第144話本命までは大体カットされるのが運命
──◆◇◆◇──
俺が精神にスリップダメージを負いながらも訓練を終えた日の翌日の午前。俺たちはとあるゲートの前にある管理所の待合室で待機していた。
今日は平日にもかかわらずなんで学校ではなくこんなところに居るかって言ったら、まあこれから試合があるからだな。
「今回のダンジョンは森だったよな?」
「ですね。と言うよりも、全部森のエリアがある場所になるみたいですよ」
「そうなのか?」
「はい。大人がやる正式な大会の方では地形が変わる場所も混じるようですけど、学生達は森林でやるそうです」
「へえー」
まあ毎回森でのバトルだとマンネリ化するから、変えたほうがいいんだろうな。
ただし、それだと学生達には何かあった時の対処とかは難しいので森だけなんだと思う。
あとは運営人数の差とかもあるのかもな。
「まあそれはそれでいいとして、この相手の情報、調べてきたか?」
「はい」
今回一回戦の相手として選ばれたのはお嬢様達ではなく、宮野達よりも一学年下の一年生のチームだ。
メンバー編成としては治癒師一人で斥候一人、あとは戦士三人っていう少し偏ったチームだ。
編成が偏ったチームだと全ての状況に対処するってのは難しいが、挑むダンジョンをしっかりと選べば特化型のチームとしてやっていける。
魔法が必要な時は道具でどうにかできるし、そもそも行かなければいいわけだしな。
だがまあ、今の時点での実力はそれほどでもないだろうと思う。
入学してから半年程度では、最初の頃の宮野達よりも少し強い程度。
階級としては治癒師と斥候の二人が一級であとの三人が二級なので、素の能力では宮野達よりも下だし、もしかしたら練度もい俺が出会ったばかりの時の宮野達よりもしたかもしれない。
多分だが相手のチームが戦士に偏ったチームなのは、後衛に比べて前衛が劣るために守るにしても攻撃するにしても力不足になる。だから数を揃えようとしたのかもな。
あとは家系や成績なんかの個人情報も調べたが、特に言うべきことはない。
今回は俺がいなくてもなんの問題もなく終わることができるだろう。
当然、宮野達の勝利と言う形で、だけどな。
「にしても、人間相手でこんな調べんの大変だったわー」
「まあモンスターについて調べんのとは違うからな」
って言ってもそこまで深い個人情報とか調べさせたわけじゃないし、簡単だっただろう。
コイツらには簡単なチーム編成や名前、それからこれまで潜ったダンジョンや実績くらいしか調べさせていないからな。
まあ、俺は念のために佐伯さんに頼んで家系まで調べたけど、流石にそこまではコイツらに求めていない。
「でも、情報は武器」
「そうだ。それは誰が相手でも変わらない」
そうして話しているうちに時間となり、俺たちは待合室を出てゲートへと向かった。
「んじゃまあ、頑張れ」
「「「「はい!」」」」
そしてゲートの中に入り所定の位置に着いて待っていると試合は始まったが、俺の予想通り、明確な実力差があった。
相手のチームは宮野が『勇者』ってことで臆したのか、まとまって陣を張り宝を守っていたのだが、突っ込んでいった宮野と浅田と安倍の三人によって蹴散らされた。
そして、全員を倒した後に宝がある場所のヒントの書かれた紙を回収し、宝を発見。それで試合終了だ。
開始から終了まで三十分くらいだろうか?
宝探しの要素はほとんどと言っていいほどないくらいにあっけなく終わってしまった。
──◆◇◆◇──
「うーし。お疲れさん」
「お疲れ様でした」
お疲れって言っても、俺はなんもしてねえけどな。
それにコイツらだって特に疲れた感じはしていない。まあ普段の訓練の方がきつい時があるし、当然だろうな。
「今日の反省は明日でいいだろ。このあとは装備片付けて帰りか」
「ですね」
特に反省するようなこともない気もするが、後で自分たちの行動を見直すってのも必要なことだ。
見直すところがあるんだったら普通に直せばいいし、直すところがないくらい完璧だったとしても、それならそれで自分たちの行動に自信を持てるから見る意味はある。
ただまあ、それは今すぐにやらないといけないってわけでもないので、明日でも構わないだろう。
「で、次は二回戦目があるまで普通に授業するんだったか?」
「はい。確か二回戦目があるのは六日後だったかと」
次の試合まで随分と間があくが、事情が分かっていれば仕方ないと思える。
「毎日何試合かづつしかやらないんだったらそんなもんか」
「元々一ヶ月続く予定だしね。その間全く授業なしってのは無理みたい」
「だろうな」
そう言うわけで、俺たちは明日からはふっつーに授業を受けなくちゃならない。
「確かお嬢様んところとは三回目だったか?」
「そうですよ」
「じゃあ、順調にいけば大体十日後ってところか?」
まあお嬢様と当たる前に二回戦目があるんだが、三年が当たったとしてもコイツらなら大丈夫だろう。
「そんなところですね」
最後の方は参加する班も少ないので一日に複数回戦うことになるみたいだが、それまでは割と楽なもんだ
「今年こそなんも起こらないといいんだけどな」
「ちょっと、やめてよ。あんたが言うとなんか起こりそーじゃん」
俺の言葉に浅田は冗談めかしてそう言い、他の三人も笑っていたが……まじでなにも怒らないといいんだけどな。
──◆◇◆◇──
「今日は三年との戦いか……大丈夫か?」
一回戦を戦ってから数日がたち、今日は二回戦の日だ。
相手は三年生のチームで、二年生よりも三年生の方が一年多く学んでいるので、一般的に見れば格上が相手だ。
とは言っても、コイツらの場合は一般的な格なんて判断基準にならないけど。
何せ特級が——その中でも『勇者』なんて呼ばれる奴がいるし。
今回もコイツらが勝てるだろう
まあ、だからって舐めてかかるつもりはないけどな。
今の三年ってことは、去年の二年生であり、当然ながら例の襲撃を経験している。
あの襲撃を経験した学生達の意識はそれまでとは変わっただろうし、昨年までの三年とは比べ物にならないだろうから。
「平気ですよ」
「誰が相手だって負けないって!」
「ん。問題ない」
「が、頑張ります」
四人と意気込みは十分だな。
これに勝てば次はお嬢様との戦いだし、そうなるのもわかるけどな。
だが、だからといって侮るわけには行かない。
「じゃあ敵の確認だ。敵は五人。魔法二人、治癒師二人、斥候一人。それから教導官も斥候役だ。まあ前回とは逆な感じの偏ったチームだな」
今回の相手チームの基本的な戦い方は、治癒師が結界を張って魔法で仕留める。斥候は敵や地形の調査と、戦闘中の撹乱や阻害がメインの戦い方。相手の使う魔法属性にメタ張れば割と楽に勝てるが、準備できてなきゃ辛いことになるかもしれない相手だ。
まあ、その分メンバーのほとんどが魔法使いなので、機動力は死ぬけど。
でも、殲滅戦や拠点防衛には強い。
相手の作戦としては、専守防衛だと考えている。
事実、前回の戦いの時もそうだった。
自分たちは宝を守って陣地を固め、敵が突っ込んできたら返り討ち。
自分たちは誰もやられず、相手を一人でも倒せれば勝てるってやり方だ。
この試合は冒険者としての活動を元にして作ったゲームだから、素材の採取——目標物である『宝』を探す要素も入っているが、相手のチームは最初から宝は狙わないで、時間切れの人数差で勝つスタイルだな。
ゲームとしてみればその作戦が間違いってわけでもないし、実際にダンジョンに潜っても討伐だけに絞って稼ごうとするならやっていけるだろう。
まあこのやり方も汎用性はないから突発的な事故なんかには弱いけど。
「で、作戦だが、宝は北原が持って、万が一敵が来たら全力で守る。俺とお前らは突っ込んでいって探査と討伐。……質問は?」
宝は宮野が持つのが一番安全だが、それでは宝の所有者は拠点から動けなくなるので攻撃力が減る。
なので、基本的には北原が持つことになっていた。治癒が必要になったら拠点まで戻ってこいって感じだな。
とはいえ、それだけだと万が一敵が今までの定石を無視して突っ込んできた場合に困るので、出かける前にトラップを仕掛けるし、北原には攻撃用に魔法具をそれなりの量用意したけど。
「ありません」
「そか。なら号令を頼む」
宮野へと視線を向けると、宮野はしっかりと頷き、メンバー全員を見回した。
「それじゃあみんな。今回も勝つわよ!」
「「「おおー!」」」
拳を上げてやる気を見せている宮野達を見ながら、俺は声を出しはしなかったが軽く顔の前あたりまで拳を持っていった。
そうして俺たちは待合室を出ると、試合会場となるゲートへと向かっていった。
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