第参話 【 水面に映る幸せ 】

 灰夢は、異国への旅立つ夜明けを前に、

 星空の下、広い露天風呂に浸かっていた。





「はぁ〜、ここに入るのもしばらくは無理だな」


 そんな独り言を呟いていると、灰夢が何かの気配に気づく。


「……あ?」


 だが、後ろを振り返るも、そこには誰もいない。



( ……気のせいか? )



 真っ暗な視界の中で、誰か見られている感覚が消えない灰夢が、

 手を伸ばして周囲を確かめると、当然、やわらかい感触に触れた。



























             「 ──ひゃっ!? 」




























 その声を聞いた瞬間に、灰夢が死んだ魚の目に変わる。


「何してんだよ、幽々……」

「あわわ……。えっとえっと、その……」


 パニックになりながら、透明になっていたタオル一枚の幽々が、

 まるで、何かのCG映像のように、何もない空間から姿を現す。


「えへへ、来ちゃいました……」

「そうか。なら、今すぐ帰れ……」

「──ガーンッ! 送り狼さん、冷たいです……」

「お前には、このお湯が冷たく感じるのか。なら、風邪を引く前に帰れ……」

「冷たいのはお風呂じゃなくて、送り狼さんですっ!」

「まぁ、オバケは風邪も何もねぇか」

「そういう問題じゃないですぅ~っ! んもぉ~!!」


 出会い頭のやり取りに、幽々の頬がぷっくらと膨れる。


「お前、何しに来たんだよ」

「お風呂に行くのが見えたから、少しお話しできるかなと思いまして……」

「出来ねぇよ。風呂だと分かってんなら、なおさら無理だろ」

「今の時間なら、他の方々もいないですし……」

「はぁ、ここには男湯の意味を忘れる呪いでもあるのか?」

「だってだって、送り狼さんと入りたかったから……」

「可愛く言っても、犯罪は犯罪だ……」

「でもでも、オバケに法律は関係ないですよ」

「都合のいいこと言いやがって……」

「……ダメ、でしょうか?」

「…………」


 幽々の潤んだ瞳を見て、灰夢が面倒くさそうに目を逸らす。


「はぁ……。分かったから、もう好きにしてくれ……」

「えへへっ……。送り狼さんは、やっぱり優しいですね」

「ったく、妙な幽霊に取り憑かれたもんだな」


 幽々は灰夢に寄り添うと、満点の星空を見上げていた。


「綺麗ですね、凄く……」

「あぁ、ここは天然のプラネタリウムだ」

「これを毎日見れるだけで、幽々はとても幸せです」

「まぁ、学校にこもってたら見られねぇもんな」


 輝く満天の星空を見ながら、幽々がそっと呟く。


「ねぇ、送り狼さん……」

「……ん?」

「幽々を助けてくれて、ありがとう……」

「なんだよ、改まって……」

「えへへっ……。二人っきりで話すのが、久しぶりでしたから……」


 幽々は瞳に星空を映しながら、静かに語り出した。





「みんなと勉強したり、みんなでご飯食べたり、

 映画を見たり、ゲームしたり、女子会をしたり。

 まだ来て数日なのに、楽しいことだらけなんです。


 今までできなかったことがね、いっぱい出来るの。

 毎日が楽しいことばっかりで、幽々は嬉しいんです。


 人には何でもない【 あたりまえ 】の日常なのかもだけど、

 それすら出来なかった幽々には、かけがえの無い大切な時間。


 そんな風に思える日が来るなんて、思ってもみませんでした。


 そんな毎日をくれた送り狼さんには、感謝してもしきれません。

 こんな毎日をくれる家族のみんなが、幽々はとっても大好きです。


 元悪霊の、地縛霊の、人に迷惑をかけるようなオバケだったのに、

 それでも送り狼さんは、幽々の手を取って抱きしめてくれました。


 この姿になって初めて、幽々は人の温かさに触れられた気がします。

 こんな姿になった幽々でも、ちゃんと人の温もりを感じ取れました。


 たった、それだけの事が、幽々は本当に嬉しくて──」



























   「 ……だから、ありがとうございます。送り狼さん。


          こんな幽々の冷たい手を、二度も掴んでくれて── 」



























 そう語る幽々の瞳には、一筋の涙が流れていた。


「ふっ……。お前、また泣いてんぞ……」

「えへへ、これは嬉し涙です……」

「……そうか」

「──はいっ!」


 笑顔で頷く幽々の涙を、灰夢が優しく拭う。


「あのあの、送り狼さん……」

「……ん?」

「一つだけ、お願いがあるんです……」

「……お願い?」

「幽々も一緒に、お出かけに行っちゃダメでしょうか?」

「……は?」

「ゆ、幽々はもっと……。もっともっと、外の世界を見たくて……」


 幽々が輝く星々を、羨ましそうに見つめる。



























  「 この星空のように広がる、広大で美しい世界の色を、


            幽々はもっと、この目でたくさん見たかったんです 」



























 灰夢の見つめる幽々の横顔は、どこか寂しそうな表情をしていた。


「だから、幽々も送り狼さんと一緒に行きたいです」

「……幽々」

「……ダメ、ですか?」

「…………」


 その言葉を聞いて、灰夢が一緒に夜空の星を見つめる。


「はぁ……。俺は本当に、こういうのに弱ぇな」

「……送り狼さん?」

「そんな言い方されたら、断れねぇだろ。誰だって……」

「……いいの?」

「あぁ……」

「やったぁ〜、えへへっ! 幽々は凄く優しいですっ!」

「こりゃまた、素敵な旅路になりそうだな」


 幽々は満面の笑みを浮かべながら、灰夢に抱きついていた。


「危険な旅になるかもしれない、その覚悟は出来てるか?」

「はい。それでも、送り狼さんと一緒なら、何も怖くありません」

「そこまで言い切られると、俺のプレッシャーが凄いな」

「えへへっ、期待してますね。送り狼さん……」


 迷いのない幽々の言葉に、灰夢がそっと笑みを零す。

 その瞬間、風呂の外から、聞き覚えのある声が響いた。



























         『 ──話は聞かせてもらったっすよ! 』



























「……あ?」


 その言葉と共に、柵の外から透花と沙耶が飛んでくる。


「あわあわ、誰かが入ってきました……」

「どうもっす、幽霊さん。昨日ぶりっすねっ!」

「幽霊も、お風呂には入るのだな」

「あっ、くノ一さん……」


 さも当然のように、お風呂に侵入している二人に、

 灰夢は口を開けたまま、呆れた視線を送っていた。


「テメェら、何してんだ……」

「神楽さまに聞いたのだよ。運び屋くんが出かけると……」

「あぁ……。悪ぃが、修行はしばらくお預けだ……」

「しかし、お部屋にこもっていては、体がなまってしまうだろ?」

「なら、自主トレでもしてりゃいいだろ」


「そこでです、運び屋さんっ!」

「……人の話を聞けよ」

「ここいらで、課外授業を入れるのはどうっすか?」

「……課外授業?」

「──はいっ!」


 透花と沙耶が、希望に満ちた瞳を灰夢に向ける。


「それはつまり、お前らも付いてきたいって言ってんのか?」

「その通りさ。さすが運び屋くん、話が早くて助かる」

「そうか。なら、返事も即答で返してやる。却下だ……」

「──なっ! ちょ、なんでだぁ〜っ!」


 容赦のない返答に、二人の瞳から希望が消えた。


「ったりめぇだろ、遊びに行くんじゃねぇんだぞ」

「でも、仕事じゃないんすよね?」

「仕事じゃねぇが、死術のある所は大体面倒なのがいるんだよ」


「そういえば、死術を探す度に家族が増えてるって言ってたっすね」

「参考までに、何がいたのかを聞いてもいいかな?」


 沙耶の質問に、灰夢が指で数えながら答える。





「風鈴姉妹の時は、赫月で強化された山の神。

 そして、帰ってきた途端に数万の妖魔と神獣。


 白愛と恋白の時は、毒を吐く巨大な怪鳥の群れ。


 桜夢の時は仕事で、死術を拾ったのは偶然だったが、

 戦った相手は無数の悪魔と、骸骨を生み出す死霊術師。


 今年だけでは言えば、手に入れた死術は3つだが、

 それだけでも、4回は死線を潜る戦いを強いられてる」





「……と、とんでもないな」

「そんな所に、ガキを何人も遊びで連れて行けると思うか?」

「確かに、ちょっと説得力のレベルが違うっす」


「正直、海外への憧れや冒険心も分かるが、簡単に許可は出せねぇよ」

「……そうっすか」

「……なら、諦めるしかないか」


 灰夢の言葉に、二人はしょぼんと落ち込んでいた。


「というか、お前ら……。神楽はなんて言って来たんだ?」

「いや、神楽さまには、まだ何も言ってない」

「おい。せめて、そっちの許可ぐらい取ってこいよ」

「神楽さまは黒ノ生花の一件から、ボクらを外に出すのに抵抗があるみたいでね」

「まぁ、あんなことがあったんだ。俺でも、気持ちはわからなくねぇな」


「神楽さまが一緒にいれば別っすけど、あまり振り回せないっすから……」

「おい、俺はどうなんだ……」


 透花の配慮のない言葉に、灰夢がしかめっ面を向ける。


「でも、ここに来るか、月影の誰かがいると許してくれるのだよ」

「だから、運び屋さんに、お願いしてもらおうかと……」

「俺に神楽を説得しろってか? 冗談だろ……」

「いや、割とそれくらいしか、今のボクらには自由がないんだ」

「あのなぁ、俺はお前らのパパじゃねぇんだぞ?」


 灰夢が呆れながら、面倒くさそうに空を仰ぐ。


「お願いだ、運び屋くん。ボクらの今に自由をくれないかっ!」

「運び屋さんしか、頼れる人が居ないんすよっ!」

「冒険心溢れる少年か、お前らはっ! そういうのはゲームの中でやれっ!」

「ボクらの青春は、今、この瞬間しかないのだよっ!」

「こんなこと頼めるの、運び屋さんだけなんすよっ!」



「「 ──この通りっ!! 」」



 透花と沙耶は手を合わせながら、その場で土下座をしていた。


「はぁ……」

「ど、どうするんですか? 送り狼さん……」

「どうするって、俺が聞きてぇよ……」


 灰夢が困ったように空を見つめていると、煌めく何かがキラッと光る。


「……あ? なんだ、あれ……」

「「「 ……え? 」」」


 三人も釣られて夜空を見上げると、羽を生やした少女が落ちてきた。



























         「 ──ダークマスター、発見デスっ!! 」



























「──ぐふッ!?」

「うわっ! び、びっくりしたの……」

「な、なんすか……!?」

「なんか、降ってきた……」


 空から舞い降りたノーミーが、灰夢の腹に飛び込む。


「痛ってぇ……。何してんだ、ノーミーっ!」

「ダークマスター、冒険に出かけるデスかっ!?」

「おい、お前もそれ聞いて来たのかよ」

「異世界への大冒険と聞いたら、じっとしていられなかったデスよっ!」

「正確には異世界じゃなくて、ただの外国だけどな」

「それでも、まだ見ぬ新世界に、ワクワクは止まらないデスっ!」


 灰夢の上に乗ったノーミーが、キラキラと目を輝かせる。


「いや、お前が来たら、リリィまで来る羽目になるだろ」

「大丈夫デス、マスターには許可を貰ったデスっ!」

「……は?」

「ダークマスターがいるなら、行ってきてもいいと言われたデスっ!」

「嘘だろ。お前単体を外出させることを、あいつが許したのかっ!?」

「本当デスよっ! ねっ、マスターっ!」


























             「 ……うん、出したよ 」



























 ノーミーが顔を上げると、沙耶と透花の後ろにリリィが立っていた。


「「「 ──うわっ! 」」」


「……い、いつから居たんすか!?」

「……今?」

「ま、全く気が付かなかった……」


「まるで、幽霊みたいです……」

「お前が言うと、無駄に説得力が凄いな。幽々……」


 さも当然のような表情のリリィに、全員が呆れ返る。


「なぁ……。なんで、普通に全員男湯にいんだ?」

「今は、灰夢しかいないから……」

「──だから、俺がいるんだよっ!」

「……何か、おかしいの?」

「お前らの中の俺は、どんな存在なんだ……」

「灰夢は、いつでも例外だから……」

「いや、性別くらいは俺でもあるんだが……」

「ふふっ、知ってるよ……」

「──知ってんなら来んなよッ!!」


 小さく微笑むリリィに、灰夢が全力のツッコミを返していく。


「てか、なんで、リリィたちが知ってるんだ?」

「さっき、蒼月が言ってた……」

「……蒼月?」

「……うん」

「あの野郎、後で覚えとけよ……」


 灰夢が呪力を込めながら、拳を強く握りしめる。


「大丈夫。お仕置の必要は、ないから……」

「……は?」

「もう、ルミアが殺ってる……」

「またやってんのか、リアル鬼ごっこ……」


 灰夢は憐れむように、植物庭園の方を見つめていた。


「……んで、本当に行かせる気なのか?」

「……うん」

「なんで急に、そんな許しを出した……?」

「ノーミーたちは灰夢といると、凄く楽しそうだから……」

「……それだけ?」

「……うん」

「あっ、そう……」


 単純すぎる回答に、灰夢が深くため息をつく。


「特にノーミーは、冒険とか、好きそうだから……」

「まぁ、そりゃそうだけどよ。こいつ、厨二病だし……」

「……厨二病? って、なんデスか? ダークマスター……」

「お前みてぇなやつだよ。なんで、お前が知らねぇんだよ」


 ノーミーは不思議そうに、首を傾げながらキョトンとしていた。


「だから、もしよかったら、連れて行ってあげて……」

「……何かあっても知らねぇぞ?」

「何かあったら、灰夢が助けてくれるでしょ?」

「はぁ、ったく……。厚い信頼も、こうなると厄介だな」

「……ダメですか? ダークマスター……」


 ノーミーがキラキラした瞳で、灰夢をじーっと見つめる。


「……ったく、少し待ってろ」

「……?」


 灰夢は影からスマホを取り出すと、どこかに電話をかけ始めた。


『……もしもし、灰夢はん?』

『神楽、お前ん所のチビ共が来てんぞ』

『あぁ、さっき飛び出して行きはったでな』

『俺が出かけるのに、付いてきたいっつってんだが……』

『……ほんまに?』

『あぁ……』

『そっか、行きたいんかぁ……』


 神楽が考え込むように、数秒間、言葉を詰まらせる。


『……いいのか?』

『心配はあるんやけど、あまり閉じ込めるのも可哀想やからなぁ……』

『……どうすんだ?』

『ん〜、でも心配なんやよなぁ……』

『まぁ、気持ちは分かる。あの一件があった後だしな』

『……灰夢はんは、どう思うとるん?』

『…………』


 沙耶と透花が息を飲んで見つめていると、

 灰夢は小さく微笑み、ゆっくり口を開いた。



























          『 ……来てもいいんじゃねぇか? 』


























 その言葉に、透花と沙耶が目を見開く。


「……運び屋さん」

「……運び屋くん」


 再び数秒の間を置くと、神楽は静かに問いかけた。


『……理由、聞いてもええ?』


 神楽の質問に、灰夢が空を見上げながら答える。





「火恋や子狸三姉妹なんかの自然操作をする忌能力は、

 日々の練習だけでも、かなり実践への影響力がある。


 術の練習や模擬戦でも、術自体の形を変えることで、

 バリエーションはいくらでも考えることが出来るからな。


 だが、こいつらは戦闘において、特質した能力がない。


 透明になったり、生き物の基礎能力を書き換えるのは、

 敵対する対象が居て、初めて効果を発揮される忌能力だ。


 所詮、戦う時は体術頼りになるが故に、模擬戦には限界がある。

 敵陣への潜入技術、忌能力の応用、状況判断能力、仲間との連携。


 それらを補うには、この二人は外の世界を見た方がいい。


 正直、危険はある。俺も最大限守るが、どんなことにも絶対は無い。

 それでも、そういう危険な日々の経験は、必ずこいつらの糧になる。


 もちろん、危ない経験は無いに越したことはないだろうが、

 その経験の差は、忌み子としての人生にかなり影響が出る。


 だから俺は、こういう経験を積んでもいいんじゃねぇかと思う」





 その灰夢の説明に、神楽は少し間を置いてから返事を返した。


『せやな……。ほんまに、その通りや……』

『何かあったら、俺が死ぬ気で助けっから……』


 迷いのない灰夢の言葉に、神楽がそっと笑みを浮かべる。



























        『 ……灰夢はん、うちの子たちを頼んます 』



























            『 ……あぁ、引き受けた 』



























 そんな灰夢の説得に、透花と沙耶は固まっていた。


『ほな。準備の為に一度帰ってくるよう、言っておくれやす』

『あぁ、わかった……』

『あと、灰夢はんに説得させたことも、叱っておきますえ……』

『こいつらなりの自己アピールだ、お手柔らかにな』

『おほほ……。せやな、少しは頭に入れておきます』

『あぁ、そうしてやってくれ……』

『灰夢はん、ほんまにありがとうな』

『……今更だろ』

『せやな。ほな、おおにき……』

『あぁ……』


 灰夢が神楽との通話を切り、周囲に沈黙が漂う。


「……は、運び屋くん?」

「……どう、でした?」

「出発の準備の為に、『 一度、帰ってこい 』ってよ」

「っと、言うことは……」

「明日の夜の八時に出発だ。全員、遅れんなよ……」


 その言葉を聞いた瞬間、二人が風呂に向かって飛び込んだ。



「「 ──やったぁ〜っ! 」」



「あっ、ちょ……おいっ!」

「──うわわわわっ!」

「んなっ! 大胆デスね……」


「運び屋くん、ボクは君を信じていたよっ!」

「お前ら、急に飛び込んでくんな」

「ありがとうっす! 一生ついていくっすよ、運び屋さんっ!」

「いや、修行を終えたら、とっとと卒業してくれ……」


 嬉しそうに抱きつく二人を、ノーミーが羨ましそうに見つめる。


「ダークマスター、ワタシは……」

「リリィに言われたら、俺にも断れねぇよ」

「やったぁ〜っ! やったデスよ、マスターっ!」

「……うん、よかったね」


 嬉しそうにはしゃぐノーミーを見て、リリィは小さく微笑んでいた。


「やったぁ〜、ボクたちの大冒険だぁ〜っ!」

「運び屋さんとお出かけだぁ〜っ!」

「ダークマスターと共に、歴史を刻むデスよっ!」

「広い世界に出発ですっ!」

「おい、やめ……溺れる溺れるっ!」

「運び屋さんは溺れないっす~っ!」


 四人が喜びながら、灰夢の体にベッタリと抱きつく。


「灰夢、モテモテだね」

「ったく、波乱の展開が目に見えてんな」

「ふふっ……。ワタシには、幸せそうに見えるよ」

「幸せねぇ……。まぁ、悪い気はしねぇか……」

「……うん」


 リリィの笑顔に応えるように、灰夢が小さな笑みを返す。


「あっ、そうだ……」

「……ん? なんすか?」

「神楽が、『 俺に代理で説得させたお叱りは入れておく 』っつってたぞ……」

「バ、バレてる……」

「まぁ、そりゃそうだろ」

「帰るのは旅行の後じゃ……」

「……ダメっすかね?」

「お前ら、細胞分裂してぇのか?」

「で、ですよねぇ……」


 避けられない現実に、沙耶と透花がどんよりと落ち込む。


「とっとと帰って、準備してこい」

「……は、はい」

「……し、死ぬ気で頑張ってきます」

「準備の時点で言うセリフじゃねぇな」





 満天の星空の下、四人の子供がパーティに加わり、

 伝説を生む波乱の大冒険が、幕を開けるのだった──

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