第拾話 【 雷雨を駆ける黒き英雄 】

 灰夢と満月が空へ飛び立つと、怪鳥の群れも同時に動き出した。




「今度は、さっきのようにァ行かねぇぞッ!!!」

『キエェェェェェェェッ!!!』


 ボスの声に応えるように、周囲の怪鳥たちが灰夢を狙う。



 <<< 黑妖大刀こくようだいとう四ノ型よんのかた村雨鬼炎むらさめきえん >>>



 襲い来る鴆たちを、灰夢が渦を巻くように切り捨て、

 妖炎に焼かれた怪鳥たちが、次々と地上へ落ちていく。


『おのれ、小癪な人間如きが──ッ!!!』

「俺の相手はテメェだ、デカブツ──ッ!!!」



 ☆☆☆



 灰夢と共に飛び立った満月は、浮遊要塞の上に降り立った。



『親愛なる【 勝利を求める全縫熊部隊 ビクトリア ベアーズ】に告げるッ!!!』


『『『 ──キュゥッ! 』』』


『これより、敵の殲滅に取り掛かるッ!! 一匹たりとも撃ち逃すなッ!!』


『『『 ──キュゥッ!!! 』』』



























        【  ❖ 永遠ノ雷雨・破壊開始 ライトニング ネバーエンド・バースト オン❖  】



























 浮遊要塞が動き出し、周囲の怪鳥たちを、一斉に電磁砲で撃ち抜く。

 上部の機械城からはミサイルが放たれ、急降下するように敵へと向かう。


 まるで、ミサイルの雨がいかずちと共に、大地へ降り注ぐのように。



 ☆☆☆



 本気を出した灰夢たちを、真希たちは地上から見つめていた。


『す、凄い……』

「さっきまでとは、もはや次元が違う……」


「あれでは『 白き英雄 』ではなく、『 黒き英雄 』じゃな」


「黒き、英雄……」

『雷雨を駆ける、機神……』


「吾輩、もしかして要らぬのでは無いか?」


 そう牙朧武が呟くと、数体の怪鳥が急降下し、

 低空飛行で滑空しながら、真希たちに向かってきた。


「おぉ、わざわざ出番を作ってくれおった」



 <<< 幻影呪術げんえいじゅじゅつ牙狼砲がろうほう >>>



 牙朧武が呪力弾を連発し、向かい来る怪鳥を撃ち抜いていく。


「さすがですね。牙朧武さま……」

「ここでは本気が出せぬので、ちと窮屈じゃがな」


 恋白の背中の上で、真希に抱かれている白愛が、

 じーっと静かに、牙朧武の恐ろしい姿を見つめる。


「…………」

「……ん?」

「……こ、わ……い?」

「ん〜、──グッ!」

「えへへっ、──グッ!」


 牙朧武がシャキーンッと、白愛にグッドサインをして笑うと、

 白愛が笑顔で真似をしながら、牙朧武のグッドサインに応える。


「灰夢の仲間と言っていたが、あなたはいったい」

「吾輩は、ただの呪霊じゃよ……」

「……呪霊?」

「死ぬに死にきれんかっただけの、ただの醜い怨念じゃ……」

「白蛇の神に、鳥のバケモノ、呪霊……。もはや、何が何だか……」

「別に信じなくても構わぬが、残念ながら、目の前のこれが現実じゃ……」

「『 目で見たものは信じろ 』か。確かに、これは科学では解明できんな」


 そういって、真希は灰夢たちの舞う空を見上げていた。



 ☆☆☆



 遥か空中では、灰夢が鴆のボスと一対一で戦っていた。


『──チッ、ろくに使えない下僕共めがッ!!!』



 <<< 怪鳥奇術かいちょうきじゅつ鴆毒漿液ちんどくしょうえき >>>


 <<< 電磁防壁展開 エレクトリック・プロテクション>>>



 灰夢が周囲に電磁バリアを張り、吐かれた毒液を防ぐ。


「上役なら責任取って、頭でも下げてみたらどうだ?」

『我々は食物連鎖の頂点、抗うことは許されないッ!!!』

「知識不足だ。下克上っつう素敵な言葉を、頭の辞書に刻んどけッ!!!」



 <<< 黑妖大刀こくようだいとう壱ノ型いちのかた蒼染炎舞そうせんえんぶ >>>


 <<< 鳥獣演舞ちょうじゅうえんぶ大黒爪波だいこくそうは >>>



 灰夢の刀と怪鳥の爪の斬撃が、互いの命を狩ろうと乱れ飛ぶ。


「……クソッ、これでも届かねぇか」

『ええぃ、しぶといッ!! いい加減、地に還れ──ッ!!!』



 <<< 鳥獣演舞ちょうじゅうえんぶ緑扇乱羽りょくせんらんう >>>



 鴆のボスが大量の羽を、灰夢に向けて一気に放つ。


『キエェェェェェェェッ!!!』

「この羽の棘は、本当に厄介だな」


 灰夢は左手を伸ばすと、新たに死術の詠唱を始めた。



























      『 血肉ちにくらいて体現たいげんし、くれないはなみだれん 』



























      【  刄血死術じんけつしじゅつ …… ❀  紅血大刀・紅桜こうけつだいとう・べにざくら ❀  】



























       【  ❖ 紅黑二染流こうこくにせんりゅう弐ノ型にのかた柳川りゅうせん ❖  】



























 黑妖刀・月ノ涙を右手に、紅血刀・紅桜を左手に握りしめ、

 巨大な鴆の飛ばした大量の羽を、両刀で弾き飛ばしていく。


『まだ足掻くか、人間如きが──ッ!!!』



 <<<<< 機神撃・超巨大電磁熊重砲 べアレックス・レールガン>>>>>



『──ヌハッ!?』


 隙を突いて、満月が浮遊要塞の中心から、巨大な電磁砲を放つ。


「やれ、灰夢──ッ!!!」

「トドメ行くぞ、デカブツ──ッ!!!」

『おのれぇ……。鉄屑諸共、全て貫いてくれる──ッ!!!』


 鴆の目が紅黒く光り輝き、羽を強く羽ばたかせると、

 空高くまで舞い上がり、同時に羽が黒く染まっていく。


 そのまま弧を描くように、島の外へと飛び出ると、

 灰夢と浮遊要塞を貫くように、一直線に加速した。


「上等だ、正面からぶった斬ってやらァッ!!!」


 灰夢が上昇しながら、ブースターのモードを切り替える。



 <<< 無限加速装置 アルティメット・アクセラレート 稼働開始 ブラスト・オン>>>



 そして、灰夢も負けじと空へと舞い上がり、

 円を描くように一周して、前方へと加速した。


『 われいかずち加護かごち、てんをもつらぬ一閃いっせんとならん 』



 <<< 迅檑死術じんらいしじゅつ刹那ノ瞬せつなのまたたき >>>



 灰夢が体に稲妻を纏いながら、一閃を引き、更に加速していく。


『──死ねッ!!! 小賢しい下等種族が──ッ!!!』

「蒼空に散れ──」


 ──次の瞬間、目にも止まらぬ速度で、灰夢と怪鳥が激突した。



























      【  ❖ 紅黑二染流こうこくにせんりゅう伍ノ型ごのかた緋桐焔ひぎりほむら ❖  】


      【  ❖ 神鳥演舞 しんちょうえんぶ 天落狂鳥貫殺 てんらくきょうちょうかんさつ❖  】



























    灰夢と怪鳥がすれ違った途端、凄まじい衝撃波が島全体を揺す。



























 そして、互いにすれ違った数秒後に、怪鳥の動きが止まり、

 真っ赤な花が体全身から咲き乱れるように、血が溢れ出した。


『そんな、バカな……。この、ちんが……。人間、如きに……』


 その溢れ出る血を伝うように、妖炎が怪鳥の全身に燃え広がり、

 全身へと燃え広がった鴆が、そのまま真っ直ぐに地へと落ちる。



 ☆☆☆



『今だ──ッ!!! 全砲門、一斉射撃──ッ!!!』


『『『 ──キュゥッ! 』』』



























      【  ❖ 機神撃・終戦ヲ告ゲル熊ノ咆哮 ベアクレール・ファロン❖  】



























       その号令と共に、轟雷と爆撃が一斉に降り注ぐ。



























               その瞬間──



























 機械城から放たれた、眩い超電磁砲の光が、


        その場に居る全ての者に、終戦を知らせた。

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