第16話最後のメンバー

 三日後の夕方。俺が所用で外出していると、その帰り道で宮野から電話がかかってきた。


「もしもし」

『あ、伊上さんのお電話ですか? 私は宮野です』

「ああ俺だけど……もしかして許可証ができたのか?」

『はい。それで、近いうちにみんなで集まって話をしようと言うことになりまして、次の都合の良い日をお聞きしたいんですけど……近くで空いている日はありますか?』

「ん。まあ今は仕事してるわけでもないし、俺はいつでも構わないよ」

『そうですか。では明日の十三時頃、また正門前で待ち合わせでよろしいですか?』

「ああ。……あ?」

『どうしましたか?』

「いや、明日って日曜じゃなかったっけ?」


 俺は、というか冒険者はあんまり曜日とか気にしない奴が多いが、今日は土曜日だ。

 宮野は学生だし、明日は休みなんじゃないだろうか? そんなわざわざ休日を潰してまで時間を作ったのか?


『あ、はい。ですがこう言うことは早いほうがいいですし、放課後だと落ち着いて時間が取れないので、休みの日ですが明日でいいんじゃないかとみんなと話しました』

「まあ俺は構わないけど……まあいいや。明日の昼一時に正門の前だな」

『はい。よろしくお願いします』


 電話を切ると、俺はポケットにスマホをしまった。


「……休日出勤だなんて、ご苦労なことだな」


 そしてそんなことを呟きながら家へと歩いて行った。




 翌日の日曜日、約束していた時間よりも少し早くに正門で待っていると、校舎がわから誰かがやってくるのが見えた。宮野だ。


「お待たせしました、伊上さん!」

「ああ、宮野。いや、待ってないさ」


 ……? なんだ? なんだか前回よりも距離感が近い気がするが……気のせいか?


「本日も来てくださってありがとうございます」

「まあ、どうせ暇してたしな」

「こちらにどうぞ。みんな待っていますので」


 宮野の先導を受けて訓練室までいくと、そこにはすでに他のメンバーたちも集まっていたようで俺たちが訓練室の中に入るとこちらを見てきた。

 だが、一人だけ知らない奴がいる。おそらくあれがこの間休んでいたメンバーだろうな。


「あ、瑞樹。やっときたのね、そいつ」

「佳奈。呼んだのはこっちなんだから、そんなこと言わないの」

「って言ってもねぇ……あたし的にはそいつを入れることに納得したわけじゃないし」

「……あ、あの、こんにちは」


 浅田の言葉を宮野が諫めていると、おずおず、と言った様子で北原が挨拶をしてきた。


「ああ。えっと……北原、だったか?」

「はい。き、北原柚子です。それと……こちらが晴華ちゃんです」

「どうも」

「ああ、どうも。君が前回休んでた子か」

「はい」


 あー、そう言う感じ。特に悪感情があるってわけでもなさそうだし、めんどくさがりか?


 返ってきた短すぎる返事に、俺はこの子のなんとなくの性格を察した。


 けど、俺にとっては都合がいい。あまり仲良く話したり、なんてするつもりはないからな。


「ところで、晴華ってのは名前だろ? 苗字の方はなんなんだ?」

「あ、はい、えっと……」

「安倍。安倍晴華です」

「安倍晴華ね。なら安倍でいいか? 俺は伊上浩介だ」

「はい」


 そんな風に自己紹介をしていると、向こうの話は終わったのか宮野たちがこちにきた。


「晴華、またそんな無愛想にして。もう少し笑ったらいいのに」

「いや。笑いたい時は笑うけど、笑いたくないのに笑うのはめんどくさい」

「まったく……」


 宮野は仕方がなさそうにしているが、きっとそれがいつものことなんだろう。


「えっと伊上さん。彼女も悪気があって話さないわけではないので、気を悪くしないでいただけると……」


 そして俺の方を向いてそう謝ってきたが俺はそんなことまったく持って気にしていない。


「ああ大丈夫。わかってる。正直、他人と話すのはめんどくさいもんな」

「ん、そう。話がしたければ他の人とすればいい。私はいや」

「そうか。まあ俺は別に気にしねえから話したくなけりゃあ話さなくてもいい。最低限の返事くらいはしてもらうけどな。無理強いをしたところで険悪になるだけだし」

「そう? ありがとう」


 安部はそう言うと小さく頷いたが、それ以上の反応はない。


 ……ああ、これくらいだと楽でいいな。どうせすぐに別れるんだし、仲良くなる必要はないんだから。


「ちょっと晴華。あんたいいの? そんな三級のおっさんをメンバーに入れても」


 そんなことを考えていると、浅田が不機嫌そうな声で安部に問いかけた。


「私は賛成」

「あら、珍しいわね。晴華がそんな積極的に言うなんて」

「この人は楽。ここで逃したらめんどくさい相手が入るかもしれない。それはいや」


 だが安倍ははっきりと賛成を口にした。

 どっちでもいい、とかそんな感じで答えると思ってたんだが、それは俺だけではなく仲間もそう思ったようだ。

 でもまあ、こいつにしてみたら熱血漢みたいな奴が教導官になられても困るだろうな。


「それに、技術的にも問題ない」

「見たことないのになんでそんなこと言えんのよ」

「レポートは読んだからおおよそは。それに……ううん。なんでもない」


 今みたいに何か言いかけてからなんでもないっていうのは大抵何かある時なんだが、なんだ? 安倍は俺の何かに気がついた? 調べたわけじゃないだろうし……。

 まあ、無理に聞く必要もないか。


「それより、私は賛成。他は?」

「私はもちろん賛成よ。私から誘ったんだし」

「わ、私もです。あの時だって、伊上さんがいないと進めなかったかもしれませんし……」


 安部の言葉に続いて宮野と北原の二人も賛成を示すが、浅田だけは眉を寄せたまま何にも言わない。


「あとは佳奈。どうする?」

「う〜……ああもう! わかった! わかりましたあ!」

「それじゃあ伊上さん。これから──」


 よろしく、とでも言おうとしたのだろう。だが宮野のその言葉は途中で遮られた。


「でも! 正式にメンバーに入れる前に条件を出させてもらうから!」

「何言ってるのよ、佳奈」

「第二訓練場の設備を使って最低限戦えると判断できる結果を出しなさい! それがあたしが認める条件よ!」

「めんどくせぇ」

「ん、同意」

「だよなぁ。……と言うか、前回のダンジョンで戦えることを示したと思うけど?」

「それは一戦だけでしょ。ダンジョン攻略ってのは継続戦闘能力が必要になってくるんだから、どの程度連続して戦えるかが重要じゃない。それは前回の時にはわからなかった事でしょ?」

「まあ、一理あるが……やっぱりめんどくせえな」


 継戦力を確かめるってのは必要なことかもしれないが、正直、認められようが認められまいが、それ自体は関係ないんだよな。


 だって、もうチームを組んでるんだ。一度チームを組む手続きをすると、その日から三ヶ月は解散することができない。

 なので、俺は浅田が認めなかったとしても、このチームでやっていくことになる。


「どうすんのよ? 受けるの? それとも逃げるの?」

「逃げていいのか?」

「その場合はあたしはあんたを認めない」

「それでも多数決で言えば俺の加入はもう決まってるけどな」

「あーもう、うっさい! 受けるの? 受けないの?」

「はぁ……やるよ。やるやる」


 正直めんどくさいが、ここでやらなかったら後々文句が出てくるからな。今後の付き合いを思えば、ここで言うことを聞いておいた方がいいだろ。


「ふんっ、それでいいのよ。ならさっさと来なさい」


 浅田はそう言うと、スタスタと今いる訓練室とは別の部屋へと向かって扉を潜って行った。


「すみません伊上さん! こちらから誘ったにもかかわらず実力を試すなんて失礼なことを言ってしまって……」

「ああいいって。彼女が言ってることも理解できる。これから一緒にダンジョンなんて命がけのところに入ってくのに、実力がわからないやつをメンバーに入れてるのは不安だ。この学校の施設なら、どの程度戦えるかを命をかけずに調べることができるんだから、チームの一員としてこの判断は間違ってないよ」


 ま、そこに個人的な感情が入っていないかってのはまた別だがな。


「そう言っていただけると助かります。すみません」

「謝らなくていいって。そうして女子に謝られてると、いい歳したおっさんが女子学生をいじめてるように見えるからさ」

「あ、すみません……」


 そう言ってもなお申し訳なさそうな顔で謝っている宮野。

 これ以上は何か言っても意味ないだろうなと判断すると、軽く息を吐いてから歩き出した。


「とりあえず、行くか。あまり遅れすぎると浅田に怒られそうだから」

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