黒の国20

 四十一階層

 もう少しで半分だね

 ここまでで三日くらいたってる気がするんだけど、外の様子が分からないから実際にはどのくらいたってるかは分からないんだよね

 さて、ここは真っ暗な迷路みたいで、ゾンビやレイスなどのアンデッドが徘徊している

 以前レイスクイーンのエルナリア姫が治めてたデスヘルズもアンデッドが多かったけど、ここのアンデッドたちはあそこと違って知能がない人形のような存在だった

 というか階段を上ってすぐの立て看板に、ここのアンデッドは人形を使った仮初のアンデッドですと書いてあったからまさしく人形だね

「デスヘルズのアンデッドに比べれば全く恐ろしくないですね」

 あれ? テュネさん、足が震えてますよ?

 この階は僕とフーレン、それにクノエちゃんが役に立った

 僕はターンアンデッドという魔法でアンデッドたちを浄化し、フーレンは炎魔法で焼き、クノエちゃんは火炎式の剣術で同じく焼いていた

 ゾンビやグールなど形ある動くご遺体は焼けば倒せるんだけど、レイスやゴーストはあまり効果がないみたいで、僕が全て浄化していた

 そのため魔力が切れかかってしまう

 それにフーレンとクノエちゃんもちょっとやばいかも

 かといって他の三人じゃ有効打が与えられないんだよね

 と、ここでテュネが僕たちの回復のために歌った回復のアリアと、なんとなく試した終焉のレクイエムが見事にマッチングしたらしく、浄化のハーモニーという特殊な歌になった

 これはどうやらアンデッドに対して非常に効果のある歌だったようで、次から次へと撃退していった

 ちなみに終焉のレクイエムは残り体力がわずかな敵に対して一定確率で即死効果を持つ歌なんだけど、これがまた確率が低すぎて使えない・・・

 ここで大量のアンデッドに囲まれて慌てたテュネがそのレクイエムをうたったおかげで浄化のハーモニーが歌えるようになったのだ

 うん、災い転じて福となすだね

「ふふふ、ガンガン行きましょうリディエラ様! 私にお任せください!」

 今まで怖がらせた恨みとばかりにハーモニーによってアンデッドを撃退していくテュネ

 よかったねテュネ、でもこの歌はここでしか効果ないから外では歌わないでね

 そのまま同じような階層の四十二、四十三、四十四階層を突破

 楽勝楽勝


 四十五階層

 毒の沼が広がる湿地帯

 沼に入ると常時ダメージを受けちゃうから避けて進まないと

 でもあまりに大きい沼もあった

 そこは大いなる水で足場を作って回避

 敵が出ないと思ってたら階段が見えてきたところでとうとう出てきた

 これ、ラスボスじゃないの?

 レッサードラゴンゾンビ

 レッサーの割にでかいよ!

 レッサードラゴンゾンビは毒のブレスを吐いてくるんだけど、僕の結界で防ぎながらテュネの歌が終わるのを待つ

 終わった瞬間にドラゴンゾンビはチリとなって消えた

 この浄化のハーモニー、アンデッドに対して強すぎる気がする


 四十六階層から四十九階層

 ここはドッグゾンビが徘徊し、ウルフグールという上位種までいる

 動きも早くて厄介だけど、浄化されてあっという間に倒されていった

 テュネは得意げな顔で楽しそうに歌を歌ってる

 それにしてもテュネは歌がうまいなぁ。ディーバって職がよく合ってるね

 順調に進んでたけど、最後の四十九階層の階段前にいたケルベロスは強かったな

 なんせ浄化のハーモニーが効かないし、炎攻撃だと逆に元気になってしまう

 だからここはごり押しで倒した

 みんなで袋叩きである

 ちょっとかわいそうな気もするけどね・・・。ごめんねケルベロス


 さぁ、いよいよ半分まで来たよ

 五十階層

 ボスはデュラハンだった

「ふむ、ここまでたどり着いたのはあなたたちで十組目です。私の名はフェルディス。デュラハンのフェルディスです」

 フェルディスさんは自分の頭を手に抱えている

 その顔は結構イケメンだ

 金髪セミロングの髪型に優し気な顔立ち

 生前は別世界の貴族だったらしいんだけど、配下の裏切りで首をはねられてデュラハンになったらしい

 なったばかりのころは恨みだけで動いてたけど、黒族の人達に会って憎しみだけを浄化してもらい、今は生前と同じ性格に戻っているという

「では、騎士の誇りにかけて正々堂々行かせていただきますよ!」

 フェルディスさんは腰からレイピアのように細い剣を抜き、バックラーを構えた

「ここは私が!」

 テュネが前に出た

 ちょ、君は攻撃手段がないんじゃ?

「ご安心くださいリディエラ様、必ず勝ってみせます」

 テュネはまず強化の歌をいくつか歌った

 フェルディスさんは律義に待ってくれている

「では行きますよ! デュラハンの騎士様!」

 テュネはどこからか手持ちのハープを取り出した

 それをポロロンと奏でると、弓のように光の矢が飛んだ

「え? そんな攻撃手段があったんだ」

 ハープを奏でる度に矢が飛び、フェルディスさんに襲い掛かる

 この矢、追跡機能もあるみたいで、フェルディスさんが避けても矢が曲線を描いて彼を襲った

 それをうまくバックラーで防いでいるけど、テュネの猛攻が止まらない

「厄介ですね。でも」

 フェルディスさんの動きが変わった

 ステップで矢を回避しつつ、だんだんテュネに近づいて行っている

「ウッドペッカー!」

 とてつもなく素早い突きを幾撃もテュネにお見舞いする

「シールドオブハープ!」

 弦をはじくとハープに光の膜が張られてフェルディスさんの攻撃を防いだ

「やりますね」

 またもテュネの猛攻が始まる

 しかも今度は近接だ

「ソードオブハープ!」

 ハープの弦がまとまり、剣の握りになる

 光る刃が伸び、美しい剣となった

 まるで踊りでも踊るかのように華麗に舞うテュネは芸術のようだ

「剣舞、流水のロンド」

 流れるような剣の動きにフェルディスさんは翻弄され、やがてダメージを負い始めた

「くぅ、これ、は・・・。隙がありませんね」

 テュネの動きは洗練されていて、フェルディスさんは反撃の余地もなく倒された

「ハハ、負けてしまいましたね。久しぶりですよ、負けたのは」

 すがすがしい顔で喜んでいるフェルディスさん

 ただ、その顔は地面に転がってるんだけどね

 それがなければ非常に絵になっていたと思うよ

「では次の階層へ進んでください。それとこれを持って行ってください」

 渡されたのは通行手形だ

 これも特定の場所で使えるアイテムらしい

「次の階層も頑張ってくださいね。攻略できることを祈っていますよ」

 フェルディスさんは首を持ち上げて階段の裏にあるボスの控室へと戻って行った

 彼らボスは挑戦者が来るまでの間はその部屋で待機しているらしい

 以外な事実にちょっと笑ってしまった

 いよいよ半分まで来た

 残りもう半分だね

 これからもっと厳しい戦いになっていくだろうけど、ここまで来たら絶対攻略したよね

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