第拾肆話【 二匹の狼 】
逃げ帰る妖魔たちを、静かに見つめていた。
「……よし、逃げたな」
「……じゃな」
「すっげぇ倒した気がすっけど、さすがにもういねぇか?」
「かなり暴れたからのぉ……」
「こんだけやりゃ、お客様のご期待には応えられただろ」
「誰が好き好んで、このような化け物揃いの所に来ようか」
「一応、言っとくが……。お前も化け物の一人だからな? 牙朧武……」
戦いが終わった後も、淡々と二人のくだらない会話が続く。
「まぁ、逃げ帰った妖魔もおるし、作戦としては十分じゃろ」
「ったく、団体客なら先に予約してから来いっての……」
「予約したところで、お主ら受け入れんじゃろ」
「ちゃんと受け入れてやるさ、お客様は神様だからな」
「信用ならんのぉ……」
「まぁ、例え神だろうと、ぶっ飛ばすのに変わりねぇけど……」
「見境が無さすぎなんじゃよ」
その時、奥から一匹の杖を持った妖魔が現れた。
「くっくっくっ……。よくもまぁ、派手にやってくれましたねぇ……」
「なんだ、まだ居たのかよ。飽きねぇなぁ、おい……」
「お主……。我らの前に一人で出てくるとは、随分と肝が据わってるのぉ……」
多くの敵を、たった二人で無双し追い返した灰夢と牙朧武。
その前に出てくるとなれば、それに勝る何かを持っている。
戦闘経験が無駄に多い二人には、それが既に分かっていた。
「そんで、お次は何がお出ましだ?」
「いよいよ、私が真の力を見せる時が来ました」
「……そうか、よかったな」
「数多くの召喚獣を召喚してきた私の、究極とも言える召喚術式──」
それを聞いて、灰夢が戦いの中の敵を思い出す。
「あのバカでけぇゴーレムは、お前が出したのか」
「今からお見せするものは、あんなものとは比べ物になりませんよ」
「あれだけのサイズで、あんなものねぇ……」
「今から、あなたたちに【 神 】という存在をお教えしましょう」
その瞬間、灰夢は牙朧武の瞳が、哀れみの視線に変わった。
「なぁ、牙朧武……。この世界、神が多すぎやしねぇか?」
「お主、さっき自分で『 お客様は神様 』と言っておったじゃろ」
「自分のことを『 神 』って言う奴は、大体ろくな奴じゃねぇよ」
「まぁ、性格が腐っただけの、屁理屈を並べるクレーマーじゃろうな」
「お前……。なんで、そんな詳しいんだよ。呪霊のくせに……」
「吾輩は恨みや憎しみの異形、負の感情が生まれるものには詳しいんじゃよ」
「悲しすぎるだろ、その知恵袋……」
妖魔を無視したまま、二人で雑談をしている灰夢たちを、
杖を持った妖魔が、目を丸くしながらじーっと見つめる。
「あの……。話を振っておいて、二人で盛り上がるのやめてくれませんか?」
「あぁ、悪い。……んで、お前は何の神様になるんだ?」
「あなたたちが想像もしない、新たなる世界の神ですよっ!」
妖魔のぶっとんだ発言に、灰夢は頭に手を当てて呆れていた。
「……新〇界の神か、厨二病も末期だな」
「お主、それは神は神でも、
「確かに、言われてみれば……」
「あなたたちの想像など、遥かに超えるものをお見せしましょうッ!!!」
そう妖魔が宣言し、自分の足元に大きな術式を展開し始める。
「刻は来たッ! 長きに渡る研究の末、この世界を我が物にする時がッ!!」
「人の敷地で、厨二病の演説会はやめてくれ」
「愚かな妖魔どもを取り込み、それに見合った姿へと変える禁術──」
「合成進化か。なんか、ドラゴン○エストみたいだな」
「私こそが妖狐を手に入れ、世界を作り替える力を手に入れるッ!!」
「神になるなら、まずデス○ートでも拾ってこい」
「──いちいち、やかましいわッ!!!」
決めゼリフを放つ妖魔に、灰夢が淡々とツッコミを入れていく。
「今、ぶった斬るのは、さすがに悲しすぎるよな」
「隙だらけ過ぎて、逆に殺りにくいのぉ……」
「フハハハハッ! もっと、もっとだぁ──」
「…………」
「…………」
力を集める妖魔を、二人が気まずそうに見つめる。
「……どうするんじゃ?」
「はぁ、しかたねぇ……。少し、待ってやるとするか」
「止めなくて良いのか?」
「変身シーンに攻撃するのは、どこの世界でもルール違反だからな」
「人間の世界には、よく分からないルールが多いのぉ……」
──その時、灰夢の頭の中に声が響いた。
『もしも〜し。……灰夢くん、聞こえる?』
『
『……魔力通信だよ』
『相変わらず、何でも簡単にやってのけんな。お前も……』
『まぁね〜。そっちはどう? 終わりそうかい?』
『あぁ、ちょうど、今から
『そっか。さっきなんか、でかいゴーレムみたいなの出たの覚えてる?』
『あの、満月がぶっ壊したやつか?』
『そうそう、あれあれ……』
『あれが、どうかしたかのか?』
『あれを召喚したのがどっかにいるかもしれないから、気をつけてね』
それを聞いて、灰夢が妖魔に視線を送る。
『そいつ、今、俺の目の前で、自分が召喚獣になろうとしてんぞ』
『……自分が? それはまた、どうして……』
『なんか、新世界の神になるんだと……』
『おぉ……。それはまた、なんというか……。ついてないね。灰夢くん……』
『二日連続で神様が相手ってのは、無駄に経験値溜まりそうだよな』
『ゲームのボスバトルみたいに言わないでよ』
『俺もそろそろレベルマだ。転生して、新キャラ育成を始めるとしよう』
『君の場合、転生できないから困ってるんでしょ……』
そんな話をしている間に、祠の死んだ妖魔たちが、
次々と目の前の杖を持つ妖魔の体に吸収されていく。
『本当だ、死んだ妖魔が吸われてるね。こっちのも消えたよ』
『まぁ、これはこれで掃除しなくて助かるし、ある意味ありがたいな』
『死にたがりの割には、意外とポジティブだよね。灰夢くんって……』
緊張感の無い灰夢に、蒼月が呆れた言葉を返す。
『アイツが変身を終えたら、カタをつけて帰る。みんなに伝えておいてくれ』
『変身が終わるまで、ちゃんと待ってあげるんだね』
『まぁ、なんか、すげぇ時間かけた研究っつぅから……』
『……そうなの?』
『あいつが自分で言ってた。長きに渡るなんたらかんたらって……』
『そ、そうなんだ……』
『なのに、今、ぶった切られて終わったら、さすがに悲しすぎんだろ?』
『そりゃそうだけど、さすがに緊張感無さすぎでしょ……』
『まぁ、俺は何をされても死なないからな』
そんな話をしていると、杖を持った妖魔が光り輝き、大きくなり始めた。
「いよいよ、お出ましじゃな」
「さて、鬼が出るか蛇が出るか」
「ゲームでガチャをする時のドキドキ感に似ておるのぉ……」
「これは、激レアキャラの確定演出なのか?」
「吾輩も初めてじゃから、よく分からんのぉ……」
くだらない話をしながら、二人が変身を終えるのを静かに見守る。
すると、眩い光の中から、白い稲妻を放ち、四足の龍の姿が現れた。
「おぉ、獣神化しやがった。すげぇ……」
「お主は今から、引っ張りハンティングでもするのか?」
変身した姿を見ても尚、灰夢と牙朧武の興味のなさそうな会話が続く。
「なんか、今までで一番神っぽいな。いいと思うぞ……」
「お主は何故、見比べられるほどに神を見とるんじゃ……」
「大体は気づいた時に目の前にいるんだ、今みてぇに……」
その時、変身した妖魔が喋りだした。
『フッハッハッハ。この時を待っていた、実験は大成功ですッ!!』
「じゃべんのかよ。しかも、まんまアイツの声だし。何か、すげぇ台無しだな」
「一気に神感が失われたのぉ……」
『この私こそが、この世界の
「確かに、お前は
「博物館にでも寄付すれば、良い値が付きそうじゃな」
「牙朧武って、意外と現金なヤツなんだな」
二人が雑談をしてる中、再び灰夢の頭に蒼月の声が響く。
『本当に神に化けたね、大したもんだ……』
『蒼月、あれが何かわかるか?』
『あれは
『ビールのメーカーか、モンス〇ーハンターでなら……』
『まぁ、間違ってはいないんだろうけど、もっと他になかったのか』
蒼月の話を聞きながら、灰夢が冷静に観察する。
『これ、やっぱ強いのか?』
『普通に神獣の部類だ。凄く強いと思うよ』
『……マジか』
『体質が雷だから、多分、みっちーの電磁砲も吸収されちゃうかな』
『なるほど、そいつは神っぽくていいな』
『緊張感ないなぁ……。本当に、君は……』
『いや、お前が言うなよ』
『……どう? 倒せそう?』
『大丈夫だと思うが、多少は本気で行ってもいいか?』
蒼月が数秒だけ考えてから、灰夢の問に答える。
『これはしょうがないか。手段を選んでる場合じゃないもんね』
『まぁ、あいつが暴れる方が、厄介な気がするからな』
『確かに……。わかった、僕の魔法障壁も張って、空間を守ってみるよ』
『……悪いな』
『お易い御用さ、思う存分暴れておいでっ!』
『あぁ……。出来る限りの対応は、俺もしてみっから……』
『うん、気をつけてね。まぁ、気をつけなくても死なないか。君の場合……』
『一言多い。そうだ、蒼月……』
『……ん?』
『今から化け物が、もう一体増えっから……』
『……えっ?』
『攻撃すんなって、みんなに言っといてくれ』
『あ、あぁ……。わかった。頑張って……』
『……そんじゃな』
『は〜い、また後でね』
蒼月は別れを告げると、灰夢との通信を切った。
「あの悪魔の小僧は、なんじゃって?」
「喜べ、『 思う存分暴れて来い 』ってよ……」
「そうか、それはありがたいのぉ……」
「この白い化け物、お前も知ってんのか?」
「麒麟じゃろ? 神獣とされるやつじゃな」
「やっぱ、神獣って強いのか?」
「まぁ、人類からしたら勝ち目のない敵じゃろうな」
「お前なら、勝てると思うか?」
「どうじゃろうな。恐らく、本家ほどの力は無いじゃろうが……」
「とりあえず、試してみねぇとわからねぇか」
「じゃな、少し本気で暴れんといかんかもしれんのぉ……」
「このサイズだ……。今回は、お前に頼っていいか?」
「そんなもの、命令すれば良いじゃろう」
「俺は
「ハッハッハ。全く、変わった御主人様じゃな」
二人が互いの顔を見つめ、小さく笑みを浮かべる。
『さぁ、裁きの刻ですよっ!』
「変身を待ってやったんだっ! こっちも準備すっから、少し待ってくれっ!」
『面白い。あなたたちが、どれだけ足掻けるかを試してあげましょう』
「今更、鈍ったなんていうんじゃねぇぞ。牙朧武ッ!!!」
「ぬかせっ! 吾輩より先に命を尽かすでないぞ、灰夢ッ!!!」
灰夢が妖刀を腰にしまい、牙朧武の背中に飛び乗ると、
牙朧武の黒い呪力が溢れ出し、周囲を包み込み始める。
「俺の命ならいくらでもくれてやる。久方ぶりに暴れんぞッ!!!」
「我らのコンビネーションを、神とやらに見せてやろうぞッ!!」
声と共に呪力が膨れあがると、周辺を一気に包み込んでいった。
『
「 ──反撃の狼煙を上げる時だ、死ぬ気で行くぞッ!! 」
『 ワァオォオォォォォォォォオォォオオォォォオォォンッ!! 』
呪力が霧散すると共に、四つん這いの巨大な狼が姿を現し、
その背中に、狼のお面を付けた一人の人間が乗っていた。
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