第189話 試合が終わった日⑤

「凄美恋は水瀬玖麗愛さんと同じチームで2番手投手やってたのよね? 強豪女子シニアチームで1年生から水瀬さんの次の2番手なのよね?」


「やっとったけど投手は1年のときにやめたし、試合前に若狭美江に言われた通り4回12失点の大炎上で――」


「ちょっと失礼するわね」


そう言って華菜は唐突にスカートの中に手を入れて、凄美恋の太もも周りを触りだした。


「ちょ、いきなり外で何しとんねん! 変態か!」


「あんた身長どのくらいだっけ? 怜先輩や由里香さんほどじゃないけど、1年生の中では断トツで大きいわよね?」


困惑する凄美恋をよそに、勝手に華菜は話を進めていく。かなりテンションの上がった声で。


「169cmやけど……」


「ああ、もったいない!」


華菜がオーバーに頭を押さえた。


「ちょっと待ってや、一人で勝手に興奮せんとうちにもわかるように教えてや。あんた今のところ、公園で人の脚触って興奮してる変態やで?」


呆れる凄美恋のことなんて気にせず、華菜が嘆き続ける。


「なんで中1のときにピッチャーやめちゃったかなぁ! ほんっとにもったいない!」


「だから何がやねん!」


「あんた服着てたらスラっとした体型だったから全然気が付かなかったけど、下半身がしっかりとした体型だったのね。どうりで半ばぶっつけみたいな状態で投げてもそんなに球速が出せたってわけか……」


「うち、割と腰回り太いの気にしてんねんからそんなズバズバ言わんとってほしいねんけど……」


「大丈夫、あなたの武器は腰回りの太さだけじゃない。手足も長いから、ピッチャー向きだわ!」


凄美恋と話が食い違っていることなんて気にせず、華菜は至って真面目に言い切った。


由里香以外にチームに逸材がいたことを発見したことに、喜びが隠せなかった。コントロールさえどうにかすれば相当な戦力になってくれるのではと光明が見えてくる。


「だから、うちはもうピッチャーはやりたくないってさっきからずっと言ってんねんけど……」


「そんなに素質があるのにもったいなさすぎる! ねえ、凄美恋、なんでそんなにマウンドに立ちたくないのよ?」


「だってうちが出たら今日みたいにいっぱい点取られて、チームに迷惑かけるし……」


「なんであんたはマウンドでは見た目通りの気弱で可愛い子になっちゃうのよ! うちの球打てるもんなら打ってみんかい! くらいの気持ちでいなさいよ! もっと自信もって投げなさいよ!」


普段冷静な華菜が柄にもなく、感情を爆発させているので、凄美恋もさすがに困惑した。

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