第151話 才能無しのドール少女③
「ねえ、美江。あの子どうなの?」
チームメイトの指差す方には1人グラウンド内を走っているミレーヌがいた。3ヶ月たって夏の暑さが顔を出し始めた頃には1年生たちは次々とやめていき、残っているのは7人だけになっていたが、まだ菜畑ミレーヌはチームを続けていた。
「どうなのって、どういう意味で?」
「ボールもう捕ったの?」
「まさか、捕るわけない」
捕手として、あの子の球を捕球したことがあるかどうかという質問ではあるが、そんなことは愚問である。現在うちのチームには他のポジションと兼任している子も合わせれば投手は9人もいる。
その中で断トツで一番才能が無いのが菜畑ミレーヌであった。
「あんたもさ、試合に出そうにないピッチャーの球は取らないってのもどうなのよ?」
苦笑いされるが、たくさんの才能ある投手たちの投球を把握しなければならない正捕手の美江にはそんな暇はない。チームの勝利に役に立たないミレーヌの球なんて受けるだけ時間の無駄である。
「あんな試合に出れない子の球を捕る時間があったら佐藤先輩の配球考える時間に回すから」
明日の練習試合でバッテリーを組むうちのエースの3年生、佐藤夏菜子投手の今の球の調子を把握して、明日どれをどう使うか、対戦相手のデータを元にあらかじめ考えておく。練習試合とはいえ、県内無敵の美観ガールズが負けるわけにはいかない。
「ふうん、ミレーヌちゃんかわいそー」
とくに可哀そうとも思っていなさそうな口調で言い放った後、チームメイトは自分の練習へと戻っていった。
そんな美江がミレーヌを見直すきっかけとなった出来事はその3か月後、ミレーヌたち1年生がチームに加入してから半年ほどした後に行われた、新1年生歓迎長距離走。通称歓迎走のときだった。
この歓迎走では、近所の総合運動公園にある1500mトラックを1年生に100周走らせるのだ。
といっても、当然長距離走をメインでやっているわけでもない中1女子に夏場に150kmも走らせるわけがない。100周というのは名目上だけの話で、ある程度の所で、限界まで来たらそれぞれ自分のタイミングで走るのをやめるのだ。
それなりの時間と距離を走ったら適宜コースを外れて、先輩たちが拍手で「改めてよろしくね」と1年生たちを迎える。
今日は本来練習が休みの日で、監督は来ていない。伝統的に監督なしで選手だけでやる歓迎会代わりのイベントなのである。2,3年生は周りで見て、時折水を渡してあげる。
だいたい朝に始めたら昼過ぎくらいには終わり、今日も12時前くらいにはすでに1年生たちは走り終えていた。ただ1人、ミレーヌを除いて。
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