第35話佳奈:できないのならそれはそいつの努力が足りないだけ

 ___浅田 佳奈___


「こっちを見つけたみたいだ」


 ゲームが開始してから、宮野チームは即座に行動を開始した。

 だが、それは天智チームのように攻撃に出るのではなく、もっと違う動きだった。


「そ。じゃあこっちも準備しないとね」

「っつっても、準備なんて特にすることないだろ」

「そ、そうですね。もう終わってます、から」

「まーね。でもほら、気構えっていうの? そんな感じのやつ」


 現在、宮野チームの浅田佳奈、北原柚子、そして伊上浩介の三人は、森の中でもやや開けた場所に陣取っていた。

 ここならば周囲に木がないので、襲われたとしても接近される前に気がつけるだろうという場所だ。


「にしても、それ卑怯じゃないの?」

「卑怯で悪いのか? できること全部をやるのが冒険者だぞ? それに、お前たちも承知しただろ?」

「まあそうなんだけどさぁ……」


 浩介の言葉に佳奈が言葉を返しているが、それには呆れが含まれていた。


「電波は単なる隠蔽じゃ防げない、か。確かに、やられたらかなりキツイかもね」

「よ、よく天智さんにつけられましたね」

「まあものはやりようってな。なにも直接触ってつける必要なんてないんだから、どうとでもなる。極小の魔法を使ったりな」


 浩介はこのゲームが始まる前、天智チームと握手をしたときに魔法を使って相手の靴に発信機と盗聴器を仕掛けていた。


「普通はそんなことできないもんでしょ」

「バカいえ。俺みたいな三級にできるんだ、誰だってできるさ。できないなら、そいつらは努力が足りてないだけだ。必死になって鍛えれば、誰だって俺くらいにはできる」

「その必死にってのがキツイと思うんだけど?」

「きついなんて言ってっからできないんだよ。一つ失敗すれば死ぬんだぞ? それも、自分だけじゃなくて仲間ごとだ。自分の犯した一つの失敗で、仲間が死ぬことになる。そんな馬鹿げたことが嫌なら鍛えろ、備えろってだけの話だ」


 浩介の言葉は正しい。

 だが、だからといって実際にそうできるものがどれほどいるだろうか?


 必死になる。言葉にすることはとても簡単だ。

 だが、大抵の者はその言葉通りに行動することができない。どこかで甘えが入り、これくらいならば、と手を抜いてしまう。


 しかし、それでは死んでしまうんだ、と浩介は自身を追い詰め、病的なまでに鍛え備えた。


「……あんたはさ、やっぱりすごいよね」


 だがそのことをなんでもない当然かのように言っている浩介を見て、佳奈は真剣味を帯びた声音でそういった。


「なにがだ?」

「それって、やっぱり普通の人はできないことだもん。そんなことを普通の当たり前みたいに言っちゃえることが、それから本当に実行できることがすごいって言ったのよ」

「そんなもんかね……」

「そんなもんよ」


 浩介としてはただ自分が死ぬのが嫌だから、自分の周りの誰かが死ぬのが嫌だからという逃げの感情から備えてきただけだから、自身の『すごさ』というものをよくわかっていなかった。


「っと、雑談はこの辺にしておくとしよう。そろそろ近づいてきたぞ」

「りょーかい。じゃあ、作戦開始ね。……柚子ぅ〜、失敗しないでよ?」

「だ、大丈夫だよっ……多分」


 手元の発信機を見ていた浩介の言葉を聞き、佳奈と柚子はそれぞれの武器を握りしめ、頷いた。


「そこははっきり大丈夫って言いなさいよ」

「だ、大丈夫! ……かも」

「ま、失敗したところで今ならまだどうとでもなる。気負わずに行け」

「はいっ!」

「はーい」


 そして、それぞれが作戦通りの配置についてからしばらくすると、発信機がすぐそばまでやってきた。


「来たぞ。合図をしたら行動開始だ」


 そして、浩介は天智チームに仕掛けた盗聴器から聞こえる声を頼りにタイミングを図り——叫ぶ。


「お前ら逃げろ! 敵だ!」


 そして叫ぶと同時に浩介はあらかじめ仕掛けておいた罠を起動する。

 すると、現在浩介達のいる少し開けた場所と木々の生えている場所の境辺りに、炎の壁が出現した。


 浩介が叫んだこととその炎の壁のせいでタイミングがずれたとはいえ、それでも敵が使おうとしていた技は途中で止まることはなく、壁を突き破って浩介達を襲った。


「っつ〜〜〜! いくら死んでも死なないからって、初っ端からこんな大技使う!?」

「佳奈ちゃん!」

「オッケー! 逃げるよ!」


 しかし、タイミングがずれ、判断に迷い、さらには視界を塞がれている状態で性格に攻撃することはできず、天智チームの攻撃は轟音をたてながらも全て外れることとなった。


「柚子、大丈夫?」

「うん。大丈夫。まだ平気だよ」


 攻撃の規模こそ予想を上回っていたが、それでも他は作戦通りに行っていた。


「後は……やっぱり追ってきたか……」


 浩介と別れて逃げ出した佳奈と柚子だが、佳奈が走りながら後ろを見ると、逃げ出す際に聞いた通り自分たちを追っている天智チームの姿が見えた。


「天智さんは……」

「いないみたい。多分浩介のほうに残ったんでしょ。あんなんでも教導官だもん」

「大丈夫、かな……?」

「平気平気。あいつにはあたしたちだって勝てないんだから、こんなところで侮ってる奴を相手に負けたりなんてしないって。それより、あたしたちはしっかりと逃げないと。一人でもやられたらその時点で終わりなんだから」

「そ、そうだね」

「とりあえず、今はこのまま目的地まで行こっか」


 そうして佳奈達と天智チームによる森の中の追いかけっこは始まった。

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