第7話 じんじゃー
コンに連れられて着いた先は、ボロボロの鳥居がトレードマークの島唯一の神社だった。
「ここか? お前が連れて行きたい場所って」
「そうとも言えるし、そうでないとも言えるのう」
コンの要領を得ない答えに僕も首をひねるほかない。相変わらず、僕らは手を繋いだままだ。
「もすこし、奥に入るぞ」
「ちょ、ちょっと待て」
やはり僕の手をグイグイ引っ張りつつ、コンは鳥居をくぐり、祠の方へ向かおうとする。あることを思いだした僕は、それを何とか引き留める。
「コン、お前は島の外から来たから知らないのかもしれないけど、この神社に近づくのはマズい」
「ぬ? どうしてじゃ?」
「どうしてって、えーと、この島には『この神社に近づいた子供は神隠しに遭う』っていう言い伝えがあって――」
「あーそのことか。大丈夫大丈夫、そんなものただの迷信じゃろう」
「そうは言っても――」
「現に、ゆーたがさっき神社に近寄ったときも何も起こらなかったじゃろう」
言われてみれば、確かに。ついさっき僕がこの神社を訪れた時、僕は心中で「なんだよ何も起こんねーじゃん。田舎の心霊スポットクソ雑魚乙wwww。地元民だけ勝手にビビってろよwwww」みたいなことを考えていた。いやそこまで酷くはなかったか。まあいいや。
あれ? でもなんでこいつそのことを……?
僕の疑問が顔に出ていたのだろうか。コンは咄嗟に二の句を継ぐ。
「あーいや、たまたま見ての。ゆーたがこの鳥居をくぐるのを。しけた神社だなー、みたいな表情しておったじゃろ?」
「僕そんな顔してたか?」
うんうんと頷くコン。マジかよ。僕がそんなに表情に出やすいタイプだったとは。……今度からガキどもの前では嫌悪感マシマシで行こう。
まあ、仮に言い伝えが真実だったとして、もう鳥居くぐっちゃってるし手遅れだろ。僕は観念して、コンに引っ張られるままにすることとした。
コンは僕の手を引きながらどんどん進んでいく。鳥居からほど近い祠の隣まで来ると、一度止まって、僕の方へ振り返った。
「ここから先は、藪が深いからの。草とか葉っぱで身体を切らないように気をつけるのじゃぞ」
「お、おい! まだ行くのかよ!」
「うむ。さっき言ったではないか。『そうとも言えるし、そうでないとも言える』と。まだここは入り口に過ぎぬ」
「入り口って……。こんなとこ入っていったって何も無いだろ……」
僕らの前に見えているのは鬱蒼とした藪だけだ。祠の近く、今いる場所ですら、そこそこ草や木に囲まれているため、潮風が届きにくくなっているのだ。これ以上進んでも、何かあるとは到底思えなかった。
「何じゃ、怖いのか? ゆーたも案外臆病じゃのう」
「別に怖かねーよ。どっちかといえば、島外の人間のくせにこんなとこにズカズカ入っていくお前のメンタルの方が怖えーよ」
「大丈夫じゃ、大丈夫じゃ。我がずっと手を握っといてやるからの~」
まるで話を聞いちゃいない。その素敵なお耳は何のために付いてるんですかね。
コンに引っ張られるがまま、僕たちは藪の中に入っていく。急な来客に驚いたのか、藪の方々から、虫たちが羽音を立てて飛んで行った。そのうちの何匹かが口の中に入ったような気がする。吐きそう。
深く深くへと進んでいくにつれ、露出した僕の腕や脚はどんどん葉っぱに覆われていくようになる。緑の香りが強くなり、視界もかなり遮られていく。コンは僕を一体どこに連れて行くつもりなのか。
「ゆーた、手を離すでないぞ! それ!」
目の前を歩いていたコンが突如、僕に声を掛けた。
「うわ!」
次の瞬間、コンは藪の中に思い切り飛び込んだ。当然、手を繋いだままの僕も思い切りそれに引っ張られるかたちとなる。身体のバランスを崩し、僕は思わず目をつぶってしまう。
「痛てて……いきなり何すんだよ」
「ふふ、すまぬすまぬ」
結局僕は尻もちをつき、草の上に無様に転がることとなった。恨み言の一つも出るというものだ。
「じゃが、ほれ、着いたぞ。ここが目的地じゃ」
「着いたって、どこにだよ。藪の中に飛び込んだ……だ……け……」
草の上から身体を起こしつつ、周囲を見渡して、僕はようやく気がついた。
「ここ……神社か?」
「そうじゃ! 我の神社にようこそ!」
新品のようにピカピカで真っ赤な鳥居を背に、巫女服の美少女は楽しげに微笑んだ。
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