしさぁ……!」


 それから1時間と数十分後、3人揃ってチャンネル登録者数が20万人を超えた零たちは、配信を切った後でそれぞれの反応を見せていた。

 本当は沙織が脱いだ辺りから蛇道枢のチャンネルが目標人数を超えていたのだが、どうせなら3人が揃って20万人を突破しようという話になり、配信の延長が決まったのである。


 その後、元気いっぱいに運動を続ける沙織こと花咲たらばもすぐに20万人に到達し、最後に残った有栖がひぃひぃと可哀想は可愛いを地で行く姿を見せつけた結果、羊坂芽衣のチャンネルも無事に登録者数20万人を突破した。

 そこで有栖が体力の限界を迎えたこともあり、挨拶と感謝の言葉を述べてから配信を終了した3人は、お互いの苦労をねぎらいながら、スタジオの後片付けについての話し合いを始める。


「取り合えず少し休んでから始めよっか! 有栖ちゃん、もう指1本も動かせないって感じだしさ~!」


「ですね……大丈夫、有栖さん? もう少し水飲む?」


「ぴえっ!? あ、だ、大丈夫、だよ。あんまり気を遣わなくても、平気だから……」


 沙織の意見に同意しつつ、自分たちの中で最も消耗している有栖を気遣う零であったが、びくりと体を震わせた彼女は近付く零から距離を取るようにして数歩後退った。

 その反応に何か違和感を感じる零であったが、そんな彼の肩をポンと叩いた沙織が、耳元へと顔を近付けるとこっそりと囁く。


「駄目だよ~、零くん。有栖ちゃんは今、自分が汗臭いんじゃないかって不安になってるんだからさ~……あんまり近付かないであげようね~」


「あ、な、なるほど……そういうことっすか……」


「零くん、気遣いは出来るけど女の子に対する扱いがちょっと足りないところもあるかな~? お姉さん的にはそういうデリカシーがないところも可愛いとは思うけど、有栖ちゃんにはもうちょっと気を遣ってあげなよ~?」


「うぐぅ……」


 確かに自分はデリカシーがないのかもしれないが、沙織は沙織で羞恥心というものがない。

 有栖と同じく汗をかいた状態だというのにも関わらず平然と零に近付いているし、こそこそと耳元に顔を近付けているせいで自分の胸が零の腕に当たっている状態も一切気にしていない様子だ。


 運動を終えたばかりなせいか、普段よりも若干温もりが増しているような大きな2つの果実の感触に顔を赤らめた零が小さく呻く中、沙織は有栖へと近付くと、彼女の不安を解消するための言葉を口にした。


「有栖ちゃん、まず先にシャワールーム借りて、汗を流してこよっか! べたべたしたままよりも、すっきりしちゃった方がいいもんね~?」


「あ、そ、そうですね……! 掃除してる傍から汗で汚しちゃったら、なんの意味もないわけですし……」


「そういうこと! ……零くんも一緒に浴びる~? お姉さんが背中を流してあげよっか?」


「喜屋武さんっ! 流石に冗談が過ぎますって!」


「あはははは! そんなに慌てちゃって、可愛いね~! わかってるって、冗談さ~、冗談! でも、一緒にお風呂に入ったら楽しいと思うよ~?」


 ケタケタと笑う沙織と、顔を真っ赤にする有栖の反応を目にしながら、ただでさえフィットネスゲームとプチ炎上で疲弊しているんだから、これ以上自分を追い詰めないでくれと思う零。

 だがしかし、その頭の中ではわずかではあるが2人の同僚たちの全裸姿を想像してしまっており、顔が赤くなっている原因の1つもまたそれであった。


 凹凸が少ないながらも少女としての愛らしさを色濃く残している有栖と、配信中に目の当たりにした上はパイナップル園、下は桃源郷といった具合の抜群のスタイルをした沙織。

 引きこもりであるが故に色白な肌と、沖縄の強い日差しに焼かれた小麦色の肌が彩るグラデーションを想像した零は、自分の中に生み出されたいかがわしいその妄想を必死に振り払いながら沙織たちへと言った。


「そんじゃあ、先にシャワーを浴びるってことで。荷物はここに置きっぱなしで大丈夫ですよね?」 


「うん! 着替えだけ持って、シャワールームに行けばいいでしょ!」


「シャワーなら心配ないですけど、あんまり長湯しないでさっさと上がりましょうね。後片付けもきちんとしなきゃですし……」


 取り合えずは体を綺麗にしてから後片付けをするという方針で決まった3人は、それぞれが用意してある着替えを取り出すべく荷物を漁り始める。

 有栖、沙織、零……という順番で横一列に並んで入浴の準備を進める中、ちらちらと自分を見る有栖の視線に気が付いた沙織が、小首を傾げながら彼女へと問いかけた。


「有栖ちゃん、どうかした? 私の顔に何かついてるかな~?」


「ふぇっ!? あ、いや、そうじゃなくて、その……あ、あんなに揺れてたのに、痛くなかったのかなって、その、喜屋武さんの……」


「ああ、おっぱいのこと? 有栖ちゃんが思ってるよりかは大丈夫だよ~! このスポーツウェア、結構キツめに胸を抑えてくれるからさ~、揺れによる痛みはそこまでないんだよね~!」


「ぶふぉっ!?」


 零のことを考えて敢えて声を落とした有栖の気遣いは、沙織の大声によって完全に無意味となった。

 不意打ち気味の発言に大いに噴き出しつつ、男である自分のすぐ近くで大声を出しておっぱいだの揺れるだの胸だのという単語を口にする沙織へと注意を行おうとする零であったが……その目線の先で、彼女がとんでもない行動を取る。


「どっちかって言うと痛いのは乳首の方なんだよね~。擦れると結構痛いし、痛みが後も引き摺るしさ~。このトレーニングウェアだと普通のブラジャーが使えないから、ほらっ!!」


「ぶへほぉおおっ!?」


 零が注意をするよりも早く、更にセンシティブな話題を有栖へと振った沙織が、あろうことかトップスをぺろんと捲り上げると惜しげもなくたわわな胸を曝け出してみせたのだ。

 至近距離でいきなり超弩級戦艦が出現したことに咳き込む零と、同じく唐突な行動に顔を真っ赤にして無言になる有栖の前で、笑顔の沙織はこともなげに自分の胸の頂点を指差しながら言う。


「こういう時はスポーツ用のニップレスが必需品なんだよね~! アイドル時代に奈々ちゃんに教えてもらってから、結構必需品になってるっていうかさ~! スポブラとかだとサイズが合わなくって大変だから、こういうピンポイントで大事な部分を守ってくれるアイテムはありがたくって~……」


「あ、あの、きゃ、喜屋武、さん……!!」


「ん~? どしたの、有栖ちゃん?」


「う、うし、うしろ……!!」


「後ろって……あっ!?」


「げほっ! ごほっ! ぐげほっっ!!」


 まるでここが女子だけの花園のような雰囲気で話している沙織へと、背後に零がいることを伝える有栖であったが……それがまずかった。

 彼女の指摘を受けた沙織は、言われるがままに振り返ってしまい……胸を放り出したまま、零と向かい合う形になってしまったのである。


 横乳を見るだけでも凄まじい破壊力があったというのに、それは2つ揃って真っ向から至近距離でばっちりと視認出来るようになってしまったのだ。

 唯一の救いは胸の頂点だけは沙織の言うとおりに黒色のシールのようなもので隠されていることだが、そんなもので根本的な問題を解決出来るわけがない。


 沙織は一瞬、やべっ! とでも言うような表情を浮かべたが、零に剥き出しの乳房を見られたことに怒りや羞恥といった感情は覚えていないようだ。

 舌をぺろりと出し、片目を閉じてウィンクをして……どこぞのお菓子屋さんのマスコットキャラクターを彷彿とさせる表情を浮かべながら、親指を立てたサムズアップを零へと向けて、彼女は言う。


「やったね、零くん! これはラッキースケベってことで、好きなだけお姉さんのおっぱいを見ていいよ~! 弾みもついちゃったことだし、このまま一緒にシャワーでも浴びちゃう~? とか、言っちゃったりしてね~! あはは~!」


「わ、わ、わ、笑い事じゃあないでしょうがっ! とっととその乳しまってくださいっ! あと、もう少し恥じらいってもんを覚えてくださいっ!! このままじゃ俺の身がもたない……胃が、胃が壊れる……!!」


 この状況下でどうして自分が苦しんで、沙織が笑い続けていられるのか? もう零にはなにがなんだかわからなくなっていた。

 沙織のことは好きだし、信頼もしているし、これからも仲良くしていきたいと思っているが、頼むからもう少しその奔放が過ぎる性格をどうにかしてほしい。


 さもないと、炎上とかそういった問題以前に、心労で自分の胃が壊れてしまうと……そう思いながら、ラッキーなはずなのにキリキリと痛み出した胃の疼きにその場に蹲った零は、この配信中にフィットネスゲームで流した汗よりも大量の涙を瞳から零すのであった。




 ……余談ではあるが、流石の沙織もこの出来事を誰かに話したらとんでもないことになるということは理解していたのか、これまでのようにうっかり口を滑らせるということはなかった。

 だがしかし、今回の配信で零が受けた心の傷(?)は思ったよりも深く、暫くの間彼は、【下向きの犬のポーズ】をしながら喘ぐ有栖の姿や【半分の立位前屈のポーズ】をする沙織の姿、そして最後に目にしたの光景を、夜な夜な夢で見る羽目になったそうな。

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