第141話 息ピッタリのバッテリー④

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1球目、華菜に投じられた球はスローカーブだった。それも今にもボールが重力に負けて地面に力なく落ちてしまいそうなくらい勢いの無い超スローカーブ。


大きな弧を描いた球がきちんとストライクゾーンギリギリに投じられたのを見て、華菜は少し首を傾げてから頷いた。あんなにも遅い球をストライクゾーンにきちんと投げるにはかなりの修練が必要なはず。しかも先ほど千早にストレートを投げていたときと変わらないフォームで投げ込んできているのだから。


間髪入れずに投げ込まれた2球目は、先ほどの球よりは少し速いくらいのストレート。コントロールはかなり正確で、2球ともきっちり外角低め、コーナーギリギリに投じられている。これで2球で2ストライクと追い込まれた。


「なるほど」


華菜は無意識のうちに呟き頷いていた。


多分ミレーヌがどこに投げるのか予測をしたところで打てないと、華菜は判断した。


おそらく捕手の美江は洞察力に関しては県内どころか全国トップクラスの捕手だ。少なくとも菜畑ミレーヌという投手のことを隅から隅まで理解したうえで打者がまったく予想していないコースにボールを要求しているのだろう。それならばただ頭の中を真っ白にして、来た球を打つだけである。


3球目、ミレーヌのボールは外角のボールゾーンから大きく曲がってくる超スローカーブ。見逃せばボールになりそうではあるが、華菜は体勢を崩しながら強引にバットに当ててライト方向に打ち上げた。


多分今日は際どいボールは見逃してはいけない。ここまでの千早と華菜への計5球を見てそう判断した。


上手く当てられたからセカンドとライトのちょうど間くらいにポトリと落ちる打球になるはず、そう思ったのだが……。


打球はライトがしっかりと捕球して普通の浅めのライトフライになってしまった。華菜の想像よりも打球はかなり伸びていた。ミレーヌの球は相当軽いようだ。

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