第219話瑞樹:・・・
——瑞樹——
「佳奈っ!」
「オッケー!」
瑞樹の掛け声に反応して佳奈が自身の武器である大槌を構え、モンスターへと駆け寄っていった。
岩でできた巨人のようなモンスター——ゴーレムは脅威である佳奈を排除するべく迎撃の構えを取ったが、その拳に後方から飛来した炎の塊がぶつかり、その行動は阻害された。
そうしてゴーレムの動きが止まった時にはすでに佳奈はゴーレムの足元までたどり着いており、走った勢いを無くすことなくそのまま大槌を振り上げてゴーレムを砕いた。
「今日も生き残れましたっと」
「あとは素材を回収して換金に行くだけね」
「油断は禁物」
「そうだよ。この間だって最後の最後で怪我しちゃったでしょ」
「あははー。ごめんって」
今しがた佳奈が倒した一体を最後に、瑞樹たちの周囲のモンスターは全滅していた。
ゴーレムは純粋な生物というわけではないので倒しづらく、等級としては最低でも一級。状況に応じては特級とされる場合があるのだが、それでも瑞樹たち誰一人として大怪我をすることもなく余裕を持って勝つことができていた。
「回収は終わったわ」
「りょーかい。それじゃあ、油断しないで戻ろっか」
瑞樹が素材となる部分であるゴーレムの核を取り出すと佳奈はそう言って笑い、瑞樹達〝四人〟はダンジョンから現実世界である日本へと戻るために歩き出した。
「じゃあ、また明日!」
そうしてゲートから出て素材の換金を終えた瑞樹たちは少々の反省会を行ない、次の予定を話し合ってから解散することとなった。
「瑞樹。珍しいじゃん。あんたがこっちに来るなんて」
「んー。まあたまにはね。少し一緒に歩かない?」
瑞樹たちは全員が一人暮らししているので、普段ならそれぞれの帰路に付くはずだ。
だが、今日はどう言うわけか瑞樹は佳奈の隣を歩いていた。
「この場所も、懐かしいわね」
「うん。今も、楽しくないわけじゃないけど……あの頃の方がよかった、って言ったら、瑞樹は怒る?」
「ううん。私も、あの時に戻りたいって思うもの」
そうしてしばらく歩いた二人の前にあるのは学校だった。
思い出されるのは自分たちがこの場所に通っていた当時のこと。
すでに卒業してしまい、もうこの場所に通うことはないはずなのだが、それでも佳奈は時折ここにきてしまっていた。
それが何を思ってか……何を思い出してなのか、瑞樹には痛いほどよくわかった。
「「……」」
二人はしばらくの間黙って校舎を見上げていたのだが、不意に佳奈が校舎から視線を外して学校ではないどこかへと歩き出し、瑞樹はその後を追っていった。
「あれからもう三年か……」
「時間って早いものよね……」
例の事件——巷では『ゲート大暴走』と呼ばれる救世者軍による突発性のゲートが多数出現した以上事態が収束してから三年の月日が経っていた。
あの日、瑞樹達の師であり恩人であり、それ以外にも様々な想いを向けられていた冒険者の伊上浩介が突発的なゲートをまとめていたダンジョンのコアを破壊し、救世者軍によって出現したゲートのほとんどが消え去った。
あいにくと、異変以前からあった既存のゲートは残ったし、異変以降のものも全てのゲートが、とはいかなかったが、それでも既存のゲート以外には数えるほどしか残らず、それ以降は新たなゲートの出現の数も異変以前よりは減った。
ゲートが消え、出現数が減ったことは喜ばしいことではあるが、それで事態が収束すると言うわけではない。
だが、それでもあの日、異変は終わったのだ——一人の犠牲によって。
「……ねえ、佳奈は恋人とか作らないの? 晴華はともかくとして、私たちに気を使ってるのか、柚子もそう言う話は聞かないし……」
「……それ言ったら、あんただってそうじゃん。他の勇者とのお見合いの話、流れたんでしょ」
当時から三年経過した今では、瑞樹たちは成人しており今年で二十一になる。
瑞樹は勇者ということもあるが、瑞樹のチームは四人とも見目が悪いわけではないのでそれなりに人気はあった。
だが、四人のうち誰一人としてうわついた話がなく、そう言った話が出てきてもすぐに消えていった。
それは単に、まだ自分たちの気持ちを整理することができないでいるから。
「あーあ。あたし達。これからどうなるのかなー」
佳奈は冗談めかして言ったが、その声にはどこか空虚さが感じられる。
瑞樹もそれがわかっているのだろう。何も言わないでチラリと佳奈のことを見てからすぐに視線を前へと戻した。
そうして再び訪れた沈黙。
普段チームで行動している時は楽しげに話しているだけに、今の状態は痛いくらいに静かに感じてしまっていた。
「結局さ、瑞樹ってあいつのことどう思ってたの? やっぱりさ、まだ好きなの?」
その沈黙を破ったのは、そんな佳奈の言葉だった。
「……そうね。……ええ。私、誰かを好きになった事があの時以外ないから、はっきりとはわからないけど……多分、今でも好きなんだと思うわ」
「そっか」
だがそんな言葉もすぐに途切れてしまう。
ここで話が途切れてしまうのは、瑞樹が愛想が悪いせいでも、現在佳奈と仲が悪いわけでもない。瑞樹は基本的に愛想はいいし、佳奈ともこうして一緒に帰るくらいには仲がいい。
ただ、いつものことだ。いつもこの話になるとどちらからともなく自然と黙ってしまうだけ。
それでもあえてその話題を出すのは、お互いに未だ整理のつかない胸の内に溜まった感情と、その原因となっている過去を乗り越えようとしているからなのだろう。
……あいにくと、その考えはうまくいっているとは言えない状態ではあるが。
忘れよう。忘れたい。
そう思っても、ふとした瞬間に楽しかったあの時を、そして最後に見た困ったようで、でも優しげな顔が忘れられなかった。
「このあとはどうするの?」
「んー、どうって言っても、帰るだけかなー。もう家もすぐそこだし」
この辺りはそれほど物価が高くない。この場所は首都まで一時間ほどの距離にあるが、首都から少し離れているため、ものによっては2LDKで月三万程度の場所だってある。佳奈が住んでいるのもそんな安いアパートの一つだった。
佳奈に限らず、一級と勇者のチームである瑞樹達の稼ぎはかなりのものである。それこそ首都の中心部に家を変えるほどに貯金もある。
それを考えれば、佳奈はもっといいところに住んでもおかしくない。
だが、それでも今暮らしているような安めのアパートで生活しているのは、以前この辺りに住んでいると聞いたことがある想い人に影響されてだろうか。それとも、その想い人をまだ忘れられないからか。もしくは、忘れたくないからか……。
「そう。じゃあ今日はこの辺で帰ることにするわ。またあし——」
また明日。そう言って瑞樹が帰ろうとした、その瞬間……
「あー、やっぱなくなってるよな。そうだよなぁ。そりゃあそうだ。三年も家賃払ってなきゃ強制退去的なあれがあってもおかしくないだろうなぁ」
聞いたことのない、だがどこか聞き慣れた声が二人の耳に聞こえてきた。
その声は少し離れたところから聞こえるような小さなものだったが男の声だとわかった。
不思議と耳に残った声が言っている内容は大っぴらに言うようなものでもない情けないもので、二人には関係ないはずだった。
だが、二人はその声から意識を逸らすことができなかった。
「どうすっかね……。金がないし、働くにしても戸籍がなぁ……いや、行方不明は七年くらいだったはずだし、残ってんのか? でも働くにしても住所がねえや。そもそもこの服だってパクったやつだからなぁ……全裸で捕まるよりはマシだとはいえ、後で事情を話して謝罪に行かねえと」
そうして二人は特に示し合わせたわけではないが、自然とその声の主人を探して辺りを見回し——見つけた。
声の主と思わしき男性は、近くを流れる小さな川を見つめながら草の上に座り込んでいた。
その言葉には行方不明だとか全裸だとか、パクったなどという不穏な単語も聞こえてくるが、その声には小物くさい罪悪感は感じられるものの、それを恥じたり悔いたりする響きはなかった。
むしろ、懐かしさや親しみさえ感じてしまっている。
「研究所に行くか? でもあそこまで歩くとなると、地味に距離あるぞ。いや歩けねえこともねえけど」
『研究所』。その単語を聞いた瞬間、瑞樹と佳奈の二人は顔を見合わせた。
ここから歩いて行けるような距離に研究所なんて呼ばれる場所はそう多くない。
二人が知っているのは、学生だった頃に教えてもらい、最近でも時折通っている場所だけだった。だが視線の先にいる男は見かけたことがない。
もちろん二人が職員全員を知っていると言うわけではないし、二人が思い浮かべた場所とは違う『研究所』と呼ばれる場所なのかもしれない。
だがそれでも、二人の頭の中にはそんな考えは浮かばず、一つのことが……一人のことだけが占領していた。
「それになあ。研究所に行くと、ニーナに怒られそうだし、今の状態で怒られたら死にかねないんだよな。元々俺が生き残れたのはあいつがある程度加減して遊んでたからだし……はあ」
ありえない。そんなはずがない。あんな姿じゃなかった。
男のことを正面から見たわけではないが、その横顔や後ろ姿は二人が知っている人物のものに似ている。
だが、似ているだけだ。男の年齢は二十過ぎと言ったところで、自分たちの知っている人物よりもかなり若いのだ。だから、そんなことがあるわけがない。
瑞樹と佳奈はそう考えて自分の中に浮かんだ希望を捨てようとする。
しかし、できなかった。
いくら否定しても、もしかしたら、と縋り付いてしまう。
何よりも、男は『ニーナ』という名前を出したのだ。研究所とニーナ。その二つの言葉が並んでいるとなると、それを知っている人物なんて限られるし、『ニーナ』の名前を親しげに呼ぶような者となると、さらに限られる。
そう考えてしまえば、もうだめだった。否定なんて、できるはずがない。
どういうことか若返っているがあそこにいる人物は、自分たちを残して一人で勝手に消えていった酷いやつ本人なんだと、そう思ってしまった。
「あとは、あいつらのこともあるよなぁ。研究所に行けば多分ニーナからバレるだろうけど、今更顔出したところで絶対に怒ってるのは確定的に明らかだし、割と最後に恥ずかしいこと言ったような気も……いや覚えてないけど」
その言葉はどこか自分に言い聞かせて忘れようとしているような、そんな響きがあった。
そうしてつぶやいている男の正体に思い至ると二人は顔を見合わせたが、瑞樹はなんとも言えないような呆れを含んだ笑みを浮かべ、佳奈は嬉しさに涙を流しながら笑った。
二人はもう一度男に向かって視線を向けると足踏み出そうとしたが、一歩踏み出しただけでその足は止まってしまった。
あの男が自分たちの思っている人物なのはほぼ間違いない。姿は変わっているが、その程度では間違えたりしない。
……でも、もし違ったのなら?
あの人は生きていたんだと希望を抱いてしまったが、もしこれで別人だったのなら、自分たちは……。
そう考えると二人はそれ以上足を踏み出すことができなかった。
「つっても、そのうち覚悟決めないといけないわけだってのは変わらないわけで……はあ。こんな言葉聞かれたら怒られるかもしれないけど、あのまま戻ってこないで死んでてもよかったんじゃ——っ!?」
男がため息とともに吐き出したそんな言葉を聞いた瞬間に、二人は無意識のうちに男に向けて怒気を放ち、男はそれを受けてすぐさま立ち上がり振り返った。
立ち上がった男は腰を落として手を背中に回したが、そこに何もない。
それは明らかに慣れたものの動きで、そして二人が数年前にはよく見ていた動きだった。
「怒られるってわかってんなら……」
「そんなこと言わないでくれませんか?」
顔を見た瞬間、「ああ、やっぱり間違ってなかった」と泣き出しそうになる二人だが、まだ泣くわけにはいかない。
言いたいことはいっぱいあるんだからそれまでは、せめてあの時のことに文句を言うまでは我慢だ、と抑え込んで、できるだけ昔のような態度で声をかけた。
「いや今のは独り言で……てか誰だよ?」
「「え?」」
だが、男の訝しげな視線とともに放たれた言葉に、瑞樹と佳奈は色々な想いを吹き飛ばして唖然としてしまった。
「確かに死んでもよかったなんて言うべきじゃなかったかもしれないが、他人の独り言に口を……出すべき、じゃ……ないと思うんです?」
だが、最初は威勢の良かった男の言葉も、途中で目を丸くして驚きを見せてから勢いを無くしていき、最終的にはイタズラがバレた子供のような表情をして二人から視線を逸らした。
「えっと、伊上さん?」
そんな様子を見て、やはり合っていたんだと思ったが、それでも自分たちのことを否定されたのは事実なので、瑞樹は確認するようにおずおずと声をかけた。
だが、僅かとはいえ男が二人のことを見間違えたのも無理はない。何せ、以前に会った時からもう数年が経っているのだ。体格にそれほど差はなかったとしても、髪型や雰囲気は変わっていることだろう。
「……どちら様ですか? その伊上という人も、知りませんが」
しかしそれでも男は否定する。内心では、もうバレてんだろうなと思っているし、逃げ切れるとも思っていない。
だが、それでもなんの覚悟もできていない状態で遭遇するのはどんな顔をすればいいのか分からないので、とりあえずこの場から逃げ出したかった。
「あー、これ以上はお互いに関わらない方がいいと思うんで、それではこれで失礼させていただきます」
故に、問題の先送りでしかないとわかっていながらも、男は早々に話を切り上げて身を翻して歩き始めた。
「あ、ちょっ、待ってよ! 待ちなさいってば!」
佳奈はそう言って声をかけるが、それでも男は足を止めない。
「……あ。伊上さん、財布落としましたよ」
「え? ああ、悪いな……って馬鹿言え。今の俺は財布なんて持ってねえんだよ。そのせいでさっきから悩んでたってのに——あ?」
止めても無駄だろう。シラを切られるだけだと理解した瑞樹は、まるで昔一緒に行動していた時のように名前を呼んで声をかけてみた。
すると、そんな瑞樹の言葉が自然なものだったからか、突然の遭遇で慌てていた男——浩介はその言葉に素直に反応してしまった。
そのことがまずいと浩介自身気づいたようだが、もう遅い。
「やっぱあんたじゃない!」
そんな叫びとともに佳奈は走り出して浩介の背中に勢いよく抱きついた。
「ぐおっ!?」
当然と言うべきか、浩介はそんな佳奈のタックルに耐え切ることができずに押し倒され、佳奈はもう離さないとばかりにさらに腕に力を込めた。
「ま、まった……死ぬ……」
「死ぬなんて言わないでよ!」
「いや、お前のせい……ぐえっ」
そのため、浩介は内臓を吐き出すかと思うほどに腹を潰されることとなってしまいその手を振り解こうとするが、佳奈は振り解かれようとしている手にさらに力を込めて浩介を締め付けた。
「どうして……どうやって?」
佳奈のように素直に抱きつきに行けなかったことを悔しく思いながらも、そんな二人のおかげで少しは冷静に慣れた瑞樹は浩介から話を聞くために佳奈を引き剥がしにかかり、落ち着かせた後にそんな言葉を口にした。
浩介ももう逃げられないと思ったのか、視線は二人から逸らしながらもため息を吐き出してからゆっくりと話し始めた。
「ゲートが閉じた後、ダンジョンは徐々に崩壊していったんだが、ゲートの異常崩壊の話を聞いてから対策はしてたんだ。で、なんとか生き残ったからどうにかこっちに帰れないかと頑張ったんだよ。ほら、あいつらもゲートを開くことができたわけだし、俺はダンジョンの中にいるんだしで、どうにかできないかなー、と試行錯誤してたらどっかのゲートに繋がって、そのまま出てきた」
そうして浩介の口から出てきたのは随分と簡素な答えだった。実際には本人が言っている以上に色々とあったのだろう。
だが浩介は、それは今詳しく説明するようなことではないと思ったし、二人も今聞かなくてもいいと思った。
「見た目は……悪いが先に謝っておくな。補充薬やら造血剤を使おうとしたんだが、戦った後でフラついてて意識がはっきりしなかったせいで、お前から預かった薬を飲んじまった」
三年前の作戦開始の前日、瑞樹は浩介に生きて帰るための約束として強引にかなり高価な薬を押し付けていた。それを返したければ一緒に生きて帰ってこよう、と。
まあそれは俺のせいで守れなかったわけだが。
「若返りの薬……?」
「ばかっ! ばかあ〜!!」
見た目が変わった理由もわかり、本当に浩介本人なんだと理解すると、佳奈は浩介に抱きつき、堰を切ったようにうわあああ、と声をあげて泣き出してしまった。
「言いたいことはいっぱい……いっぱいあるけど、それは後でいいわ。また一緒にいられるんだもの」
泣き出してしまった佳奈の姿を見て、瑞樹は我慢しようと思っていたがそれでも耐え切ることができずに涙をこぼしながら笑った。
「あー、生存を喜んでくれるのはありがたいし、嬉しいんだが、……一緒にって、また冒険者でもやれてか? やだよ。俺はもう穏やかに余生を過ごすんだよ」
浩介はそんな生きていた自分に対して泣いてくれた二人のことを嬉しそうに見ているが、本人としてはもう危険なところに行きたくないし、戦いなんてしたくなかった。
それは今までのような冒険者という仕事へ抱いていた逃げの感情からではなく、純粋に嫌だったからだ。
だがそれも当然だろう。ひとりぼっちの空間に何年も放置されるなんてことを経験してしまえば、もう一度やりたいとも思えないに決まっている。
だがしかし……
「だめよ。これはリーダーからの命令なの。絶対に許さないわ」
「いや、リーダーっつっても、もう俺はチーム抜けてるだろ」
「まだよ。まだ、あなたのチーム登録は消えてないの」
自分がいなくなった時の状況が状況だし、もう数年経っているのだから死亡判定されて登録やなんかの諸々は消えているだろうと浩介は考えていたのだが、瑞樹はその言葉を首を振って否定した。
「は? おい勇者。んなもんとっとと解雇しとけよ。で、別のやつを入れとけっての。もう俺みたいなのに引っかかるなって言っただろうに」
「そんなの聞いてない」
浩介に抱きつきながら佳奈がくぐもった声で答えた。
「え? ……ああ、あれはお前らが寝た後に言ったんだったか?」
「それに、消せるわけ……ないじゃない」
悲しげな顔でそんなことを言われてしまえば、浩介にはそれ以上何も言えなかった。
抱きつきながら啜り泣く佳奈に、目の前で涙を溜めて自分のことを見てくる瑞樹。
その二人ともう少しまともに話すために場所を変えようと思った浩介だが、自分の家はもうないんだということを思い出した。
「若返ったんだから、歳を理由で辞めさせたりしないんだからね!」
さてどうしたものかと考えていると、不意に佳奈がバッと顔をあげて浩介のことを真っ直ぐに見つめながらそう叫んだ。
「そうね。これからはずっと、ずーっと一緒よ。死ぬまで辞めさせたりしないわ」
「ざけんな! もう十分すぎるくらい働いただろ!? それこそ死ぬほど働いたんだぞ! もう休んだってバチは当たらねえだろうが! さっさと俺を解雇しろ! くそ勇者!」
二人の言葉に浩介は抱きついている佳奈を剥がそうとしながらそう叫んで返すが、瑞樹と佳奈は取り合わない。
それどころか、佳奈に加えて今度は瑞樹までもが浩介に抱きついた。
「もう絶対に離さないんだからっ!」
「これからも一緒よっ!」
そうしてその場には、少女のように満面の笑みで笑う二人の女性と、そんな二人に嫌そうな顔をしながらもどこか嬉しそうに見える男性の姿があった。
〜END〜
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