(3)
そんなこんなで数週間。
藤島にお菓子を差し入れしつつ過ごしているうちに、気が付けば夏休みまで秒読み段階に入っていた。
手ごたえは悪くない。と、思う。たぶん。きっと。
藤島は何渡してもおいしいとしか言わないからわかんないんだよなー、とパックの牛乳にストローを差しながら少し前を見やる。
藤島が友達とふざけて笑っている。キュンとする。私は恋する乙女か、いや間違いなくそうなんだけど、と赤くなりそうな頬を誤魔化そうと牛乳を口に含み
「……で、いつ告るの?」
思いっきり吹き出しそうになって、すんでのところで堪える。と、今度は鼻から垂れそうになって、意地でも出してなるものかと乙女の沽券をもって全力で抑える。
「っっっ~~~~!?!?!?」
なんであんたがここに、の意を持って机をバンバン。古くはないけどそれなりの付き合いがある彼女はしっかりと意図を汲んでくれる。
「いや、花楓が熱い視線で彼を見てるものだから、つい」
「~~真央っ!!」
「あはは、ごめんって」
私の抗議もどこ吹く風で軽く流したのは、
高校に入ってからできた友達で、ここ最近では一番仲がいい子。なんともテキトーというかいろいろ無頓着というか、一緒にいるときの気楽さがこの上なく居心地いい。
でも、今みたいに気が付いたら後ろにいることが多く、びっくりさせられることがよくある。忍者の末裔なのかなんなのか。とりあえずやめてほしい。
「いや、普通に近づいてるんだけどね? 花楓が藤島に夢ちゅ」
「何か言った?」
「何も」
何を口走ろうとしているのか。確かに藤島を目で追うことが多いのは今更否定しないけれど、周囲に感づかれるほどではないはずだ。
「いやそれほどでもあるからね? 気づいてないのは本人たちだけ」
「何か?」
「何も」
閑話休題。
「で、ほんとにいつ告るの?」
閑話休題ならず。
「その話続けるの?」
「そりゃもう。クラスのみんながやきもきしてるんだから」
「……ぉぅ」
いつの間にそんなことに。この恋の波動はとうとう可視化できるほど強まっていたというのか。
……すごい恥ずかしい。今の思考も相まって二重に恥ずかしい。何だ恋の波動って。
あぁもう思考が散る。それもこれもすべて真央のせいだ。私の心の安寧のためそういうことにしよう。そうしよう。
「で、どうするの?」
「追撃が止まない……」
机に突っ伏す。もうどういう顔をしたらいいかわからない。
けれど、目の前にいるこの友達が私のことを逃がしてくれそうにないのもよくわかる。面白半分な口調だが割と本気なのがわかるくらいには仲がいいのだ。どうしてここまで追求してくるのかはわからないけど。何でも知ってるわけじゃないし。
ちらりと真央の顔を盗み見るも、逃がしてくれそうにない。覚悟を決めるしかない。のか。どうする。どうするもこうするもやるしかないのだが。頭がぐるぐるする。もうだめだ。これ以上は脳の処理が間に合わない。
こうなったらやけだ。そして宣言だ。
「……明日」
「おっ」
「やっぱり明後日、いや明々後日」
「おい?」
真央が真顔でどすの利いた声を出す。なんて声を出してんだと思うと同時に自分の意気地のなさに驚嘆する。まじか自分、もう少し頑張れよ。そうは思えど勇気はあまり湧いてこない。自分のことながら非常に難儀だ。どうしよう。
「……夏休みまでには、とは思ってるんだけどね」
「ふぅん」
「ふぅんて」
急に興味なくなるじゃん。なんでだよ。温度差激しすぎて風邪引きそうだと真央の顔を見ると声色とは裏腹に目が
「何でもいいけど、せめて終業式前日までには済ませてよ」
「なぜに?」
「結末を知らないまま夏休み突入されるとクラスメイト全員が悶々とした夏休みになるから」
「おぉぅ」
勝手にクラスの一大行事にしないでほしい。けどまぁ、このくらいのプレッシャーのほうが覚悟が決まっていい気もする。うーん悩ましい。まぁ悩むも何も状況は決まり切ってしまっているのだけども。
ともあれ、真央と話しているうちにやけっぱちは覚悟に変わってしまっていた。腹も据わった。浮足が立てるかは神のみぞ知るということで。
うん、よし。
「明日、告白する」
「ん、よく言った。えらいぞ」
「圧かけてきたのはそっちのくせに」
「そうじゃないと延々と動かないくせに」
「……違いない」
よく私のことを分かってらっしゃる。ちょっと強引だったけど後押ししてくれたのは感謝してもいいかもしれない。そんなわけでありがとうの想いを込めてパンチ。したのを華麗に避けて、ついでに私の牛乳を奪って真央が一言。
「ま、頑張れ。応援してる」
「……ありがと」
けど牛乳は返して。お願い。
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