第弐話 【 生き残り 】

 灰夢と満月は船に乗って航海し、無事に島へと辿り着いていた。





 浜辺では、灰夢、満月、九十九、牙朧武の四人が、

 静かにキャンプをしながら、海の幸の並ぶ食卓を囲む。


「うっし。まぁ、飯としては十分だろ」

「灰夢。お前、本当に器用だよな。こういうところ」

「……そうか?」

「なんかもう、職人だろ。なんだよ、この盛り付け……」

「これは船盛だよ。伝統的な海鮮の盛り付けだ……」


 灰夢は木で作った船に、卸した魚を盛り付けていた。


「新鮮な魚というものは、なかなかに美味じゃなっ!」

「九十九と牙朧武って、割となんでもいい所あるよな」

「マグロと言うものは、食べ応えがあるのぉ……」

「なんで、そんなデカいマグロ釣ってるんだよ」

「群れがいたら、狙うしかねぇだろ?」

「おかげで、夜になっちまったけどな」


「もうすぐ夜明けだ。出発はそれからでいいさ」

「まぁ、これも旅の醍醐味か」

「これぐらいしなきゃ、不死身なんてやってらんねぇよ」

「無駄な経験値が活きてるなぁ、本当に……」


 ご飯を食べながら、満月が呆れた顔で呟く。


「それにしても、この島なかなかでかいよな」

「そうだな。地図に乗ってねぇのが不思議なくらいだ」

「来る途中も霧が凄かった。もしかしたら、気象的なのが理由かもな」

「霧が濃くて、人が辿り着かないってか?」

「それか、何かの力で防がれてるか、怪異たちの何かかでな」


 そういって、満月は島の中心を見つめていた。


「村があるっつってたのは、島を囲うような、この森の中か?」

「恐らくな。ドローンを何台か、中に飛ばしておくとするか」

「こんな暗いのに、見えるのか?」

「暗視用のやつがあるから、それを飛ばしておく……」

「さすが、万能なもんだな。まぁ、せっかくだ。頼む……」

「あぁ……」


 満月が、背中のミサイルを積んだ鉄箱から、ドローンを数機飛ばした。


「そう言えば、さっき言ってた白い蛇神って、実在するのか?」

「さぁな。実際問題、中に入ってみないとなんとも言えねぇよ」

「まぁ、人が居ないんじゃ、居ても信仰も何も無いか」

「……だな」


「敵側の『 悪魔 』ってのも、また気になるな」

「お前の、その背中のガラクタを、使わないで済めばいいんだけどな」

「その話を聞くと、そうはいかなそうだけどな」

「ったく、神の次は悪魔か。絶えねぇなぁ……」

「悪魔なら、うちにも一人いるけどな」

「確かに。あれより厄介な悪魔は、そうそういねぇか」

「……だな」


 ──その瞬間、満月が食事の手を止める。


「……灰夢」

「九十九、牙朧武、影に隠れろ」

「──ッ!?」

「──ッ!?」


 マグロのお造りを持ったまま、二人が影の中へと消えた。


 そこからしばらく待っていると、浜辺を回るように、

 大きなリュックサックを背負う、白衣を着た女性が現れた。


「──動くなっ!」


 その女性が二人を見るや否や、即座に巨大な謎の銃を構える。


「なんだ、あの馬鹿でけぇ銃は……」

「RPG、通称『 ロケットランチャー 』だな」

「詳しい解説のおかげで、あの女がイカれてることは理解したよ」


 二人は焦ることなく、警戒する女性を見つめていた。


「動くんじゃないっ!」

「誰だ、あんた……」

「貴様らこそ、何者だっ! その姿、人間ではないなっ!」

「……ん? あぁ、こいつはロボットだ……」

「……ロボット?」

「言っておくが、俺は、人間だぞ?」


が、ここで何をしているんだ」

他所よその人間? お前は、ここの人間なのか?」

「そうだ。この島は、私の故郷だ……」

「生き残りがいたのか、そりゃ助かるな」


 女性の言葉を聞いて、灰夢が頭の中を整理する。


「お前らは、何の用で来たんだと聞いているっ!」

「俺はここに、とある書物を探しに来たんだよ」

「……書物、だと?」

「あぁ。死術書って、聞いたことあるか?」

「いや、知らない……」

「……そうか」


「お前らは、あのの仲間じゃないのか?」

「悪魔。またでたな、その名前……」


「あんた、その悪魔のことを知っているのか?」

「ロ、ロボットが……喋った……」


 突然、言葉を発したロボットに、女性が目を丸くする。


「こいつは、遠隔操作されたロボットだ、中身は別にいる」

「ず、随分と最新式のロボットなんだな」

「まぁ、こいつが自分で作ってるからな」

「そうか。それは……また、凄い技術力だ……」

「お前、機械に詳しいのか?」

「これでも一応、この村の発展のために、色々と機械を作っていたからな」

「……そうか」


 女性がそう答えると、灰夢は魚のお作りを差し出した。


「せっかくだ。よかったら、お前も食わねぇか?」

「要らない、何を食わされるか分かったもんじゃない」

「ただの海の幸だよ。ここに来る途中に釣ったんだ」

「し、信用できるかっ!」

「なら、別にいい。無理にとは言わん……」

「さっさと出でいけ。村人以外に、ここに来る資格はギュルルルルルル……」


「…………」

「…………」

「…………」


 女性の腹の虫が鳴くと同時に、三人の空間に沈黙が走る。


「ほら、食わねぇのか?」

「い、頂く……」





 女性は銃を静かに下ろし、少し不貞腐れながら、

 ゆっくりと近づいてくると、灰夢の横の丸太に座った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る