#3 実戦に向けて③



「よし、いくぞ。」


「は、はい!」


「<身体強化><加速><連鎖の陣>」


<連鎖の陣>ー4本の鎖を自由自在に操る魔法。非常に扱いが難しく、使い手は少ないが、応用力が高く強力な魔法だ。

空はこの魔法と刃渡り80cmぐらいのを斜めに構える。


・・・あの剣、オーダーメイドの魔法剣だ。という事は両親のどちらかが魔法師なのかな、手入れがされているしいい剣だ。


オーダーメイドの魔法剣は普通の剣と比べてはるかにお金がかかる。普通の魔力のこもっていない剣は高いものでも数十万円あれば購入出来るが、内部に魔法陣を詰め込んだオーダーメイドの魔法剣となるとその金額は跳ね上がる。オーダーメイドの魔法剣となると数億円という話になってもおかしくない。そもそも魔法剣は国から許可を貰わないと製作することが出来ない。

普通の剣と魔法剣の1番の大きな違いは、ずばり刀身に使われている材料だ。普通の剣には鉄などの普通の金属が使われるが、魔法剣には魔鋼が使われている。魔鋼はUCの核からとれる魔力のこもった半透明の物質の事で、UC討伐時の剣に使われている。その最大の特徴は内部に魔法陣を埋め込むことによって詠唱をパスして魔法を発動出来る事だ。今では、多くの魔法師がそれを利用していた。


A級になると国から支給されるが、この歳でもっているとなると親から貰ったと考えるのが普通だろう。そして子供にこんなに高い物を与えられるのはどこかの大企業の子供か、魔法師の子供ぐらいだ。


「お前、この剣を見ても驚かないんだな。」


「い、いえ、驚いて言葉が出なかっただけですよ。でも、そんな物騒なものを練習試合なんかでわざわざ使わなくてもよかったと思うのですが。」


「俺はどんな時でも手を抜かない主義なんだ。確かにお前のもっている普通の剣とはわけが違うが文句は受け付けない。いくぞ。」


(手加減を要求したんじゃなくて自分の武器をそんなにほいほい使っていいのかなって思っただけだけどまぁいっか・・・とりあえず、いい機会だ。彼も確か候補にいたはず試してみよう。)


「わかりました。<身体強化><温度吸収><鋭利化><加速>」







「よっ、ほっ・・・」


4本の鎖を使った多方向からの攻撃が結人を襲う、おそらく軍から教わったものだろう。全くスキがなく、練度も高い。だが、対処するのは簡単だ、スキがないなら作ればいい。

結人は魔力障壁を使って鎖を強引に逸らして攻撃をかわす。


「あの~そろそろ限界なんですが…」


戦闘が始まって早1時間半、最初のうちは色々な攻撃を試し、反応を楽しんでいたが、流石にもう飽きた。

人間相手にこれほどまでに長く戦ったのはおそらく彼が初めてだろう。

同じS級の仲間とお遊びで戦ったことは数え切れないほどあるが、こんなに長く戦った事はない。何故なら、彼らは固有魔法無しだったとしても30分ぐらいしか耐えられないからだ。


「そうだなこれで終わりに知てやるよ<緊縛封印ムーブイング・アウト>!」


突如地面に魔法陣が生まれ、8本の鎖が全方向から飛んでくる。

常時展開している咲夜特製のオリジナル魔法<魔力流動感知>でそれを感じとると氷魔法で足元を凍らせ、動きを封じる。そしてそのスキに後ろに後退し、距離をとる。


「あのー、もうやめませんかーそろそろ疲れたのですが・・・」

これ以上続けるとぼろが出そうなのでこのぐらいで終わるように誘導する。


(こいつあろうことか疲れたフリをしている・・・俺の攻撃への反応速度、対処方法全て計算されている。実力からして間違いなくB級以上だ。軍やギルドの連中だったらわざわざ俺と組ませる理由はないだろう。という事は何か訳ありってことか・・・なら・・・)


「わかった、いいだろう。」

「あ、ありがとうございます。」


(・・・よかった、やっと終わった。こんなに戦ったのは咲夜と魔法無しの特訓をした時以来だな。)


互いに矛をおさめ、話し合いに移る。


「単刀直入に聞こう、お前何者だ。」

「えっとー藁科結人ですが・・・」


「違う、そうじゃない。お前のを聞いているんだ。戦闘中にお前から一切殺意や戦意は感じられなかった。そして、最後の動き一見ギリギリでかわしたようにみえたが、そうみせていただけだ。いい加減白状しろ。」


結人は内心驚いていた。A級魔法師である立川先生でも気が付かなかったのに、まさかB級とはいえ生徒に気が付かれるとは思わなかったからだ。結人は密かに洞察力の評価をあげた。


「黙るって事は言いたくないもしくは言えないって事か・・・まぁいい、もし秘密のまま通したいならそれで通してもいいだろう。だが、1つ条件がある。」


「条件・・・」


「ああ、それはとても簡単でお互い得があることだ。それは俺の練習に毎日付き合ってもらう事だ。」


「え?」

結人は予想外の発言に呆気をとられる。


「戦ってみてわかった。お前の実力、上手に隠しているつもりかもしれないがおそらく俺と同等かそれ以上だろ。」


「・・・」


「その沈黙は肯定ととらえさせてもらうぞ。で?どうなんだ?受けるのか?受けないのか?」


「・・・わかりました。ですが僕からも2つ条件があります。」


「なんだ?」


「1つ目は僕の事について深く探ろうとしないで下さい。そして、2つ目は咲夜、僕の恋人の嘉神咲夜を同席させて下さい。」


一つ目はもちろんのことだが、二つ目は毎日、同じ時間に出掛けるとなると浮気を疑われるかもしれないので一応この条件をつける。昔、咲夜を置いて遊びに行った時に・・・・・・この話はやめよう。


「わかった、それでいい。ただ、お前の事は既にある程度調べてある。」

「ちなみに何を知っているんですか?」


「まず、お前の噂を聞いた事が事の発端だ。寮から学校までそんなに距離が無いのに、人前で堂々と手を繋いで登校するカップルがいるって話を聞いてな。うちのクラスの連中が嫉妬で爆発しそうになってて・・・ってこの話は違うか、その時にお前ら2人の名前を聞いたんだよ。」


どうやら、2年生の間でも、結人と咲夜が手を繋いで登校していることが広まっているようだった。少し、いやだいぶ恥ずかしい。


「その時に藁科って聞いてどっかで聞いた事があるなと思って親父とお袋に聞いて見たんだよ。俺の親は両方とも軍人で、C級だけどそれなりに高い地位にいるんだが。お袋が昔藁科ってやつの上司をやっていたらしくてな。藁科なんて珍しい苗字のやつなんてお前達姉弟ぐらいだろ?そこから色々と調べたんだよ。」


「おおむね正解です。ところで姉さんにもう会ったんですか?」


肯定する必要は全くなかったが、これ以上探られないようにするために手を打つ。


「いや、まだ会っていないな。」


「なら絶対に会わない方がいいですよ、私の姉は少し、いやだいぶ変わっているので・・・」


「そんなに言うなら会わないでおくよ。じゃあ練習は明日の5時からだ、俺の権限で観客は無しにしておく。だから他人に見られる心配はないだろう。それと敬語はやめろ、いちいちめんどくさい。」


「・・・わかった。」

「さて、女共の元へ戻るか・・・」

「そうですね。」


取引を終え、2人は他の班員の元へ戻った。


_________________________________


50000PVありがとうございます!


読んでいただきありがとうございます。

次回更新は明後日です。

引き続きよろしくお願いいたします!

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