#17 決断②



「失礼します。"夜明けの光"総指揮 紅であります。」


対UC人工拠点アマテラス。

その司令室で突然現れた災害級UCの対処が行われていた。

司令室の中で1番大きなモニターに緑色のラインが入った白い戦闘服の少女が映る。

少女は結人と同じ狐の面を被っている。

この少女の正体はもちろん茜だが、普段の自由気ままで明るいイメージはこれっぽっちも見えない。

むしろその逆、司令室一体に緊張が走る。


茜も結人程ではないが、厳重な情報統制によって本名を隠している。

日本所属のA級以上の魔法師には軍から色が贈られる。色は本名を隠すための偽名として使われている。結人は白と黒の2つ、そして咲夜は紅と焔だ。


「あなた様が呼ばれた理由は既にご存知だと思います。私にあなた様への命令権はございませんがよろしくお願いします。」


「承知いたしました。出撃いたします。」


「資料は後ほど送りますのでよろしくお願いします。」


「ありがとうこざいます。」


画面の向こうの少女は敬礼をすると、通信を切断した。

司令室内の緊張が解ける。


「支部長、これで何とかなりそうですね。」

「支部長、黒白様が出るなら安心ですね。」


「まだ安心はできないわ。第一に考える事は生徒の安全、ほかの魔法師にも応援に向かわせてちょうだい。」


「「「了解!!!」」」


「さぁ時間との闘いよ。」


指令室から見えるはずのない海の向こうの様子を眺めながらそう呟いた。




        *



「遅い!!!5班はまだ来ないのか!!!」


「どうやら遠くまで行き過ぎていたみたいです。あと30分ほどかかると思われます!」


(5班は確か、黒崎と藁科の班か・・・学校でもトップクラスの彼らなら万が一の事はあるまい。ここは先に生徒を安全な場所に退避させるべきか・・・)


千春は少し考えたあと、生徒に指示を飛ばす。


「全員自分の部屋に今すぐ乗り込め!ここは危険だ!これより戦線を離脱する!」


「「「了解!」」」


「白山先生、殿をお願いします!」


「わかりました。」


生徒たちは全員、一斉に駆け出す。

その時、千春の通信機器に一つの連絡が入った。


『聞こえますか?立川さん』


「こ、この声・・・もしかして紅様?!」


『はい、そうですが・・・』


「どうして、”夜明けの光”の指揮官様が・・・」


『つい先ほど、あなたのところの生徒を発見しました。こちらで回収させて頂きます。それと樹さんの件ですが、その艦の特別倉庫に彼の装備一式をのせてあります。彼に渡して下さい、その後の指示はこちらで致します。それとあなたにも司令本部より伝言が届いております。これより現場の指揮官は私に委託されました。あなたには、生徒の戦線離脱後あなたの目の前にある魔法陣の対処をお願いします。』


「了解しました。これより、任務を遂行させて頂きます。」


『期待しております。それでは・・・』


通信が切れると、千春は行動に移る。

千春の第一目標は生徒の安全の確保だった。


「私もやるべきことをやらなければならないな・・・」




          *





「ねぇ空~まだ着かないの~あと何分ぐらい~」


前方に巨大な魔法陣が出現したため高速で移動することにした結人たち5班は自分達が乗ってきた船へと移動していた。


「後15分ぐらいだな。そんな事より遥香、大丈夫か俺に運ばれて。」


「いや、そこは全然大丈夫だよ、むしろその~嬉しいし・・・」


「なんだ、最後の方がよく聞こえない・・・高速で移動してんだからもっとはっきり言えよ。」


「バカッ!」


遥香が顔を背けながら照れ隠しのためか、空を殴る。


「いってな~何すんだよ。落っこちたらどーすんだよ。」


「鈍感バカは海に落ちればいい。」


「そしたらお前もこのまま真っ逆さまだぞ!夏だからといってUCが襲ってくる中でのバカンスはごめんだな。」


「私は咲夜ちゃんが拾ってくれるから大丈夫だよ~だ、だから落ちるのはあんただけよ。」


「だったら俺が反応出来ない速さで海に沈めてやるよ。」


段々と声が大きくなってきていた。相変わらず仲がよろしい様子だった。


「何を~」



【・・・いがみ合ってますね、結人さん。】


【仲いいんだろね。】


【お互いがもう少し歩み寄れば上手くいくと思うんですがね・・・】


【そうみたいだね・・・】


【ところで結人さん?先ほどから魔力の流れが不安定になっているみたいですが・・・あ、今ドキッとしましたね?】


・・・まずいこれは怒っている時の声だ。

おそるおそる後ろを振り返るとそこにはとびきりの笑顔をした婚約者がそこにいた。何というか目が笑っていない。


【確かにこの人数ですので瀬奈さんを結人さんが運ぶことには異論はありません・・・しかしですね、距離が近すぎではありませんか?】


【いやいやしょうがないでしょ。運ばなきゃいけないんだからさ・・・】


【言い訳は聞きたくありません。】


こっちはこっちでお怒りのようだ。

もう一度、今危険な状況であること認識してほしいものだ。

そんなことを考えているうちに予定通りのポイントにたどり着く。


【咲夜、そろそろお迎えの時間みたい。】


【・・・そうみたいですね。この件は後ほど詳しくお聞きしますので。お忘れなきように。】


【・・・お手柔らかに頼むよ。】


【それは結人さん次第ですね。】


【そろそろ始めよう。】


【分かりました。】


2人は顔を見合わせ頷くと咲夜は遥香のもとに行き手を伸ばす。結人は自分の後ろにいる少女に手を向けると同時に呟いた。


「「精神攻撃魔法<睡眠スリープ>」」


「「うっ!」」


結人と咲夜は、遥香と瀬奈に魔法を打ち込む。

精神に過度なダメージを与え眠らせる。

ここまでは想定通りだ。


「おい藁科結人!何をやっているんだ!」


空は結人に近づくと回答を求めた。

しかし、結人はその問いを無視して亜空間から小型の通信機を取り出すと耳につける。


「姉さん、緊急事態が発生したよ」


『はいは~い、待ってました~。場所を教えて、結君。』


「ポイント138-G-a辺りです。」


『了~解♪じゃあ行くよ~』


結人の代わりに咲夜が前にでる。


「これは関係のない一般人を巻き込まない為の措置です。ご了承下さい。」


「どういう意味だ!」


「もうすぐお迎えが来るのでここで待っていてください。」


そう言われて空は辺りを見回す。しかし、そこにあるのは海、海、海!艦影など全く見えない。


「おい、どこにもそんな様子はないぞ!」


「今から来るんですよ。ほらこのように・・・」


そういって青い空を指さす。

すると指をさした方向に突然巨大な魔法陣が現れる。


膨大な魔力が集まり、魔法陣の色が赤色から青色に変色する。

けたたましい爆音と暴風が三人を襲う。


「なんじゃこりゃ・・・・・・まさか・・・これは・・・」


魔力の収縮が終わると、空間が避け、中から一隻の巨大な戦艦が出てきた。

紫色に輝くその巨大な戦艦、それはただの戦艦ではなく、空中に浮かんでいた・・・

日本に4隻しかない、異例のA級魔法師3人分の強さを誇るとされる最強の戦艦。

その戦艦は大きな水しぶきを立て、鈍い音を立てると空中に静止した。


『ようこそ、”夜明けの光”所属 第四新型空中戦闘艦”月読尊ツクヨミ”へ。歓迎するよ。』



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