第参話 【 温もり 】

 ひと騒動終えて、風呂を上がった灰夢たちは、

 クタクタになりながら、店へと向かっていた。





 入口をくぐると、店には梟月と蒼月だけになっていた。


「おかえり、みん……な?」


 どんよりと落ち込む灰夢と氷麗を見て、

 蒼月が何となく、風呂での内容を察する。


「ごめん、灰夢くん。これは僕も予想外だ……」

「まぁ、今回は俺も想定してなかったから。いい……」


 謎のやり取りに、梟月が首を傾げる。


「お前らは、先に二階に上がって寝てろ」

「お兄ちゃん、お部屋を借りてもいいですか?」

「……ん? 別に構わないが、何するんだ?」

「寝る前に少し、ゲームでもしようかと……」

「そうか、好きに使え……」

「ありがとですっ! 行きましょう、みんなっ!」

「うんっ!」

「ゲームやるぅ〜!」

「ゲーム……楽しみ、です……」


 風花、鈴音、氷麗を連れて、言ノ葉が二階に上がっていく。


「わらわたちも、そろそろ帰るぞ」

「あぁ、二人も今日はありがとな」


「楽しかったぞ、灰夢……」

「そいつはよかった。また別のイベントも、楽しみにしとけ」

「うむ、期待しておこう……」


 そういって、九十九と牙朧武も、影の中へと戻っていった。



 ☆☆☆



 灰夢はそこから、祭りであった出来事を蒼月と梟月に話していた。


「そっか。それはまた、大変な一日だったね」

「全くだ。また怪異絡みじゃねぇかと肝が冷えた」


「言ノ葉たちを助けてくれて、ありがとう。灰夢くん……」

「いや、むしろもっと見とくべきだった。悪かったな……」

「言ノ葉が自ら行動した結果だ。君を攻める気は無いよ」

「そうか。そう言って貰えると助かる」


 梟月の言葉に、灰夢がホッと息を吐く。


「でも、おかげで氷麗ちゃんと仲良くなってたね」

「まぁ、初めよりは壁が無くなったかもな」

「そんなレベルじゃなかった気がするけど……」

「……ん?」

「はぁ、なんでもないよ……」

「ははっ、灰夢くんらしいね」


 そう言いながら、梟月が奥から梅酒を取り出す。


「なんだ、梟月。また、ご褒美か?」

「今回は、少し違うかな」

「……違うのか?」


「忌み子と言うのは、抱える悩みが絶えず続くものだからね」

「……まぁな」

「言ノ葉も居るが。今後、彼女が君が手を貸りに来る事もあるだろう」

「まさか、それの前払いってか?」

「まぁ、そんなところだ……」

「おいおい、それはさすがに勘弁してくれよ」


「……飲まないのかい?」

「……飲むけどよ」


「なら、彼女のこと、よろしく頼むよ……」

「梟月がこういうこと言うと、大体何かあんだよなぁ……」

「無いに超したことは、無いのだけどね」

「全くだ。少しは老骨を労わってくれ」

「一番若い体しておいて、何を言ってるんだか」

「中身だけで言えば、俺が一番年上だっつぅの……」


 そこから少しの間、灰夢は二人と酒を楽しんでいた。



 ☆☆☆



 しばらく酒を堪能してから、灰夢は二階に向かっていた。


『……ご主人、ちょっと良いか?』

『……ん?』


 九十九の呼び掛けを聞いて、灰夢が部屋の前に立ち止まる。


「九十九、どうした?」

「忘れ物があったんじゃよ、ほれ……」


 そういって、九十九が祭りの土産を渡す。


「あぁ、リンゴ飴か。わざわざ悪かったな」

「礼には及ばぬよ、ついでじゃ……」


 灰夢が、そっと部屋の扉を開けると、

 四人の子供たちは、遊び疲れて眠っていた。


「おやおや、完全に疲れきっておるな」

「まぁ、今日は一日遊び通しだったからな」

「それにしても、いい顔して眠っておるのぉ……」

「……だな」


 灰夢と九十九が、静かに子供たちの寝顔を見つめる。


「氷麗ちゃん……」

「言ノ葉……」

「みなさん、強いです……」

「もう、一回……」


「やれやれ、夢の中でも遊んでおるわ」

「それだけ、今日が楽しかったんだろ」

「じゃな、わらわも今日は楽しかったぞ」

「そうか、そいつはよかった」


 灰夢が部屋に布団を引き、その上に四人を寝かせる。

 すると、寝ぼけた氷麗と言ノ葉が、灰夢の腕を掴んだ。


「……空気、読んで……ください……お兄、さん……」

「……いじわる、ですよ……お兄、ちゃん……」


「ご主人は、夢の中でも大人気じゃな」

「ったく、俺に空気を読む忌能力は、ねぇんだっての……」


 灰夢が二人の頭を優しく撫でて、上から布団をかける。

 そして、近くにあった花瓶に、九十九に貰った林檎飴を刺した。


「……食べぬのか?」

「これは、氷麗へのプレゼントだ……」

「なるほどのぉ。楽しい一日が終わるのは、寂しいものな」

「この方が、起きた時に夢じゃなかったって思えるだろ?」

「全く、ご主人らしいのぉ……」





 そういって、九十九と灰夢は静かに笑みを交し、

 眠る子供たちを見てから、再び部屋から出ていった。

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