第191話「大戦斧使いとの決着」
アリサとリッターの戦いが終わると、もう一つの戦いも佳境を迎えようとしていた。
満足に戦う事ができないクロをラウラの位置まで下がらせ、ソラを前衛にイノリとスライムのスーちゃんが援護射撃をする戦法だ。
とはいえ敵には鎧があるので、弓と溶解液ではマトモなダメージを入れる事は難しい。
要になるのは、やはり防御無視の近接スキルを
攻撃力上昇、防御力上昇、速度上昇の付与スキルを自身に使用したソラは、三色の光の粒子を纏いながらフィリーに肉薄する。
『ハァッ!』
バトルアックスの二連撃と、少し遅れたタイミングで片手用直剣の水平二連撃〈デュアルネイル〉がぶつかる。
付与スキルで威力を底上げしているが、それでもやはりレベル150のステータスと技術が合わさった一撃は強く重い。
少し遅れて全力のスキルを繰り出すことで、何とかギリギリ軌道を変える事を繰り返す。
『ハハハ、小細工で耐えているようだが、ソレで何時まで持ち堪えられるか!』
フィリーの指摘は正しい。
この戦い方では、いくら剣を振るっても消耗するばかり。
時間の経過は、ただ此方が不利になるだけだ。
しかし、それはオレとアイツが一対一の戦いをしている場合の話である。
白銀の魔剣を強く握り、迫るバトルアックスを巧みに受けながら、接近するタイミングを計るソラは「イノリ!」と鋭く仲間の名前を叫んだ。
「強敵の貴様には、錬金術と弓の複合技を御見せするのじゃ!」
『ッ!?』
最速の一撃〈ソニックアロー〉が放たれ、とっさに鎧で受けたフィリーは着弾と同時に炸裂した爆発によって大きくノックバックする。
鎧の効果なのか、爆発を至近距離で受けたというのにHPにダメージは見られない。
そこに突進スキルで接近したソラは、身を大きく
『グヌゥ!?』
鋭い刺突を脇腹に受けたフィリーのHPは、三割ほど削れる。
欲張らずにオレがバックステップで範囲外に離脱しようとすると、敵は〈ソニック・アクスト〉で猛然と追い
だがそこは、スーちゃんがラウラの指示を受けてカバーしてくれる。
バトルアックスの側面を狙った溶解液の狙撃で、振り下ろされる軌道を強引に変えた。
普通のステップ回避で大戦斧を避けたオレは、地面を蹴ってスキルユナイテッドを発動。
防御力を無効にする〈ガードブレイク〉と垂直単発強攻撃の〈バーティカルスラッシュ〉を合成。
接近して下段から鋭く振り上げた一撃で、フィリーの身体に一本の縦線を刻み込む。
『な、これも鎧の防御力を無視するだと……』
これでトータルしたダメージは六割、遂に敵のHPは残り四割となった。
流石にヤバいと思ったのか、体勢を立て直すためにフィリーは後方に向かって突進スキルを発動。その場から大きく跳んで離脱した。
此処でチャンスだと思って深追いすると、後方の援護が届かなくなる恐れがある。
前に出たい気持ちを強い意志で押さえつけ、ソラはその場で踏み止まる。
オレは敵が次に何をしても対応出来るように、油断なく剣を構えた。
彼はチラリと決着が付いて地面に倒れている隊長の姿を見た後、仲間が負けたというのに楽しそうにフッと笑みをこぼす。
『強い、やはり貴様ら冒険者との戦いは良いな!』
大戦斧を構えたフィリーの身体から、金色の光の粒子が爆発的に放たれる。
アレは一体何だと〈洞察〉で見抜いたソラは表示されたスキル名に注目した。
騎士カテゴリーのスキル〈オーバードライブ〉。
効果は一定時間全ステータスの向上。
ただし効果時間が切れた後、使用者は全ステータスが半減化して強制的にスタンする。
なるほど、つまりは敵の奥の手という事か。
アリサに相方がやられたから、彼女が復活する前に一気に勝負を決めに来たらしい。
仲間達に先程とは違うと詳細を伝えて、自身も何が来ても対応できるように気を引き締める。
フィリーが足に力を込める僅かな動作を見せると、次の瞬間には視界から消えた。
「な──!?」
「ど、どこに消えたのじゃ!?」
「イノリ、上だッ!」
慌てる仲間達に、唯一〈感知〉スキルで敵の位置を常に把握しているソラが答えた。
上空を見ると、大戦斧を手に接近してくる大柄な騎士の姿を捉える事が出来る。
「撃ち落としてやるのじゃ!」
矢をつがえたイノリは弓を構え、青いスキルエフェクトを発生させる。
彼女が選択したのは威力を重視とした弓カテゴリーのスキル〈ブラストアロー〉。
限界まで引き絞られた青い閃光は解き放たれ、軽い衝撃波を発生させながら落下してくる敵に寸分違わず直撃する。
更に特殊な弓矢の効果により、通常よりも大きな爆発が続けてフィリーの身体を包み込む。
これで倒れてくれたら楽なのだが、残念ながら〈感知〉で把握できる敵の反応は健在だ。
爆風の中から飛ぶ斬撃〈アングリッフ・フリーゲン〉が飛来してきてイノリを直撃した。
「ぬぐぁ!?」
「イノリ様!」
予め飲んでいたポーションで強化した防御力のおかげで、なんとかHPが残り二割まで削れた所で減少が止まる。
しかし、一度で大きなダメージを受けた影響か、一時的なスタン状態に
倒れるイノリをとっさにラウラが支えると、爆風から出てきた敵は五体満足で、体力も僅かに減った程度のダメージしか受けていなかった。
一体何が起きたのか、その理由をソラの〈洞察〉スキルが見抜く。
──そうか、矢を受ける寸前に騎士の固有防御スキル〈ファランクス〉で受ける直前のダメージを半分に軽減したのか。
でも〈ファランクス〉は強力なスキルであるが故に、クールタイムが長い。
この戦いの最中に、今使用した防御技は二度使われる事はないだろう。
ならば今が好機とソラは、剣を手に敵が着地するタイミングを狙って走る。
『ハハハ、そう来る事は読んでいたぞ!』
リッターは迫る白銀の剣士を見て
アレは、バトルアックスの専用技〈アースクエイク・アクスト〉。
大戦斧を叩きつけた地点を中心にして、周囲にプレイヤーとモンスターを対象に数秒間だけスタン状態を付与する技だ。
全員に「スタン技が来るぞ、タイミングを見て跳べ!」と叫ぶが反応できたのはアリサとクロとスーちゃんだけだ。
イノリを支えていたラウラは反応が遅れて、衝撃波が直撃してしまう。
地面に着地したタイミングを逆に狙われ、フィリーが突進スキルで此方に向かって来る。
『貰ったぞ、白銀の付与魔術師ッ!』
このタイミングでソラは温存していた〈パーフェクト・プロテクト・コール〉を発動。
振り下ろされる大戦斧を左腕で受けた。
最重量の攻撃スキルと、一回だけ無敵となれる付与スキルが正面から衝突。
敵の目が、驚愕に大きく見開かれた。
『ファランクスよりも上位の無敵スキルか、だが素手で受けたのは失敗だったな!』
「!?」
受けたダメージに対し、無敵になる効果が発動しているというのに、更に踏み込んでくる大柄な騎士。
攻撃スキルと防御スキルが鮮やかな光のエフェクトを発生させる中、ふとソラは自身のHPが減少していることに気が付く。
『俺の斧は敵に攻撃を当てる事で、裂傷のデバフを付与する隠し効果がある。洞察ですら見抜けないエクストラスキルだ!』
「な……ッ」
流石に無敵スキルといえど、デバフダメージまでは防ぐ事はできない。
このままでは、削り殺される。
不味いと思った直後、スーちゃんが威力ではなく速度を重視した溶解液を敵の頭に浴びけかける。
『この程度で俺の攻撃は緩むことは──』
「わたしを完全に失念してたね」
真横から移動系スキル〈縮地〉で現れたクロが、格闘家の防御貫通スキル〈
鎧を纏った脇腹に向かって、右手をそえて渾身の一撃を叩き込んだ。
『がふぁ!?』
クロの
とっさに鋭い反撃の蹴りが少女を捉えるが、クロは両腕を交差して防御。数メートル程、その場からずり下がる程度で済んだ。
この間のやり取りは、コンマ数秒の出来事。
だが一瞬だけ緩まった大戦斧から抜け出したソラは、ここが最後のチャンスだと剣を下段に構えた。
最高の相棒が作ってくれたこの好機、オレが逃すわけにはいかない。
「これで、終わりだぁ!」
一時的な麻痺状態で動かなくなった左腕をダラリとさせ、残った右腕に握っている白銀の魔剣が、ソラの意思に応じて眩い金色のスキルエフェクトを発生させる。
残念ながら、防御無視のスキルのクールタイムは終わっていない。選択する片手用直剣のスキルは〈レイジ・スラント〉と一定時間溜める事で威力を増幅させる〈バースト・チャージ〉をユナイテッドさせた強力な一撃だ。
──〈バースト・スラント〉。
片腕が動かないせいで威力はそれなりに落ちるけど、右半身が動けるのならばそれで十分。
光り輝く剣を手に、右足を大きく踏み出して振り子の要領で右下から左上に刃を一閃させる。
金色の斜線が刻み込まれると、残っていたフィリーのHPは0になった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます