第140話二度目のランキング戦
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夏休みを終えて学校が始まったのだが、今度は件のランキング戦が待っていた。
といても、すぐに始まるわけじゃない。夏休みの終わりは九月の始まりだが、ランキング戦の始まりは十月の初め頃。つまりは一ヶ月ほどの間が開くことになる。
その間は宮野達も普通に学生生活を送ることになったのだが、まあ特になにもなかった。
強いて言うのなら、今年も参加する、と言うか今年こそ勝ち上がると宮野達が意気込んでいたので、そのために鍛えてきたくらいか。
そして今日、ついにそのランキング戦の始まる日がやってきた。ちなみに今は開会式だ。
と言っても、今日は俺たちは戦わないし、今俺は宮野達と別れて教導官用の待機室にいるだけだ。
このランキング戦の様子は、全国放送ではないが学校や特定の施設など一部で放送されているので、今やってる開会式の様子も待機室のテレビにしっかりと映っている。
なので一応その映像を見ながらではあるが、俺は待機室でダラダラとお茶をしている。
このランキング戦は一ヶ月という長丁場だ。
だいぶ長いなと感じるが、学校側で管理できるゲートの数にも限りがあるわけだし、同時にやるにしても連続でやるにしても管理と人手の問題がある。
なので、やるのは学校周辺にある比較的安全なゲートを五つ使って、そのそれぞれで一日に午前と午後に一試合づつだけとなり、どうしても長引いてしまうのだ。
まあ去年はイレギュラーなんてあったし、安全面を考慮すると仕方ない面はあるのだろう。
今日は開会式的なものをやったらすぐに初日の午前の部として、『アドベンチャーハント』とかいう冒険者のやることをゲーム化した宝探し的な競技をやることになる。
だが、開会式後に移動では遅くなってしまうので、その一試合目に参加する生徒達はすでにそれぞれの場所に移動しているらしい。
基本的なルールは去年と変わらないが、一点だけ変わったことがある。
去年と変わったのは、参加は自由参加だったはずだが、全チーム強制参加になった。
これは、実践形式に近いゲームを体験しておくことで、もしもう一度襲撃があっても少しでもうまく対応できるようにと言うことらしい。
だいたい一チームが四、五人だから、一学年は……三十ってところか?
で、一学年三十チームとして、三学年で九十。
それらが午前と午後で一日に十試合として、一回戦だけでも単純に九日もかかる計算だ。
元々一ヶ月近くかかる予定のランキング戦だが、こうして改めて考えるとやっぱり長いなぁと感じる。
「——えー、それではこれにて開会式を終了といたします」
そんな今までの流れやこれからのことを考えながらクソ長くて意味のない偉い人の言葉を聞き流していると、ようやく開会式が終わった。
俺は教導官だから放送を見てるだけで済んだけど、実際にあの場で立ってる生徒達って大変だよなぁ。
「さて、それじゃあ行くか」
そう言ってお茶とお茶うけを片付けると立ち上がってぐっと体を伸ばした。
「おや、では私も行くとしましょうか」
そんなことをしていると、目の前に座っていた男——工藤俊も俺と同じように立ち上がった。
「ついてくる必要はないぞ」
「どのみち向かう先はほとんど同じですから」
まあ、こいつがお嬢様のところに行こうとすれば、宮野達のところに行こうとしている俺とほとんど同じになるのは当然だ。何せ両者ともに開会式に出ているんだから。
「ま、別に良いけど」
「では行きましょうか」
そうして俺たちは教導官用の待機室を出ると、俺は宮野達、工藤はお嬢様達と、二人並んでそれぞれの指導する生徒達の元へと歩き出した。
「……ああ、そうだ。伊上さん」
「あん?」
「助言、ありがとうございました。お嬢様はあなたの言葉を考えて、夏休みの間頑張っていましたよ」
「そうかい。そりゃあよかった」
歩いている途中で思い出したかのように工藤が声をかけてきたが、俺が夏休み前にお嬢様に助言したことについてだった。
だが、そうか。あのお嬢様は俺の言葉を聞いたのか。
それならそれで嬉しいと感じないわけでもないが、問題となることもある。
「……だが、あのお嬢様に言ったように、お前に言ったことは大丈夫か?」
それは俺が他人にものを教えるにあたって危惧していたことだ。
その危惧の内容を簡単にいえば、中途半端な教えを受けたことでそれまでの戦い方を崩して弱体化してしまわないかってこと。
助言を受けて弱体化して、それでも無茶をしてダンジョンに潜って死んでしまったら目も当てられない。
なので、教える際に俺の考えを鵜呑みにはできないようにあえて曖昧な感じで助言したんだが、どうなったんだろうか? とりあえず死んでないし重傷も負った感じではないってのはわかるけど。
「ええ。お嬢様はあなたの言葉をそのまま使うのではなく、考え、調べ、生かせるところを今までの戦いの中に取り入れることになりました。無茶も無理もせず、ただ新しい『力』を取り入れたので、今までの力を損なうことはないですね」
「ならいい。助言したせいで下手に死なれたら、こっちとしても嫌な気分だからな」
どうやらお嬢様はしっかりと自分で考えて強くなれたようだ。
それがどんなふうに俺の助言を取り入れたのかはわからないが、この工藤が『強くなった』って言うんだからそれなりには強くなったんだろう。
「では、今年こそは勝たせていただきますよ」
「馬鹿言え。去年勝ったのはお前の班だっただろ」
宮野達に手を振りかえしながら工藤の言葉に答えるが、『今年こそ』なんて言わなくても俺たちは去年負けている。
去年は宮野とお嬢様のチームの勝負としては宮野達が勝った気がするが、試合そのものは負けだった。
「あれを勝ちにいれると思いますか?」
「どれほど納得いかなくても、勝てば勝ちで、負けたら負けだ」
「それは、まあ確かにその通りですね」
ダンジョンでの冒険者の活動をもとに作った実践型のゲームってことは、勝ち負けはそのままダンジョンでの生死という結果を表していることになる。
勝てば生き残って、負けた側は死んだということだ。
実際にダンジョン内に潜ったのなら、納得がいこうがいくまいが死んだらそれで終わりだ。
納得できずとも勝ったのなら——生き残ったのならそれはそれだ。
だが、ゲームという側面を持っているのも確かだ。
だからだろう、工藤は俺の言葉に頷いたが、すぐに首を振って話を続けた。
「ですが、だとしても、〝今年は勝ちます〟よ。これはお嬢様の言葉でもあります」
「そうかよ。なら、頑張れって伝えとけ」
「ええ、わかりました」
その言葉を最後に俺は宮野達と合流すると、俺達はその場所から移動することになった。
その際に宮野達と話でもしていたのか、すぐそばにいたお嬢様がこっちを見たことで俺と目があった。
が、軽く手を上げてやると視線を逸らされてしまった。
──◆◇◆◇──
移動した先は大型のテレビがある部屋で、簡単に言ってしまえば観戦室だ。
それなりに広さのあるこの部屋、というかこの建物では、同時に進行している試合の全てを見ることができるのだが、まだ始まっていないようだ。
と言っても、九時スタートで、今は八時五十分なのですぐにでも始まりそうな感じだが。
俺たちがここにいるのは当然ながら初日の試合を見るためだが、明日からはそれができなくなる。
何せ一ヶ月間も続く長い『祭り』だ。その間生徒達の授業をしないわけには行かないので、明日からは試合に参加しない生徒達は普通に授業がある。
なので、まともに試合を見ることができるのは今日くらいとなるのだ。
「にしても、今年もまたイレギュラーに遭遇しないよな?」
去年は試合中にイレギュラーに遭遇してしまったが、今年は大丈夫だろうか?
普通なら馬鹿にする要な確率だが、俺の場合はこれまでの経験から言って否定しきれない。
「流石に二年連続は……どうでしょう?」
宮野は最初は否定しそうな感じだったんだが、途中でその言葉を止めて首を傾げた。
そうなるのもわかるし、っつーか俺自身疑っているけど、できることなら最後までちゃんと否定して欲しかった。
「でも今年はなんか特級を呼んだらしいじゃん」
「そうなのか?」
去年は一級のチームを用意していたらしいが、今までなにも起こらなかっただけに慣例としておいていただけで、すぐには準備ができなかったらしい。
それに、装備の準備やモンスターに対しての適切なメンバー編成なんかをして時間を食ってしまったそうだ。
ついでに言えば、交通機関的な問題もあった。あの時は学校から車で三十分くらいの場所にあった。
あの時は、俺たちが特級モンスターの姿を確認してから多分二時間近くかかったが、そんな諸々の事情があったせいだった。らしい。
まあ当然ながら俺は宮野達とダンジョンにいたもんで、直接その場にいたわけではないので聞いただけになるけど。
「そうそう。だから生徒達は異変が出たらすぐに戦うのをやめろって、十分以内に行くからって、連絡があったの」
十分以内って、かなり早いな。地上を進んだんじゃそんなに早く移動することなんてできないだろうし、ヘリでも用意してるのか?
もしくは走るとか? 特級の能力なら走っていけば、速さ重視のやつなら五分もあれば学校周辺のゲートにたどり着くだろうし。
「へぇ……まあ、普通なら生徒が無茶して挑んだら死ぬからな。去年みたく誰かが挑んだりしないようにってことだろ」
「うっ……」
「それは……ね?」
去年は真っ先に突っ込んで行った宮野達に視線を向けると、浅田はバツが悪そうに視線を逸らし、宮野は愛想笑いを向けてきた。
だが、「ね?」じゃない。あの時のこいつらが生き残れたのは、半ば奇跡みたいなもんだ。
現に俺がたどり着くのがわずかでも遅かったら、お嬢様が死んでた。
全員で戦って互角だったのに、一人欠けてしまえばその後はどうなるかなんて目に見えてる。
助けに入るのが後五分遅かったら全滅してたかもしれない。
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