第伍話 【 中間テスト 】

 灰夢は、高校生組と一週間の猛勉学に励み、

 無事に範囲までを、学習することに成功した。





 そして、テスト初日……。

 数学のテストが二人を待っていた。


「どうしましょう、お兄さん。心臓がバクバクです」

「まだ学校にも行ってねぇだろ、気が早ぇよ……」

「それにしても、氷麗ちゃんが高校の数学を解けるまでになるとは……」

「本当にね。私も、ビックリしちゃった……」

「範囲である箇所を解くのに、必要な知識だけを覚えさせだけだ」

「そんなことが出来るんですね、お兄ちゃん……」

「狼さん、本当に先生向いてるんじゃ……」


 灰夢の予想外な教育スキルに、子供たちが耳を疑う。


「でも、あれだけ出来れば、数学なんて十分じゃないですか?」

「舐めんな。二年で微積がでたら、お前は絶対に死ぬ……」

「えっ、私……死ぬんですかっ!?」

「今までの計算量とは次元が違うからな。今のお前なら確実に死ぬ」

「に、二回も言った……」


 容赦ない灰夢の言葉を受け、氷麗の心はバキバキに折れていた。


「今のお前ができるのは、あくまで今回のテスト範囲の問題だけだ」

「なら、お兄さん。また私に、勉強教えてくれますか?」

「また今度な、今は目の前のテストに励め……」

「えへへっ、やったぁ〜っ!」



( 氷麗ちゃんが、勉強することを喜んでます )



 勉強前からは想像のできない氷麗の反応に、言ノ葉が目を疑う。

 すると、灰夢はいつもの大きな、重箱の弁当箱をドンッと置いた。


「とりあえず予習もしたし、あとは実戦で試すだけだ。頑張れ……」

「はいっ! 頑張りますね、お兄さんっ!」

「お兄ちゃんとの勉強の成果を、見せつけてやるのですっ!」


「頑張ってね、二人共っ!」

「はいっ! 桜夢さんの分も、頑張ってきますっ!」

「この一週間は、絶対に無駄にはしませんよぉ〜っ!」

「ふっ、その意気だ……」


 灰夢と桜夢が店の外で、二人の登校を見送る。


「それでは、行ってくるのですっ!」

「行ってきますね。お兄さん、桜夢さん……」

「おう、気をつけてな……」

「行ってらっしゃ〜いっ!」


 二人は笑顔で手を振ると、学校へと向かって行った。


「ねぇ、狼さん……」

「……ん?」

「……いや、なんでもないやっ!」

「……あ?」


「二人、頑張れるといいね」

「そうだな。まぁ、きっと何とかなんだろ」

「なんで、そんなに真っ直ぐ信じられるの?」

「……んなもん決まってる」

「……ん?」



























           「 ……俺の大切な、弟子だからな 」


























 そう告げる灰夢の目は、疑いの無い程に信じきった瞳をしていた。


「……狼さん」

「お前も、その一人だけどな」

「えへへっ、そうだね……」


 桜夢が嬉しそうに、満面の笑みを見せる。


「さてと。俺は少し、ゲームで気晴らしでもすっかな」

「いいねぇっ! ワタシもやらせて〜っ!」

「へいへい。お前もゲーム好きだなぁ……」

「うんっ! だって、面白いもん。あんなの今まで知らなかったしっ!」

「まぁ、監獄にゲームはねぇよな」


「でも、この間のあれは嫌だなぁ……」

「……あれ?」

「監獄みたいなステージで、ゾンビと戦うゲーム……」

「あぁ、バイオ〇ザードな」

「あれは怖いよぉ、トラウマ蘇っちゃうよぉ……」


 桜夢がブルブルと震えながら、灰夢の体にしがみつく。


「あれは俺にとっちゃ、ストレス発散の格ゲーだがな」

「……格ゲー?」

「頭一発打ってぶん殴るっ! スタンロットでぶん殴るっ!」

「銃使ってよ、画面いっぱいにゾンビ来ちゃうじゃんっ!」

「勝ちゃいいんだよ、ゲームなんだから……」

「そんなんだから、本番も捨て身で戦うことばっか考えるんだよっ!」

「不死身なんだ、別にいいだろ」

「んもぉ〜っ!」


 恐れを知らない灰夢に、桜夢はぷっくらと頬を膨らめせていた。


「じゃあ、なんのゲームやりたいんだ?」

「二人プレイで、ワタシが守ってもらえるゲームがいいな〜っ!」

「いや、お前も戦えよ……」

「ダメだよ、ワタシはお姫さまだもんっ!」

「どこが姫だ。サキュバスという名の悪魔だろ」


「女の子はみんな、お姫さまなのっ! 姫が前で戦ってたらおかしいでしょ!」

「今の時代、ピ〇チ姫もゼ〇ダ姫も戦うんだ。別におかしくねぇよ……」

「おかしいよっ! マ〇オとリ〇クの冒険譚が無くなっちゃうでしょ!」

「土管工事のオッサンと村の少年に、みんな責任を負わせ過ぎなんだよ」

「確かに、毎回何回も死んでるよね。あれ……」

「少しは自分の身ぐらい、自分で守ってくれ……」


「でも、狼さんなら不死身だから、無理しても大丈夫だよねっ!」

「さっきと言ってることが違ぇだろ。お年寄りに無理させんな、腰に響く……」

「ねぇ、いいじゃ〜んっ! それが、一番楽しいのぉ〜っ!」

「いちいち抱きつくな、熱苦しい……」

「えへへ〜っ! またワタシがピンチの時は、助けに来てね。ワタシのナイト様っ!」

「はぁ……。面倒な姫に捕まったもんだな」





 灰夢は面倒くさそうにしながらも、桜夢と共に部屋に戻り、

 二人プレイのアクションゲームを始めると、一人で無双していた。

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