第75話 みんなが練習を休んだ日②
突然華菜に、一緒に練習をしようと言われて、美乃梨が唖然としていた。
今まで美乃梨も練習の手伝いをしてくれていたが、ボールに触る機会は球拾いの手伝いだったりでしかなく、基本的には用具の片づけの手伝いとか、練習メニューを考えてもらうのを手伝ったりとか、そういうことが中心だった。
野球部でもない先輩に雑用のようなことをさせるのは、華菜も申し訳なく思っていたので、何度も、美乃梨も野球部に入って欲しいということを伝えはしたのだが、その都度美乃梨は、「ボクはあくまで見る方専門だから」と断り続けていたのだ。
隙があれば勧誘してやろうと企んでいた華菜にとって、美乃梨と2人だけで部活をすることは大チャンスである。
「ボクはあくまで練習の補助要員ってだけだから……」
「今日は私1人しかいないんですよ? 練習のお手伝いしてくれるんだったらキャッチボールの相手くらいやってくださいよ!」
「未経験者だからボールがどこ飛んでいくかもわからないし、やめておくよ」
「別に大丈夫ですって。むしろ変なとこ飛んで行ったらそれはそれで新手の守備練習になりますって!」
華菜はここぞとばかりに、美乃梨に頼み込む。見る方専門だから入らないとは言ってるけど、もしかしたら案外ボールを触っているうちに野球をやる楽しさみたいなものに目覚めるかもしれない、と華菜はほんの少し期待していた。
「えぇ……」
「美乃梨先輩お願いします! 私、一刻も早く感覚を取り戻したいんです!」
「わかったよ。でも本当にどこにボール投げるかわからないからね」
華菜が必死に頼み続けていると、ようやく美乃梨も引き受けてくれた。
「美乃梨先輩、普通にうまいじゃないですか!」
あれだけ言うから、本当にとんでもないところにボールが来るものだと思っていたのに、そんなことは全然なかった。本人のどこに飛ぶかわからない、という言葉とは違い、かなり正確に華菜の胸元へと、捕りやすい場所にボールを投げてくれる。
捕球に関しても、初心者とは思えないくらい、ボールに怖がることなく、きちんと捕ってくれる。初めはふんわり投げていたボールを次第に勢いをつけて強めに投げていっても、きちんと捕球してくれている。
「美乃梨先輩凄いですよ! 次ノックしましょう!」
「いや、ノッカーはできないって……」
「違いますよ。私がノッカーするんで美乃梨先輩は守備についてください!」
「ちょっと待ってよ。ボクはあくまで華菜ちゃんの練習に繋がるからと思ってキャッチボールも付き合ってあげただけだよ? 華菜ちゃんがノッカーやってボクが守備につくなんてあべこべだよ」
「いや、でもほら、あれですよ。少しでも実践に近い形でバット振りたいですし。顧問してくれる先生も全然顔を出さないので、私がみんなにノックしてあげられるようにならないといけないですし。その練習ですよ」
華菜自身、理論が通ってるのか心配になるようなことを口走っているのは自覚しているが、なんとかして美乃梨の資質を見てみたかった。以前から野球をやっていたかどうか聞けば、否定してきた美乃梨の言葉の真偽を確かめるまたとないチャンスである。
「ねえ美乃梨先輩、私全国大会に行きたいんです! だから今日だけは練習付き合ってください!」
どこかのヒロインみたいに美乃梨に抱きついて、少し屈んで、上目遣いで聞いてみた。
「はあ、もうわかったよ。2、3球だけだよ」
「やった! ありがとうございます!」
美乃梨が華菜の必死な態度に軽く引いてくれたおかげで、美乃梨がノックを受けてくれることになった。
美乃梨にはとりあえずサードの守備位置に入ってもらうことにした。
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