#1 実戦に向けて①

固有魔法を使う時、毎回思うことがある。それは、この魔法が僕の大切な人のためになっているかということだ。

固有魔法というのは言わば、心の形だ。自分のこうしたい、こうなりたいという感情によってその能力や威力などが変わるのだ。

僕は、自分が目指す未来が本当に正しいかどうかは分からない。でも、僕は自分を信じて突き進む。






「再来週の月曜日、太平洋のある地点で1,2年生合同で実地訓練を行う事が決まった。」



「え?」

「本当にですか?先生。」

「いくらなんでも・・・・・・」


突然の先生からの通達に多くの生徒は疑問の声をあげた。それもそのはず、まだ入学して2ヶ月程しか経っていないにも関わらず、実戦に投入されるというのは前代未聞の出来事だからだ。実戦は、死傷者がでてもおかしくないほど危険だ。

例年では3年生の戦闘科と支援科が行う実地訓練を、1年生と2年生だけで行うことは結人も聞いていなかった。そのため結人も耳を疑う。


「ただ安心して欲しい。我々の担当は第2防衛ラインの内側だ。出現したとしても中級程度だろう。それに私も参加する予定だ。特に問題はない。」


「それならなんとか・・・」

「大丈夫かな・・・」

「いきなり実戦か・・・・・・流石天下の東京校だな。」



第2防衛ラインの内側という事を聞き、多くの生徒が一安心する。


日本防衛軍は現在、本土防衛のシステムとして3本の防衛ラインを設定している。

本土から2000km地点を第1防衛ライン、本土から1500km地点を第2防衛ライン、そして本土から100km地点を最終防衛ラインとしている。

システムとしては特級以上のUCを第1防衛ラインで食い止め、漏れてしまったUCを第2防衛ラインで殲滅するというスタイルが採用されていた。そのためたまに、第2防衛ラインを小型のUCが突破する事があるのだ。それらの討伐の一端を今回東京校の1,2年生のAクラスに任せると、軍から通達があった。


【今回の訓練、どう思います?結人さん。】


【・・・・・・そーだね、多分上層部は焦っているんじゃないかな。この前、第4区奪還作戦が白紙になったからさ。確かに悪いことをしたなって思ったけどあの人達も無茶をするよね。功を焦って死んじゃったら何も残らないというのに・・・・・・】


【それもあるかも知れませんね。私も上層部も思い切った事をしたなと思います。第2防衛ラインの内側とはいえ戦場です。2年生の実力がどれほどか存じ上げませんが、はっきり言って厳しいと思います。】


【そうだね、後で天沢さんに聞いて置かないとだね。】




「よし、詳しい話はまた明日にしよう、今日はこれで終わりだ。明日から対UCの訓練を始めるから全員気合を入れるように。それと水篠、仙洞田、桐山、悪いがこの3人少し残っていってくれ。では、解散。」


「「「ありがとうございました。」」」


先生の解散の合図とともに多くの生徒は教室を出る。


「じゃあ、また明日、樹、大和、雷華」

「お先〜」

「お先に失礼します。」


結人達も居残りとなった不幸な者たちに別れを告げると、教室を出て自室へ向かう。


しばらくして、教室に誰も居なくなったことを確認した先生は3人を連れてある場所を訪れた。


コンコンコンッ


「どうぞ。」


先生は軽くノックをし、許可を貰うと「失礼します。」と言って中に入る。3人も先生に続いて入る。中に入るとそこには、校長先生がいた。


「急にお呼び立てしてすみません。まずは座って下さい。」


指示通り、空いていた席に座る。

既におそらく同じ理由で呼ばれたであろう先輩が2人座っていた。


「さっそく、本題に入りましょう。本日通達があった通り、来月の月末に本土から約700kmの地点にて特別実地訓練を行うようにと、軍から通達がありました。対UC戦艦を何隻かと立川先生、白山先生が行動を共にして頂きますが、万が一に備えてあなた方5名にも協力して欲しいと思います。なぉ、今回収集された魔法師につきましては固有魔法の使用許可も得ています。この意味を考えた上で行動して頂きたいと思います。」


「1つお聞きしてもよろしいでしょうか。」


何か聞きたいことがあるらしく、大和が手をあげる。


「どうぞ、水篠君。答えられる範囲ならなんでも大丈夫ですよ。」

「ここにいる人は全員、軍関係者ということでよろしいでしょうか。」

「はい、そうです。」

「では、護衛艦の名称や装備の構成について教えて下さい。」

「はい、高速艦が5隻と中型艦が1隻です。対UC用の銃火器は搭載されていますが、核やミサイルなどはもちろん積んでいません。魔力障壁は全て第4世代型が採用されています。半径100km圏内であれば探知もできます。詳しい名称や装備についてはこちらの資料を参考にして下さい。他にございますか?」


納得のいく回答がきたため、大和は席に戻る。


「ないようなので、本日の会合はこれで終了とさせていただきます。また、第5小会議室を今日から当日まで借りてありますので、みなさんで自由に活用して下さい。」


生徒たちは「失礼します。」と言って校長室を出た。

このまま部屋に戻ろうと思っていたが、同じく軍関係者と思われる先輩に呼び止められたため、サブ棟(第2棟)にある小会議室に向かった。








生徒たちの退出を見守った立川は、確信に変わった事を校長先生に確認する。


「天沢先生、今呼ばれた生徒たちのいや、仙洞田樹の情報をいい加減に公開して欲しいのですが・・・・・・」


「・・・・・・分かりました。ですが、白山先生は遠慮して下さい。本来は公開出来ない重要機密事項ですので。」


校長先生に促されて白山は外に出る。


白山先生の退室を確認した校長先生はゆっくりと話し始める。


「単刀直入に申し上げましょう、仙洞田樹様はあなたと同じA級です。それもあなたより上位の序列の。」

「噓だろ・・・・・・」


A級魔法師レベルになると自由時間など滅多にない。ましてや学校に通うなど立川の常識の中では論外だった。


「事実です。序列24位にして日本7位の実力者で、あの”夜明けの光”の一員です。特級の単独討伐報告も多数ございます。」

「そんな馬鹿な・・・・・・」

「人間としての常識を学ぶために我が学校に入学する事になりました。ですが、軍からはその存在をできるだけ秘匿にするように言われています。なのでそのようにお願いします。」

「わ、分かりました。では失礼します。」


(私と同じ軍人であることはうすうす気づいていたがあの年齢でこの私よりも序列が高いとは・・・まるで化け物だな・・・)




               *




「じゃあまずは自己紹介から始めようぜ。俺は2年Aクラスの黒崎くろざきそらだ。級位はB級で近接戦闘を得意としている。」

「私は同じく2年Aクラスの葉山はやま香織かおりだ。級位はC級だ、よろしくな。」


先輩の自己紹介に対して樹たちも応える。本当のことは言えないため樹は遠距離メインC級ということにしておく。

大和と雷華も近接戦闘のC級と説明した。


「近接が俺を含めて3人、遠距離が2人か・・・1班5人で16班できるから1人3班ずつ担当するぞ。チーム分け先生がやってくれるらしいからそんな感じで。じゃあ、この資料に書いてある細かい点も確認するか・・・・・・」


その後も第一回作戦会議は続いた。時間はあっという間に過ぎ去り、帰るときには既に日が暮れていた。




               *





時は数時間前に遡る。


何かを決心した咲夜は結人に断りをいれ、部屋を出た。

数分歩くと目的の場所に着く。


コンコンコンッ


「どうぞ。」


部屋の主に入室の許可をもらい「失礼します。」と言って部屋に入る。


「こちらにお越しになるとは珍しいですね咲夜様。」

「こんばんは、天沢さん。今日は2つお願いがあって来ました。」

「何でございましょうか・・・」


「実はですね・・・」


咲夜は今回の計画を話し始める。


「なるほど・・・わかりました。そういうことなら協力させて頂きます。」


「ありがとうございます。この恩はいずれ必ず返します。」



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第二章を作成した時にプロローグを書いたのですが、そう言えば第一章のプロローグを作っていない事に気がついたので急いで作りました。

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