第218話 秘密の居残り練習⑤

「えぇっ!? ちょっと……!」


ボールの投じられた場所が先程までとは全然違い、真希が怯えた声を出す。


先程よりもずっとゆっくりな球なのに、今度は真希の顔の近くに球が投じられる。


なりふり構わず慌てて地面に伏せたから当たらなかったけど、そのまま立っていたら頭部死球にでもなりそうな危ない球だった。


「アカン、真希、ごめん!!」


慌てて凄美恋が真希の元へと駆け寄る。


「な、なんでゆっくりの方がコントロール悪いのよ……!」


まだ真希の心臓がバクバクしていた。突然のことで驚いて、大きく目を見開いたまま荒い呼吸で凄美恋のことを見上げていた。


「わ、わたしはもういいから次は咲希に投げてあげて……」


「凄美恋ちゃんの遅い球が危ないのはお姉ちゃんのおかげでわかったから、わたしには速いやつ投げてー」


「人のこと実験台にしないでよ……」


真希が不満を残しながらも咲希に順番を回す。顔の近くに球が来たのは初めてだったから、まだ少し膝を震わせながら、真希が咲希にバットを渡した。

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