黒の国22

 六十一階層

 ここまで来れたのはいまだ僕らを含めて五組だけ

 帰って来たその後組も誰もこのフロアから上を語ろうとしないので、相当恐ろしいことが待っているのかも

 もしエルナリア姫の屋敷みたいな恐ろしい空間だったら、エンシュがショック死するかも

 まぁ心臓が無いから止まりようがない気もするけど

「暗い、ですね。あの、リディエラ様、手をつないでもらってもいいでしょうか?」

 エンシュが震えている

 どうやら同じことを想像してしまったらしい

「うん、じゃぁ一緒に行こう」

「あ、ずるいですよ! 私も繋いでください!」

 テュネも僕の手を取った

 二人の間で背の低い僕が手に掴まっている状態なので、まるで昔何かで見た捕まった宇宙人のようないで立ちになってる気がする

 しばらく暗い石造りの道を進むと、いきなり周りのランタンに火がともった

「ひぃいい!!」

 痛い痛い痛い、エンシュが僕の手を思いっきり握った

「ちょ、落ち着いてエンシュ!」

 ただ火がともっているだけだから怖くない

 でも変な想像をしてしまったエンシュは目をギュッとつむって開けていない

「エンシュ、大丈夫ですよ。何もいませんから」

 テュネも言ってる通り、道に何の気配もない

「そ、そうですか?」

 エンシュは目を開けて周りを見てホッとしたようだ

 それから明るくなった道を進んでいくと、さらに明るい場所に出た

 そこには、一人のダークエルフの女性が立っている

「あらあら、可愛いお客さんが来たみたいね」

 その、何というか、凄く際どい恰好です

 何その恰好は! ほとんど裸じゃないですか!

 僕が思わず目を背けていると

「あらー、可愛いお嬢さんね。お姉さん食べちゃいたいくらいよ」

 ダークエルフのお姉さんが近づいてきた

 それに警戒して僕らは武器を構える

「まぁ、穏やかじゃないわね。ここからのフロアは戦闘はなし。武器をしまってちょうだい」

 ん? このお姉さんと戦うんじゃないのか

 それどころか、ここからは戦っちゃダメ?

 どういうことなんだろう

「ここはね、ヤッキーユケーンというゲームで遊んでもらうことになってるの」

「ヤッキーユケーン?」

「そうよ。ルールは簡単。じゃんけんをして負けた方が脱いでいって、全部脱げちゃった方の負け。簡単でしょ?」

 野球拳だこれー! 野球拳だこれ—!

 思わず心の中で二回ほど叫んでしまった

 それにしても野球拳? 何でここに来てそんなゲームをするんだろう?

「どうしてゲームなのかって顔をしてるわね。それはね、運という要素も冒険には大切だからよ。運は時に命の危機からも救ってくれる。だからここからはその運試しなの! あ、全員負けちゃったらゲームオーバーだから気を付けてね」

 なるほど!って納得はしてないけど、戦わなくていいなら楽かも

「それじゃぁ始めましょ」

 お姉さんとのゲームが始まった

 一番手はテュネ

 テュネの服の枚数は体全体を覆う厚手のローブと下着で三枚

 おねえさんもそのくらいかな

 結果としてテュネは全裸になった

 対するお姉さんは一枚も脱いでいない

「くっ、こんな辱めを受けるなんて」

 テュネは手で体を隠しながら後ろに下がった

「安心しなさいテュネ、仇は私がとってあげる」

 エンシュが前に出た

 彼女が着ているのは拳法着の上下、下着で計四枚

 お姉さんよりも多いから有利そう

 結果、裸になったのはエンシュだった

 お姉さんはまたしても無傷

「ほらほら、皆裸になってゲームオーバーかしら?」

 お姉さん、余裕そうである

「次は私が行きます!」

 アスラムは農家の服上下、農家の帽子、下着の計五枚

 さらに有利だ

 そしてまたしても敗北

 その後ローブと帽子と下着の計四枚のフーレン、剣術士の鎧、ブーツ、兜、中着、下着の計7枚を着ていたクノエちゃんも敗北し、なんと最後の僕の番になってしまった

「あら、お嬢ちゃんが最後なのね? これは脱がしがいがあるわ」

 お姉さんがいやらしい顔で僕を見つめ、手をワキワキと動かしている

 正直気持ち悪いです

 でも、僕が勝たなきゃここで終わっちゃう

 気合を入れて行こう!

「行くよ! じゃんけんっ・・・」

 結果は僕の圧勝だった

 一度も負けることなくお姉さんは素っ裸に・・・

 何で隠さないの?

「負けちゃったわね。お嬢ちゃんの運、素晴らしかったわ」

 勝ててよかった

 お姉さんは嬉しそうに手を振って僕らを見送ってくれたんだけど、その前に服は着て欲しかったなぁ


 六十二階層はくじ引きのフロア

 当たりを引けばクリアで、外れだとその紙に書かれた恥ずかしい罰ゲームを受けなきゃいけない

 当たりを引いたのは僕で、そのほかのみんなはそれぞれ罰ゲームを受けた

 中でも一番恥ずかしいであろう罰ゲームはエンシュの変な踊りだと思う

 カクカクとマリオネットのような踊りを踊らされていて、本人も顔を真っ赤にしていた


 六十三階層はクイズだった

 ここはテュネとアスラムのおかげで順調に正解

 あっけなくクリアできてしまった

 ちなみに一問間違えると罰ゲームで、またも恥ずかしいことをさせられる

 まぁ一問も間違えなかったからどんな罰ゲームかは分からなかったけどね


 六十四階層は神経衰弱のようなカードゲームで、ニヒルな狐獣人のお兄さんが相手だった

 相手も相当に強くて、いくつも当ててたんだけど、僕の運とテュネの記憶力で何とか勝てた


 六十五階層は特定の技で開く扉を突破していくゲームだった

 ここはクノエちゃんが大活躍で、火炎式、氷結式、雷式、暴風式といった剣術で見事に正解していく

 ちなみに間違えるとその場で三分間くすぐられるらしい

 クノエちゃんのおかげで間違わなかったけどね


 六十六階層

 音楽の間

 ここでは流れて来る歌の名前を当てるイントロクイズのようだ

 歌が大好きなテュネが次から次へと正解していくんだけど、最後が曲者だった

 テュネが聞いたことのない歌だったのだ

 考え込み、残り数秒と言うところで意外なことにフーレンが答えた

「この歌~、昔お友達の音楽の精霊ミュゼが歌ってました~。やっと名前を思い出せたんですよ~」

 どうやら考えていたから答えるのが遅くなったらしい

 フーレンのおかげでここも突破できた


 六十七階層

 料理勝負

 ここでは料理の得意なアスラムとフーレンが作った

 味を見てくれたのは異世界から来た料理人のおじさんだ

 この人多分だけど、地球の人だと思う

 フランス語のロゴが書かれた帽子をかぶってるからね

 ちなみに勝負の相手はこのおじささんがこの世界で弟子にしたカエル獣人の女の子

 目がパチリとして可愛い

 カエル獣人と言っても顔は人に近くて、髪の毛もちゃんとある

 ただ、体色は薄い緑で、手足には水かきがついてる

 勝負の結果は僅差でアスラムたちの勝利

 まぁ普段から料理はしてるし、長い間料理の研究をしてるアスラムなんてプロレベルだもんね

 カエル獣人の女の子は一から修行しなおすと言ってやる気に満ち溢れているみたい


 六十八階層

 今度はドッヂボールだ

 相手は五人のコボルト族

 動きが速いうえに的が小さいからなかなか当てにくい

 それにボールの速度が速い

 フーレンとクノエちゃんはすぐに当てられて外野に出ていた

 このドッヂボール、外野はいなくて、どちらかが全員当たってしまうと負けらしい

 どうしよう、数の上では完全にこちらが不利になってしまった

 そう思ってたんだけど、エンシュがボールを奪ってからがすごかった

 相手に当てるとボールはエンシュの元に帰ってきて、さらにそれを彼らに当て、またボールが帰ってくる

 すごいよエンシュ、どうやら当たった時の反射角を計算して当ててるらしい

「昔からこういうのは得意なんですよ」

 エンシュ、すごく楽しそうな笑顔だ

 まぁおかげでここもクリア

 コボルト族たちはかなり悔しそうな顔をしてたね


 六十九階層

 空中にいる敵をショックガンで撃ち落とすボーナスステージ

 ただし制限時間あり

 三十分以内に撃ち落とさないと恥ずかしい罰ゲームが待っている(負けても罰ゲームだけで次の階には進めるらしい)

 ここは僕ら精霊とクノエちゃんの動体視力で簡単にクリアできた

 フフフ、精霊族の目の良さをなめちゃだめだよ

 本気を出せば数キロ先の文字も読めるからね


 七十階層のボスフロア

 ゲームマスターと名乗る人間族のおじさんだった

 彼が提案した勝負はずばり、ババ抜き!

「運が悪かったな君たち。ここのゲームは日替わりで変わるんだが、今日は俺の負けたことのないババ抜きだ。ポーカーフェイスマスターと呼ばれる俺の実力を見せてやろう」

 あれ? あなたさっきはゲームマスターって名乗ってませんでしたっけ?

 まぁそれはいいとしても、自信に満ち溢れたおじさんの顔からして本当に負けたことがないんだと思う

 これは、手ごわいぞ

 何せこの勝負は一対一の一回勝負

 もし負ければその時点でゲームオーバーなんだ

 ここは僕が、やるしかない

 で、結果は、ぼくの圧勝だった

 相手がジョーカーを持ってたんだけど、一度も引くことなく勝てた

 ものすごーく悔しそうにしているおじさん

 僕をジーッと見て

「な、なるほどな。そういうことか」

 ん? なんだろう?

「君、いや、君たちは精霊様だったというわけか」

「え? 何でわかったんですか?」

「俺の目は特別製でね。相手の情報を読み取ることができるんだ。この世界に来た時に得た能力らしいんだが、いやはや、精霊様のしかも王女様だったか。それなら勝てないのも納得がいく」

「ど、どういうことなんですか?」

「いいかいお嬢さん、精霊の加護は当然知っているだろ?」

 当然だ。僕と母さんはマクスウェルという精霊の王で、勇者や土地に加護を与えるのが仕事だもん

「精霊王マクスウェルの加護には運が大幅に上昇する効果がある。それはもちろん君自体にも働いているというわけだ」

 なるほど、僕は恐ろしく運がいいってことなのか

 それでじゃんけんも負けなかったんだ

「ま、それも実力だからな。先に進むといいよ。 おっと、これを渡すのを忘れていたな」

 おじさんが渡してくれたのはグットラックというアイテムで、一度だけゲームオーバーを免れるらしい

「俺をババ抜きで負かしたんだ。絶対に攻略してくれよ」

 おじさんと握手を交わして先に進んだ

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