第漆話 【 結果発表 】

 氷麗と言ノ葉は、無事に一週間のテスト期間を終え、

 次の週に行われる、運命の結果発表の日を迎えるのだった。





「……い、いよいよですね」

「全体的な出来は、どうだったんだ?」

「そうですね。全く分からない問題は無かったと思います」

「そうか。なら、上々だな……」

「でも、私は範囲の部分しか出来ないので、まだまだです」

「今は、その範囲が出来るかに全てがかかってんだ。他のことは、その時考えりゃいい」

「はい、えへへっ……」


 不安そうな表情をする氷麗の頭を、灰夢が優しく撫でる。


「言ノ葉の方は、どうだったんだ?」

「そうですね。苦手な理系が問題なく解けたのは、確かだと思います」

「まぁ、言ノ葉なら少なくとも、赤点は無さそうだな」

「いつもは50位くらいなので、もう少し上に行けたと思いますね」

「そうか、そいつは結果が楽しみだな」

「はいっ! 目指すは学年トップ10に入ることですっ!」

「良い心がけだ。笑顔の報告を期待してんぞ……」


 そういうと、灰夢はいつもより二段増した、

 巨大な重箱のお弁当を、言ノ葉に差し出した。


「おぉ、気合い入ってますね」

「開けるの、楽しみにしとけ」

「こんなに重そうなの、持って行ける?」

「大丈夫ですっ! わたしの言霊で軽くするのでっ!」

「あぁ、なるほど。だから、いつも軽々持ってるんだ……」


 重箱を軽々と持ち上げる言ノ葉に、氷麗が呆れた視線を送る。


「それでは、行ってくるのですぅ〜っ!」

「行ってきますね、お兄さん……」

「おう、行ってらっしゃい……」


 二人は笑顔で手を振ると、学校へと向かっていった。


「灰夢くん、心配かい?」

「蒼月か。いや、別に……」

「おや、思ったより安心してるね」

「あぁ……。あいつらならきっと、大丈夫だ……」

「……そっか」


 二人の後ろから、霊凪がひょこっと顔を見せる。


「言ノ葉たちは、もう行ったかしら?」

「おや、霊凪ちゃん……」

「あぁ、行ったよ……」

「……そう」


「霊凪ちゃんは、見送らなくてよかったのかい?」

「えぇ……。私は影から応援してるくらいが、ちょうどいいのよ」

「まぁ、霊凪さんは言ノ葉の事になると、なんでも手を貸すからな」

「できる限りは控えるように、心掛けているのだけどね」

「霊凪ちゃんも梟ちゃんも、心配症だからねぇ……」


 霊凪が手を握りしめながら、悲しそうな表情で俯く。


「私は、あの子が本当に困っていた時に、助けられなかったから……」

「神に近い忌能力……。しかも、言霊はしょうがねぇだろ」

「そうだね。あんなに危険な忌能力、下手したら二人だって死にかねない」

「あの時の後悔を、もう私たちもしたくないのよ」

「後悔か。まぁ、それは俺も否定できねぇな」


 青空を見上げる灰夢は、どこか寂しそうな顔をしていた。


「ねぇ、灰夢くん……」

「……ん?」



























         「 私の娘を助けてくれて、本当にありがとね 」



























 そう灰夢に微笑む霊凪は、言ノ葉によく似た笑顔をしていた。


「それ、もう何回も聞いてんぞ……」

「今、あの子が笑っていられるのは、あなたのおかげだもの……」

「そうやって助け合うのが、爺の教えだからな」

「それでも、この感謝を忘れることはないわ」

「そうか。なら、ありがたく頂いておくとするよ」

「うふふ。そうしてくれると、私も嬉しいわ」


 そんな二人の会話を、蒼月が笑顔で見つめる。


「んじゃ、ガキ共が帰ってくる前に、宴の準備でもすっかな」

「おっ、いいねぇ! 僕も手伝うよっ!」

「素敵、私も買い出しに行ってくるわねっ!」


 店に残された大人たちは、子供たちよりも先に浮かれていた。



 ☆☆☆



 学校では、早めに登校していた言ノ葉たちと、

 灯里たち三人組が、バッタリと出くわしていた。


「おっ! おっはーっ!」

「おはよ〜。不動さん、橘さん……」

「……おはようございます」


「おはようなのですっ!」

「三人とも、おはよう……」


 五人が話をしながら、学校の中へと向かう。


「テスト結果、もう貼られてるんだっけ?」

「うん。今日の朝には貼ってるはずだから……」

「うわぁ、もう……。なんか、心臓バクバクする……」

「橘……。お前なんか、体から冷気がでてんぞ……」

「まぁ、氷麗ちゃんですからね」


「結果、楽しみですね」

「はい、みんなで一緒に見にいくのですっ!」


 こうして、五人は揃って廊下の結果を見にいった。



 ☆☆☆



 廊下の張り出しを見つけた梅子が、一番に駆けだす。


「……あっ、でてるよっ!」

「ほんとだ、アタシの名前どこだ〜?」

「あれ……? いつもは、ここら辺に……」

「私の名前がない、もしかして名前書いてなかったとか?」

「いや、それなら一番下にいるっしょ……」


 名前が見当たらない氷麗の顔が、一瞬で青ざめる。

 その瞬間、氷麗たちの横で一人の少女が声を上げた。


























               「 ……えっ!? 」


























             ……声を上げたのは、香織だった。


























「どうしました? 香織ちゃん……」

「香織はどうせ、また一位だろ?」


 灯里の言葉に釣られるように、全員で上を見上げる。

 すると、まさかの順位結果に、子供たちは目を疑った。


「──あっ!」

「──えっ!?」

「──嘘っ!」


























         一位 …… 不動 言ノ葉  総合点数 987点


         二位 …… 一ノ瀬 香織  総合点数 983点


         三位 …… 橘 氷麗    総合点数 942点


























「マジかよ、三位まで独占じゃん……」

「香織ちゃんが、負けた……」

「……けた」

「……香織?」



「言ノ葉さんに負けたぁ〜っ! うわぁ〜んっ!」



 香織が大泣きしながら、その場に崩れ落ちる。


「うわぁっ! いつもクールな香織が泣き出したっ!」

「か、香織ちゃん、落ち着いて……」


 突然の香織のリアクションに、灯里と梅子はパニックになっていた。


「なんでしょう。嬉しい半面、なにかやってしまった感が……」

「まぁ、特待生はトップ10にいれば継続だから、別に大丈夫だよ」

「香織ちゃんが特待生じゃなくなる訳じゃないから、安心してください」

「そ、そうなんですね。よかったです……」


「負げだぁ〜、うわぁ〜んっ!!!」

「…………」


 大泣きする香織を、言ノ葉が申し訳なさそうに見つめる。


「私が、トップ3……」

「やりましたね、氷麗ちゃんっ!!」

「わ、わたし、わだじ……」

「……氷麗ちゃん?」

「やっだよぉ〜っ! おにぃざぁ〜ん、うわぁ〜んっ!!」


「いや、なんで橘まで泣いてんだよっ!!」

「たぶん、嬉しくて感極まったんですね」

「全く。幽霊の時は泣いてなかったくせに、なんなんだよ……」


 氷麗は言ノ葉を挟むように、香織の反対側で大泣きしていた。


「それにしても、凄いですね。三人とも……」

「ほんとに、随分とレベチなダチを持ったもんだな」


 大泣きする二人を、灯里と梅子が微笑みながら見つめる。


「私は122位だった。灯里ちゃんは、どうだった?」

「あっ、そうじゃんっ! アタシは、えっとぉ……。あっ……」


 ──その声と同時に、灯里の表情が石のように固まった。


「……灯里ちゃん?」

「どうしよう、梅子……」

「……え?」


























            「 ……アタシ、352位だ…… 」


























「……それって?」

「350位以下は、補習ですね」


 梅子の言葉を合図にするように、灯里までもが崩れ落ちる。


「うわぁ〜んっ! 香織〜、梅子〜、ごめぇ〜んっ!」

「うわぁっ!! 灯里ちゃんまで泣き出したっ!」


「あわわわわわっ! なんだか、大惨事なのだぁ〜っ!」


「助けてぇ〜、言ノ葉さぁ〜んっ!」

「ちょ、梅子ちゃんまで一緒に泣かないでくださいよっ!!」





 周囲で大泣きする四人の友達を、一人でアワアワしながら、

 言ノ葉は何とか慰めようと、必死に声をかけ続けるのだった。

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