第肆話 【 戦慄の雪合戦 】

 恋白が召喚した八岐大蛇に、蒼月は温まる魔術をかけていた。





「ありがとうございます、蒼月さま……」

「別にいいさ。牙朧武くんもいるし、君たちも遊んでおいでよ」


『『『 シャーーーーーーーーッ!! 』』』


 地響きを立てながら、八岐大蛇が牙朧武の元へ向かう。


『なんじゃ。また、珍しいものが来たのぉ……』

『『『 シャーーーーーーーーッ!! 』』』


 それを見届けて、蒼月が戻ってくる。

 そして、満月に雪合戦の宣戦布告を始めた。


「さて、僕たちも雪合戦と行こうかっ!」

「蒼月、今日は瞬間移動は無しだからなっ!」

「いいよー! なんなら、目隠しだって、このままだっ!」

「よし、ならば……今日こそ、お前を倒して見せよう。──こいッ!!」



【  雪玉製造兵器 ゆきだませいぞうへいき…… ❀ 白武ノ砲撃機神 冬将熊 アーマード・ベアホワイト・ウィンター・ジェネラル❀  】



 満月が手をかざすと同時に、メカメカしい熊が出来上がり、

 それを見ていた氷麗が、突然の忌能力に、目を丸くしていた。


「……なに? あれ……」

「また、なんか作りやがったな」

「まぁ、いつもの事ですよ」

「今、どうやって作ったんですか?」

「あいつの忌能力だ。無機物を取り込んで、あらゆるものを創造する」

「なるほど。これまた、凄い忌能力ですね」

「あれが、クマのぬいぐるみを作ってる張本人だからな」


 冷静に観察しながら、氷麗が周囲を見渡す。


「そういえば、私、あの機械の中の人を見たことないです」

「中身も何も、あのデカい熊の後ろに本体がいるだろ」

「……え?」

「他の機械は満月が動かしてるが、あの黒いサイボーグだけは本体だ」

「ちょ、待ってください? 中身も機械なんですか?」

「元は人間だが、自ら自分の体を改造して、今は心以外、全て機械だ」


 それを聞いて、氷麗の顔が青ざめる。


「なんか、もう、何も信じられなくなってきました」

「逆に慣れると、何を見ても驚かなくなるぞ」

「それはそれで、大切な何かを無くしている気がします」

「まぁ、否定はしないでおく……」


 冷静に答えながら、灰夢は呆れた瞳で、ロボットを見つめていた。


「よしっ! じゃあ、僕も本気で行くよっ!」

「よかろう、真っ向から勝負だ。蒼月っ!」


 蒼月が手をかざし、自分の足元に魔術式を展開する。

 それと同時に、満月がクマのロボットを起動させた。



 <<< 偽典魔術・冬空に舞う弾幕 キオノスティヴァス・プセウデピグラファ>>>


 <<< 機神撃・無限豪雪二連熊砲 ダブル・ベアレッド・スノーボール・インフィニティ>>>



 魔術で雪玉を次々と浮かし、蒼月が魔弾のように飛ばす。

 それに対抗して、満月もロボットの腕から雪玉を連射する。


「やるなぁ、蒼月……」

「みっちーこそ、さすがの技術力だ……」


 目にも止まらぬ速度で、灰夢たちの目の前を、雪玉が通過していく。


「……雪、合戦?」

「入るなよ、死ぬぞ……」

「死ぬ可能性のある雪合戦なんて、聞いたことないですよ」

「ここじゃ、大体のスポーツがこうなるんだ。覚えとけ……」


 灰夢と氷麗が冷たい瞳をしながら、淡々と会話を続ける。


「いいねぇ。なら、もっと弾数増やすよっ!」

「ならば、こちらもスピードアップだっ!!」


 ただの雪玉が、まるで、弾丸の如く左右に飛び交う。

 すると、そんな戦場に、リリィが歩いて向かっていった。


「楽しそう、だね」

「おや、リリィちゃん。珍しいね、君から興味を持つなんて……」

「リリィもやるか? 雪合戦……」

「うん、やる……」

「いいよぉ、どんとおいで! 僕が、君の全てを受け止めてあげるよっ!」

「ほんと? じゃあ……」



 <<< 合成精霊術・断罪する白雪姫 ディオニス・スノウホワイト>>>



 リリィの周りに、女性の姿をした雪像が、次々と生み出される。


「おぉ、凄いやっ!」

「精霊術は、やろうと思えば雪も操れるんだな」

「水と、風の、応用……」

「さっすがリリィちゃ……ん?」



 ──その時、蒼月は雪像に、とある違和感を覚えた。



 雪玉を投げて遊ぶ雪合戦。確かに、ここでは凶器となる速さである。

 だが、雪像の手には、さらに雪玉では無い別の凶器が握られていた。


「リリィちゃん。なんで、その子たち【 斧 】を持ってるの?」

「……? これ……雪、だよ?」

「いや、そうなんだけど……形が。あと、凄く硬そうなんだよね」

「密度を高めて、圧縮して、しっかりと、固めた……」

「……それ、何に使うの?」

「蒼月。ワタシの想い、ちゃんと、受け止めてね」

「──ッ!?」


 リリィの表情が、いつになく柔らかい笑顔を見せると、

 次の瞬間、雪像の大群が、一斉に蒼月に襲いかかった。


「待って待って、リリィちゃんっ!」

「……何?」

「これ雪合戦だからっ! 雪を投げて遊ぶの、そういう遊びなのっ!」

「そっか、ごめん……」

「ふぅ……。分かってくれたなら、それで──ッ!?」


 一息吐いた蒼月の横に、ザクッと雪の斧が刺さる。


「……へっ?」

「蒼月、いくよ……」

「うわあああぁぁぁぁああ!!」


 雪像たちが、一斉に雪の斧を投げていく。

 投げては作り直して、また投げるを繰り返す。



 まるで、降り注ぐひょうのように──



 こうして、当たれば即死の雪合戦が、再び始まった。


「待って、これ目隠し外してもよくないですか?」

「……ダメ」

「今日のリリィちゃん、いつも以上に辛辣っ!」


 走って逃げる蒼月を、リリィがひたすら追い回す。


「あれは、大丈夫なんですか?」

「まぁ、いつもの死刑執行じゃれ合いだ……」

「仲良いですからね、あの二人……」

「愛情表現、おかしくないですか?」


 蒼月とリリィの死刑執行じゃれ合いを、灰夢たちは暖かく見守っていた。


「灰夢、敵がいなくなった。お前、やるか?」

「そうだな。そのメタリックなクマは、いい筋トレマシンになりそうだ」


 そういって、灰夢が満月の前へと向かっていく。



 <<<<< 血壊死術けっかいしじゅつ鬼気きき 狂葬羅刹きょうそうらせつ >>>>>



 吹き荒れる冷風が、灰夢のリミッターが外れた事を知らせる。


「本気で来ないと、死ぬからな?」

「安心しろ。俺はぜってぇ、死なねぇから……」



 【  幻影武装げんえいぶそう …… ❀ 幻狼夜叉明王げんろうやしゃみょうおう ❀  】



「手加減しねぇぞ。満月……」

「それでこそ、燃えるものだ。灰夢……」


 灰夢と満月が、静かに見つめ合う。


「お兄さん、大丈夫かな……」

「大丈夫ですよ。お兄ちゃん、人間じゃないですから……」

「……?」


「──いくぞッ!」

「──おぅッ!」



 <<< 濠雪演舞ごうせつえんぶ狂葬咲乱吹雪きょうそうさみだれふぶき >>>


 <<< 機神撃・無限豪雪二連熊砲 ダブル・ベアレッド・スノーボール・インフィニティ>>>



 灰夢が、地面に生やした影の腕で、次々と雪玉を作り出し、

 それを自分に投げては、回転しながら四本の腕で満月に投げつける。


 満月も負けじと、メタリックなクマの雪玉製造機で、

 雪玉をガトリングのように、次々と両腕から発射していく。


「凄い、あのクマに応戦してる」

「本番は、ここからなのですっ!」


 打ち続けている間に、灰夢の肉体が強くなり、

 段々と、二本の腕だけで放つ満月が押されていく。


「オラオラオラオラッ! そんなもんかぁッ!!」

「……くっ、やはり強いな、灰夢っ!!」


 その時、横からヨチヨチと白愛が歩いてきた。


「──灰夢ッ!! ストップッ!!!」

「──ッ!?」


 二人が瞬時に、ピタッと動きを止める。


「……ゆき、がっ……せん……」

「あっ、申し訳ありません。白愛、危ないよっ!」

「いや、別に構わないさ。白愛もやるか?」

「……うんっ!」


「恋白、お前は俺側についてくれ」

「ですが、白愛が……」

「俺らはロボットを倒すだけだ、白愛には当てねぇよ」

「なるほど、かしこまりました。では、ご協力させていただますね」


「この際だ、もっと盛大にかますとしよう」

「……か、ます……しよ〜っ!」


 白愛の掛け声と共に、満月が雪玉製造機を更に改良していく。



【  雪玉製造兵器 ゆきだませいぞうへいき…… ❀ 白武ノ砲撃機神 冬将熊 Mk-II アーマード・ベアホワイト・ウィンター・ジェネラル・マークツー❀  】



 クマの肩に、さらに二つのガトリングが取り付けられ、

 大きな口を開くと、その中からも、ゆっくりと機銃が現れた。


「おぅおぅ、また派手に進化しやがったな」

「手分けして参りましょう。主さま……」

「手分け? 何か、いい手があるのか?」

「わたくしは水神術が使えますので、防衛を担当致します」

「……水神術、水を使った術ってことか?」

「さようでございます。主さまは、攻撃に専念してくださいませ……」

「そうか、わかった……」


 満月が白愛を連れて少し離れ、遠くからメカを動かす。


「いくぞ、灰夢っ! 今度は、さっきのようにはいかんからなっ!」

「所詮、ただの雪玉製造機だろ? 限界があるなら敵じゃねぇっ!」



 <<< 機神撃・無限豪雪五連重熊砲 ファイブ・ベアレット・スノーボール・インフィニティ>>>


 <<< 雪濠演舞ごうせつえんぶ狂葬咲乱吹雪きょうそうさみだれふぶき 死殲しせん >>>


 <<< 水神術すいじんじゅつ梅雨時雨つゆしぐれ >>>



 五連装のガトリングから、一斉に放たれる雪玉を、

 恋白が水を針のように飛ばし、次々と撃ち落としていく。


 そんな中、灰夢は恋白を信じて、玉と玉の隙を突き、

 防衛することなく、ひたすらクマに攻撃を仕掛ける。


 その雪玉を、クマが五連装で、全て撃ち落としていく。


「なんかもう、戦争みたい……」

「まぁ、そんなに変わりはないですよね」

「私が暴走したのが、ちっぽけに感じる」

「この人たちと比較してはいけませんよ。氷麗ちゃん……」


 その瞬間、ドンッという地響きが大地を揺らした。


「──ひゃっ!? な、なにっ!?」

「あぁ、牙朧武さんたちですね……」


 奥の方を見ると、牙朧武と八岐大蛇が雪を投げて遊んでいた。


『ガッハッハッ! お主らも、なかなかやりよるのぉっ!』

『『『 シャーーーーーーーー!! 』』』


「もう、世界の終わりだよ……」

「慣れって、怖いですね……」

「これを驚かなくなったら、私も仲間入りなんだろうなぁ……」

「……そう、ですね」

「なんか、嫌だなぁ……」

「嫌とか言わないでくださいよ。氷麗ちゃん……」





 自分の知っている『 雪合戦 』とは、違う世界を見て、

 どこかで道を間違えたことを、ようやく自覚した氷麗だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る