第9話 告白
「まあ待て待て、落ち着けゆーた。すまぬ、我も悪ふざけがすぎた」
「……は?」
睨みつける僕の視線の先で、コンは突如として平謝りを始めた。
「確かにここはお主らの住むあっちの世界とは違う場所じゃ。じゃが、神隠しではない。お主のこともちゃんと元の世界に戻すつもりじゃ」
コンは続ける。
「ゆーた、お主に聞いてもらいたい話があってのう。五家宝のついでじゃ。我のわがままに、もう少し付き合ってはくれぬかの?」
「もともと、お礼をするっていう話だったと思うんだが……。あと五家宝じゃなくてチューペットな」
「お礼……そういえばそうじゃったな……。うーむ……。あ! ゆーた、お主にはここはかなり涼しかろう?」
「寒いくらいだな」
「冷房完備の状態で、美少女と楽しくおしゃべり! というのはお礼としては足りんかのう……?」
そう言うと、コンは上目遣いで僕を見つめてくる。うん! 足りない! そんな可愛い顔されちゃっても足りないね!
とはいえ、ここでも僕に拒否権はない。なんならこんな変な世界に閉じ込められてしまっている以上、生殺与奪権はコンが持っているまである。
「わかった、わかった。どうせお前の気が済むまで帰すつもりは無いんだろ?」
「うむ! もちろんじゃ!」
「んじゃしょうがないから、話ぐらい聞いてやるよ。話聞いたらちゃんと帰してくれるんだろうな?」
「う、うむ。もちろんじゃ……」
「おいお前今なんで目を逸らしたおい目を合わせて答えろ」
コンは目を泳がせ、チューペットの容器をペコペコする速度が速くなる。まあいい、最悪、どんな手を使ってでも帰らせてもらう。
「んで? 話って何だよ」
「まーまー。立ち話もなんじゃ。そこの石段にでも腰かけようぞ」
コンは、またもや僕の手を取り、拝殿の前の石段へと誘う。やはりコンの手はひんやりとしていた。
僕らは石段に並んで座った。僕の肩のすぐ隣で、コンの耳がピョコピョコと僕をくすぐる。
「そうじゃな……。何から話せばよいか……」
コンは何度か首をひねった後、ゆっくりと話し始めた。
「我がお主ら人間とは違う、ということはゆーたにももうわかっておろう?」
「ああ。さすがにそれが分からないほど馬鹿じゃないよ」
だって現に今結界とやらで軟禁されてますし。結! 滅! 天穴!
「我はな、あの島を守る神なんじゃ。そしてこの神社は我の家みたいなものじゃな」
「ふーん。神ってずいぶん気さくなんだな」
「ぬ? 何じゃ、その反応は。もっと驚いてくれたってよかろう? ……お主まさか信じておらぬのか?」
「いや、そういうわけじゃないけど。まあ予想通りっていうか、腑に落ちたっていうか」
まあ、先の神社所有発言とかもあるし、巫女服着たりしてるし。言われれば、まあ、そっかって感じにはなる。
「ただ、神っていうともっといかついおっさんのイメージだから、そういう意味では意外っちゃ意外かな」
「一口に神というても、色々なやつがおるからのう。十人十色ならぬ十神十色じゃな!」
コンは楽しそうに笑う。ぶらぶらしている脚の先で、下駄と石段が乾いた音を立てている。
「生まれたての神というのはな、しばらく仕事を待つ期間があっての。人間がその神を必要としたとき、初めて一人前の神として認められるのじゃ。今から、百年と少しくらい前になるかの。我は漁業で栄えていたあの島に、航行の安全を願うという理由で呼び出されたのじゃ。あの日から、我はあの島を守る神になった」
コンは青い空の向こう、何か遠いものを見つめるようなぼんやりとした眼差しで、話し続けた。
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