第88話 誰かさんへのアピール①
「というわけで、美乃梨先輩が野球部に入ってくれたので部員が7人になりました!」
華菜がみんなの前で楽しそうに報告し、それに続けて他の部員たちからの拍手が聞こえてきた。
昨日は華菜と美乃梨の2人だけで活動していたが、今日は打って変わって部員全員参加である。春と夏の間みたいな6月上旬の天気は普通に過ごす分には心地良いが、練習をするには暑いかもしれない。
「美乃梨さん」
怜が美乃梨の元へと微笑みながら歩いていく。
「よかったですわ」
怜が普段とは違い、純粋で混じり気の無い優しさ溢れる口調で伝えてから、美乃梨のことをしっかりと抱きしめた。
「れーちゃんありがとう。でも、なんか大げさだって!」
それだけ言うと美乃梨は恥ずかしそうに怜から離れた。
「あら、もっと抱きしめさせていただけませんの?」
「れーちゃん力強いから苦しいんだよ」
「あら、照れ隠しですの?」
「そういうことにしといて」
2人のやり取りを見て、1年生たちからは和やかな視線が向けらていた。
「じゃあ今日も練習頑張りましょう!」
華菜の声かけで各々散らばっていった。
みんながそれぞれ分かれていった後に、怜が華菜の元へと近寄る。
「華菜さん、美乃梨さんを野球部に入れて頂いてありがとうございます。華菜さんが野球部を作ってくださったおかげで、美乃梨さんが前に進めましたわ」
怜が深々と頭を下げた。
「いえ、そんな私は……怜先輩が入部してくれた上に部活動承認までもっていってくれたおかげですよ」
柄にもなく怜に頭を下げられて華菜は両手を振って必死に謙遜した。
「あの、怜先輩が野球部にここまで協力してくれたのって、もしかして美乃梨先輩を野球部に入れたかったからですか?」
「突然どうしましたの?」
「いえ、なんだかそんな気がしまして……」
珍しく怜が華菜に向けて驚いたような表情を向ける。
「……美乃梨さんから中学時代のお話を聞きましたの?」
「昨日2人の時に教えてもらいまして……」
華菜が苦笑いをするのを見て、怜が優しい顔をして笑った。
「ふふっ、ご想像にお任せ致しますわ」
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