第220話「新生の付与魔術師」

【前置き】

今回は書籍版に合わせた設定変更になります。


アストラルオンラインの運営様は未熟なので、生暖かく見守ってくださると幸いです。



―――――――――――――――――――――



 新生〈付与魔術師〉は、分かりやすく説明するのなら、今まで回数制だったのが時間制に変更された事だ。

 MPの消費も大きくなり、その代わりに効果が強化されたらしい。

 そして一度スキルの強化状態がリセットされた代わりに、新たに獲得した『ジョブポイント』という存在……。


 うむ、正にリニューアルって感じだ。


 目の前にびっしり書き記されている項目を眺めていると、ルシフェルが『自分に出番をくれ』と言わんばかりに説明を始めた。


『先ずは職業の新仕様として、新規のジョブスキルはレベルを上げる事で取得する事ができます。この点に関しては、マスターは既にカンストしている状態なので、気にする必要は一切ありません』


「ふむ……」


『次に取得したジョブスキルのレベルですが、こちらは獲得したジョブポイントでしか強化する事ができません』


「ふむふむ、今まではスキルポイントでジョブを強化すると自動で強化されていたのが、最初から自分の好みで鍛えられるようになったのかな?」


『はい、より個性を出すための新システムって感じですね。スキルに関してはレベル5で中級ハイスキルに、レベル10にする事で上級グランドスキルに進化するようです』


「オーケー、大体新仕様は理解したよ」


 ルシフェルの説明を終えて、オレは改めて宙に表示した自分のスキルと向き合う。


 ジョブポイントの獲得方法は単純で、プレイヤーのレベルを一つ上げることで一つ貰える。


 この仕様だと通常のプレイヤーは、レベル100ならば99ポイントを獲得できる。

 だけどユニークスキル〈ルシフェル〉で獲得した新規スキル〈技能の熟達者〉によって、オレは四倍の396ポイントを入手した。

 今の話だと、45ポイントあればレベルはマックスにできる。


 ──というわけで、自分が取り敢えず最大のレベル10まで強化したのは、普段から良く使用する以下の基本スキルとなった。


―――――――――――――――――――――


〈エンチャント・ストレングス〉レベル1

・対象に10分間攻撃強化を付与、消費MP30


        ↓


〈エンチャント・グランドストレングス〉レベル10

・対象に30分間攻撃強化を付与、消費MP90

【特殊効果】一日に一回任意で、3分間だけ攻撃力を二倍にする事が可能。


―――――――――――――――――――――


〈エンチャント・プロテクト〉レベル1

・対象に10分間防御強化を付与、消費MP30


        ↓


〈エンチャント・グランドプロテクト〉レベル10

・対象に30分間防御強化を付与、消費MP90

【特殊効果】一日に一回限定で、一度だけダメージを無効化する事が可能。


―――――――――――――――――――――


〈エンチャント・アクセラレータ〉レベル1

・対象に10分間速度強化を付与、消費MP30


        ↓


〈エンチャント・グランドアクセラレータ〉レベル10

・対象に30分間速度強化を付与、消費MP90

【特殊効果】一日に一回限定で、3分の間強力なシステムアシストの力を借りて加速が可能。


―――――――――――――――――――――


〈エンチャント・シュプルング〉レベル1

・対象に10分間跳躍強化を付与、消費MP30。


        ↓


〈エンチャント・グランドシュプルング〉レベル10

・対象に30分間跳躍強化を付与、消費MP90。

【特殊効果】一日に一回限定で、空間を蹴って多段階ジャンプが可能。


―――――――――――――――――――――


〈エンチャント・ゲズントハイト〉レベル1

・対象に10分間状態異常耐性を付与、消費MP30

        ↓


〈エンチャント・グランドゲズントハイト〉レベル10

・対象に30分間状態異常耐性を付与、消費MP90

【特殊効果】一日に一回限定で、受けたデバフ効果やスキル硬直を解除する事が可能。


―――――――――――――――――――――


 後はこれまでの旅で思い出深い『風』『水』『土』の付与スキルを最大まで強化して、残りは36ポイントとなった。

 この残ったポイントは、今後の攻略活動の必要に応じて、適切に割り振ろうと考えている。

 ウィンドウ画面を消したオレは、大災厄〈アスモデウス〉を倒した後に、キリエに頼んで更新した相棒を鞘からゆっくり抜いた。


「というわけで、お待たせしました」


「それが、今の君の剣……とても素晴らしい業物じゃないか」


 Aクラスの魔剣、その新しい名称は〈シルヴァ・アヴニール〉。

 性能は今までと同じように、攻撃力よりは強度に特化している。

 オレの技量と合わさる事で、この剣は鍛冶職人のメンテナンスを一ヶ月以上しなくても、耐久値が尽きることはないとキリエから言われている。

 

 今回彼女が名前に採用したアヴニールとは、フランス語で『未来』『将来』という意味らしい。


 三体の大災厄を討ち倒し、未来を切り開く世界最強の付与魔術師に、相応しい剣であると作成者であるキリエは誇らしげに言っていた事を思い出す。

 白銀に輝く魔剣を手に、その重さを確かめながら、オレはMPを消費して『ストレングス』『プロテクト』『アクセラレータ』の三種を自身を対象に使用する。

 身に纏ったのは、赤と青と緑に光り輝く三色の粒子。

 空中に散る粒子はイルミネーションのように美しく、レベル100のステータスを、更に底上げしてくれる実感を与えてくれる。

 ジャンプしたりして、身体を軽く動かして動作確認したオレは、全身の力を抜いて剣を下段に構えた。


「ハルトさん、正面から行きますよ」


「ああ、いつでも掛かってこい!」


 互いに戦闘モードにスイッチを入れる。

 彼から放たれるのは、暴走していた時とは違う戦意の威圧感。

 並の冒険者なら、圧に負けてしまいそうな強いプレッシャーを受けて、オレは不敵に笑った。


 この圧迫感、間違いなく今まで戦ってきた敵の中で上位クラスだっ!


 闘志を燃やしたオレは、地面を強く蹴り前に飛び出した。

 突進スキル〈ソニック・ソード〉を始動させて、強いアシストを受けて身体は戦闘機のように真っ直ぐに突撃する。

 先に仕掛けたのは自分、対するハルトは上段に構えた大剣を一気に振り下ろした。

 シンプルであるが故に、彼の放った一撃に込められた技術に身震いする。

 だけど、負けるわけにはいかない。

 こちらは突進の勢いを利用し、更に全体重を乗せた下段からの逆袈裟斬りを用いて、真っ向切りを迎え撃つ。

 互いに全力の一撃を放つと、衝突した刃から重音が周囲に衝撃波と共に響き渡った。

 普通ならば振り上げよりも、振り下ろしの方が圧倒的に優勢だが、──結果は違った。


「……拮抗するだと!?」


 付与スキルで強化された斬撃は、ハルトの真っ向切りと互角だった。

 二つのスキルエフェクトの光は衝突しながら、まるで火花のように散る。

 互いに一歩も譲らない状況が続く中で、刃を衝突させながら、オレは競り合う相手と間近で視線を交わした。


「……ハルトさん相手に、力技で勝つのは流石に難しそうですね」


「この姿勢で競り合うのなら、分はこちらにある。一体どうやって切り抜けるのかな、ソラ君!」


「そんなの簡単ですよ。力が同じなら、技で上回れば良いんです」


 柄を持つ手を滑らせ、刃を交えながら剣の向きを巧みに変える。

 すると力の流れが変わり、大剣は刃に沿って導かれるように、オレの真横の何もない空間を切り裂いた。


「な……これは受け流し……っ」


 勢いよく地面を叩いた大剣。

 オレが見せた防御技に、ハルトは舌打ちをして後方に〈ソニック・ステップ〉で緊急離脱をする。

 その身体は隙だらけだ。

 普段なら追い掛けて追撃を加えるところだけど、今は付与スキルの効果具合と、今の自分がどれだけ動けるか確認するための時間である。

 攻撃は一切しないでオレは、同じようにバックステップをして、お互いに仕切り直すために距離を取った。


「うん、良い感じだ」


 アバターの総合的な完成度としては〈スカイファンタジー〉で使用していた『武神』に近い感覚となった。

 新しい相棒も、ベータプレイヤーの大剣に負けないスペックで実に素晴らしい。


「それじゃ、ハルトさん。次は本番と行きましょう!」


「ああ、望むところだ〈白銀の付与魔術師〉!」


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る