第18話「金丹」

「これだけの軟酥なんそがあると、この後はどうなると思う?」

「どうなるんですか?」

「この軟酥を使って金丹きんたんを作ることができるんじゃ」


 久米の仙人とサトコは軟酥に包まれ融合している。


「まずは、気を練る。小周天をやるぞ」

「いきなり小周天ですか!?」


「あぁ、お前が一人で修行していれば小周天まで何年もかかるが、軟酥とわしが居ればすぐにできる。自分の精気を丹にするのを内丹法と言い時間がかかるが、薬草や鉱物から丹薬を作るのを外丹法といい修行が一気に進む。そして、軟酥にこれを混ぜれば金丹をつくれる。これは効くぞ!!」


 久米の仙人はサトコの下丹田に軟酥を集め、これを陽気という固まりに変える。次に呼吸を使う。始めは強い呼吸の武息ぶそくで陽気を固めていき、固まったら弱い呼吸の文息ぶんそくに変え下丹田から肛門、背中、頭、胸と後ろ回りに回す。体を縦に一周させることを小周天という。


「凄い! あたしがやった小周天とは全然違う」

「当たり前じゃ、お前のやった小周天など泥道を自転車で走っていたようなものだ。今やっているのは戦車並みの力があるんじゃ! このまま大周天もできるんじゃが、お嬢ちゃんの精神では耐えられん……まずは金丹を作るぞ」


「その金丹ってなんですか?」

「金丹は仙丹の中でも最上薬でな不老不死、神通力も自由自在というすごいものじゃ! まぁ間道かんどうじゃがな……」

「間道?」

「すぐに仙女になれるぞ。まずは作ればわかる」


 久米の仙人はサトコの中で軟酥を回すことで仙丹を練り上げていく。小麦粉を練ってパンや麺を作るのに似ている。

 練り上がっていく軟酥は宝石のように輝いている。


「だいぶ、いい具案になってきたな。時にお嬢ちゃん名前は何と言う?」

「サトコです。聡子……」

「聡子か……ならば耳だな」


 軟蘇の作り方は伝わっていない。

 金丹は玄黄げんおうを作り丹砂と黄金を主体とすると言われているので軟蘇が玄黄なのかもしれない。


「この軟蘇を練ったものに、これを加える」

「何ですかそれ」

 久米の仙人は青い玉をいくつか袋に入れていた。ピーナッツくらいの大きさだ。それを一粒取りだし手のひらに乗せ、何か呪文を唱えている。すると青い玉は溶けだし軟蘇の中に入って行った。


「この青い玉は、わしの師匠なんだ……天仙となり、要らなくなった体で作ったものだ」


 久米の仙人は金丹を頭に持っていき回転を止めた。

「さて、お嬢ちゃんの神通力は何かな?」


 金丹はサトコの頭の中を照らし、やがて下丹田に収まった。



「なにか感じるか?」

「音が…………」

「やはり耳だな」

「病院であたしに話ている妹の声が聞こえます……頭の中に聞こえる?」

早耳はやみみと言われる神通力じゃ、遠くの人の話が聞こえる。会話することもできるぞ」

「そんなことができるんですか?」

「金丹を使えば眠っている能力が目覚める。どういう力かは、やってみないと分からないがな」


「妹と話してみます……サトミ、サトミ……」


「お姉ちゃん?」


「サトミ、お姉ちゃんは大丈夫だから。修行してからちゃんと戻るから」


 まだ、長く神通力を使うことはできないようだ。

 久米の仙人もサトコの体から出ている。


「久しぶりに若い娘と一体になり、いい気持ちじゃ、あとは真蔵仙人に鍛えてもらうんだな」

 そう言うと久米の仙人は飛んで行ってしまった。


 ❃


 やがて真蔵仙人が帰ってきた。


「なんと、それは金丹か!?」

「お帰りなさいませ。師匠」

「とんでもない物を持っているな!!」

「そうなんですか? 久米の仙人と言う方がくれたんです」


「久米の仙人か、謀りおったな! わしは久米の仙人から急きょ会議をするから集まってくれと言われ遥か遠くまで行ってきたのじゃ。最初からサトコを狙っていたな!」


「久米の仙人はいい方でしたよ」


「久米の仙人は若い娘が大好きなんじゃ、しかし、気前がいいな、金丹か……」

「金丹てなんなんですか?」


「金丹は仙丹の超特級品じゃ! それを飲むだけで仙人になれるし、不老不死や神通力を得ることができる」

「あたし、耳がすごく良くなったんです」

「早耳か、それだけじゃないぞ。今やお前は仙女じゃ! 空を飛ぶことも壁を抜けることもできるはずじゃ」


「そうですか? どれ……」

 サトコは立ち上がりジャンプしてみた。

 サトコの体はそのまま空に上がっていった。

「本当だ! 飛べる、すごい! すごい!」

 しばらく空を飛び回り真蔵仙人の前に戻ってきた。

「金丹ってすごいですね!」

「当たり前じゃ! 金丹の作り方も実物も幻と言われているほどじゃ」


「久米の仙人は簡単に作りましたよ」

「呆れるくらい気前のいい奴だ! 若い娘に甘過ぎじゃ」

「そんなに凄いものなんですか?」

「そうだな、女の子が車の免許を取ったから、車が欲しいと言われてポルシェを買ってやるようなもんじゃ」


「そういえば間道とか言ってましたが……」

「間道か、そうだな……仙術には間道ぬけみちがあるんじゃ」

「ぬけみち」

「そう、真面目に修行しなくても一瞬で仙人になる方法がある。それが仙草や仙丹だ。金丹は仙丹の最上級で別名『九丹』と言い九種類あると言われているが、わしも全部は見たことはない」


「あたしのは金丹と言っても青かったな……」



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