第4章 ラストピース
第82話 最後のピースを探して①
桜子が生徒会室で資料の確認をしていると、突然入り口のドアが開く音がした。
「桜子さん、今お時間大丈夫ですの?」
「大丈夫ですけど、せめて入室するときにはノックくらいしてもらえませんか?」
怜が生徒会室にノックなしで入って来たので、生徒会長の桜子が注意をする。その傍らで、桜子は机の上に置いてあった資料を慌てて片付けた。
「別にいいじゃありませんの。何もやましいことをしているわけでもありませんでしょうに」
「当たり前です! でも、生徒の方に見られたら困る書類とかもありますので」
「桜子さんでも閲覧可能なレベルの書類でしたら、わたくしが見ても差し支えはないかと」
怜が口元に手を当てて微笑んだ。
「ですが、あくまでも生徒の皆様からの信託を受けているのは私ですので。理事長の娘だろうと、あくまでも校内では一生徒として、他の方と同じように平等に接するべきだと私は考えておりますから」
怜と桜子がお互いに火花を散らしながら作り笑いを浮かべる。
桜風学園の生徒でありながら、理事長の娘である怜のことは桜子も扱いづらい。ましてや、いまや怜はいろいろと冷たい態度を取ってしまっている華菜たち野球部の味方側の立場である。
できれば関わり合いにはなりたくないのだが、今日のお昼休みに突然、放課後話がしたいと言われてしまったのだ。生徒会長という立場上、生徒からの相談を聞かない訳にもいかず、今こうして怜と対面しているのだ。
「そういえば春原さん、あなた野球部に入部したそうですが、どうしてまたそんな選択をしたのですか?」
怜のペースに乗せられてしまわないように、桜子が先に口を開いた。
「わたくし実は中学時代にバレーボールをしていて、それなりに頑張っておりましたのよ。スポーツは案外嫌いではありませんの」
そんなことは桜子も知っていた。聞いたのはそこが知りたいからではなく、怜と野球の接点が見いだせなかったからである。
「あなたがバレーボールでご活躍なさったことを知っているから私は腑に落ちないのですよ。新しい部を創るにしても、野球ではなくバレーボールにする方が良かったのではないのですか?」
「うふふ、残念ながらわたくし、もうバレーボールとは完全に決別しておりますの」
「そうなのですか?」
「ええ、中2の途中で。もうとっくにやめてますの」
「それは初耳でした。つまり、全国大会ベスト16というのは中1のときの話ですか?」
「ええ、そうですわ。わたくしありがたいことに、中1の頃からレギュラーで使って頂いてましたので」
怜の通っていた私立中学はそれなりにバレーボールで名の通った学校である。そこで中1の頃からレギュラーでやっていたことは、怜のお嬢様な雰囲気からは、一見すると信じられない。
だが、ほとんど授業に出てないのに、定期テストで1桁順位を取れる集中力や、周りの子から頭1つ分出ている背の高さから考えると、あながちあり得ない事でもないのかもしれない、とどこか納得してしまう。
「ですが、どうして中2でやめたのですか? それだけの才能があるのなら、ずっと続けていけばよかったのではないですか?」
桜子の疑問を受けて、怜はうふふ、と口元を隠してどこか意味深な微笑みを浮かべた。
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