第33話 綺麗な花には毒がある?③
「失礼な態度になってすいませんでした。私たちはこれで失礼します」
美乃梨が「ちょっと」と言って止めようとしたが、華菜は怜に背を向け、千早の手首を掴み、屋内に戻る扉に向けて歩き出した。
突然華菜に引っ張られた千早は一瞬バランスを崩し、足をもつれさせたが、すぐに体勢を整えた。華菜は時折千早から引っ張られるような感覚を受けた。千早は遠ざかっていく怜たちを気にしながら歩いているのかもしれない。
「わたくしは別に野球部に入らないとは言っておりませんわよ」
怜が屋上の扉を開けようとした華菜たちに向けて、座ったまま大きめの声で語り掛けた。
華菜は気にせず外に出ようとしたが、千早が立ち止まり、怜のほうへしっかりと体を向けた。そのまま華菜の手を振り解いて戻ろうとしているので、華菜は慌てて声をかけた。
「ちょっと、あんな何考えてるのかわからない人、もう無理に勧誘しなくてもいいじゃない」
「野球部を作るには1人でも部員を増やさないと」
「別にあの人じゃなくても他の人を誘えばいいでしょ?」
「昨日美乃梨先輩が、あの人が入部してくれたら野球部の話が一気に進むって言ってたんでしょ? てことはきっとあの人じゃないといけない理由があるんだよ」
「でもあんたさっきすごく不安そうな顔してたじゃない? 私のわがままに付き合ってくれてる千早が怖い思いする必要なんてないでしょ?」
「千早のためにあの人を勧誘しないつもりなんだったらやっぱり戻ろうよ。せっかく美乃梨先輩の紹介してくれた人なんだから入ってくれる可能性があるんだったら絶対入部してもらった方が良いよ!」
千早の視線はすでに怜の方へと向いていて、華菜には背を向けて話していた。彼女の表情はわからないが、それなりに覚悟を持って3人目の部員の勧誘に挑むようだ。
「わかったわよ。でももしまた千早に意地悪な態度取るようだったら戻るからね」
「え、うん。わかった……」
千早の声はどこか寂しそうだった。
不安気な2人の背中を春風が後押しするように吹き付けていた。
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