第125話待ち望んでいる未来
とあるダンジョンの中。鬱蒼とした樹々に覆われたこのような場所は、現代人はあまり来ないだろう。
だが、そんな場所で今、宮野瑞樹と天智飛鳥は対峙していた。
「天智さん。今回は私が勝たせてもらうわね」
瑞樹が剣を持ちながらその鋒を飛鳥に突きつけて宣言する。
「残念ながら、勝たせていただくのはわたくし達ですわ」
飛鳥はそんな瑞樹の言葉と態度に、同じように言葉を返してから持っている槍を構え、その穂先を瑞樹へと向けた。
お互いに魔力は使っていないし、使う様子もない。まずは様子見、もしくは挨拶がわり、といったところだろうか。
瑞樹は特級の中でも一握りしかいない、『勇者』と呼ばれるような規格外の存在だ。
しかし、飛鳥は勇者とは呼ばれていないが、それでもその才覚は瑞樹に劣るものではない。
これまでの経験に差はあれど、その身に秘めた力に差はない。
2人の違いはただ、『勇者』と呼ばれるにふさわしい力を見せる機会が有ったか無かったか……いや、違う。機会ならあった。何せ瑞樹が勇者と呼ばれるようになったその戦いに、飛鳥も参加していたのだから。
だからより正確に言うなら、〝力を見せつけること〟ができたかできなかったか。
それだけのことだった。
そのことは二人とも理解している。
だから、二人の間では『勇者』の称号は意味をなさず、力は変わらず、魔法は使わない。
なら、あとはどちらがより上手く武器を扱い相手を上回れるかという純粋な技量比べになる。
瑞樹が剣を振り、飛鳥が槍を突き、そうして何度も攻防を重ねていく二人。
だがその攻防も、数度の仕切り直しを経て止まり、飛鳥が顔を顰めながら瑞樹へと話しかけた。
「……随分と、みっともない戦い方をするようになりましたのね」
今の攻防の間に、飛鳥は実直に、基本に忠実にただお手本のように槍を振るっていたのだが、瑞樹は飛鳥へと砂をかけたり飛鳥の想定外の攻撃を仕掛けたりと、お世辞にも行儀がいいとは言えない戦い方をしていた。
飛鳥にはそれが不満だった。
「みっともない? 本当にそうかしら? 生き残るためなら、勝ちたいと願うのなら、これくらいはやるべきじゃないかしら?」
だが、瑞樹にとっては違う。卑怯だろうと卑劣と言われようと、これは戦いだ。実際の命をかけた戦いではないとはいえ、だからといって手を抜く理由などどこにもない。
他人からの評価なんて、勝って生き残ってから悩めばいい。それ以外の正しさとか誇りなんてのは戦いにおいて余分でしかない。
それが瑞樹達の師の教えだった。
故に、瑞樹は誰からなんと言われようと迷わない。自分たちの師以上に自分たちを大切に思い、生き残ることを願ってくれた人はいないから。
そしてその考えが正しいのだと、彼自身がこれまでなしてきた結果で教えてくれているから。
そんな瑞樹の言葉に、だが飛鳥は不機嫌そうな表情にさらに不満を重ねて武器を構えた。
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