第10話 浅井くんの部活
あの日のライブの翌々日、つまり月曜日の昼休み。今村さんと小森さんと寺沢と四人で机を並べて昼食をとっていた時のこと——
「ああ、あの夜のアキラ様……最高だった」突然恍惚の表情をうかべて俺の事を語りだす小森さん。——普通に気恥ずかしい。
「なんだよ、小森……いきなりアキラさまとか……誰だよそいつ」そんな小森さんに困惑する寺沢。——ごめん……それ俺。
「えっ……アキラさま知らないの? 『
「あぁぁ……『継ぐ音』か……それならそう言えよ、新しい男かと思って焦ったわ」
「なんで新しい男なのよ! なんで寺沢が焦るのよ! つーか、今も昔も彼氏なんていねーわ! それにアキラさまって言えば普通は『継ぐ音』のアキラさまって決まってるのよ!」
マジか……知らなかった。
「分かんねーよ! で、なんでいきなり『継ぐ音』のアキラなんだよ」
「ふっふっふ、実は土曜日に、
「え……まじか……お前らチケット取れたの?」
「うん、
「ちくしょう、羨ましいな……俺も行きたかったけど……チケット取れなかったんだよな」
「それは、残念だね! 私らアキラさまと何回も目があったんだよ……ねーっ
「えっ……あ……うん、そうね」
「あれ? 何その塩反応……ライブん時はあれほど大騒ぎしてたのに」
「そ、そ、そ、そうだったっけ……」
「ん? どうしちゃったの? 浅井の前だから遠慮してるの?」
「べ……別に浅井には遠慮なんかしてないけど……同じ名前だから、ちょっと照れ臭いって言うか」
「あっ、そっか浅井も
「……うん」
「ああ……アキラって名前だけでまた思い出しちゃう……まだ、ライブの余韻が残ってるわ」
……そこまでか——なんか嬉しい生の声だ。
「ねえ、学校終わりにカラオケ行かない! 『継ぐ音』歌いたい!」小森さんの提案に「おっ、いいね!」寺沢が乗った。
それよりも……「『継ぐ音』の曲ってカラオケにあるの?」
「もちろん! バッチリ入ってるよ!」グッドサインで小森さんが教えてくれた。
凄いなカラオケ……インディーズまで網羅しているのか。
「浅井と今村はどうすんだ?」
「私は別にいいけど……」
「……俺は今日、部活あるからパスで……」
それに、喉を少し休めたい。
「え——っ、ノリ悪い!」
「……ごめんね、また部活が休みの時に誘ってよ」
……皆んなが顔を見合わせる。
「そういえばさ、浅井の部活ってなんなんだ?」……この間、勝手に持ち出した部室の鍵のプレートに書いてたと思うけど。
「それ私も知らない」……今村さんには言ったよ!
「えっ、彼女にも言ってないの?」……違います言ったけど忘れられてるのが真相です。
「部じゃなくて、同好会なんだけどね……ソロエレキギター同好会だよ」
「「「ソロエレキギター同好会!?」」」
「うん」
「なんだそれ?」
「ソロエレキギターを
「え? じゃあ浅井って、アキラさまみたいにギター弾けるの?」
「うん、一応ね」
「……アコギなんかでよくやるソロギターをエレキでやるってこと?」
「うん、さすがアコギ持ってるだけあってよく知ってるね。基本的にはそうなんだけど……エレキならではのニュアンスを取り入れるんだよ」
……皆んなよく分かってなさそうだ。
「部員俺だけだし……よかったら今度見学くる?」
「「「いく!」」」
——そんなわけで早速、今日の放課後、皆んなが見学にきた。
「あれ? カラオケはいいの?」
「浅井来ないと、
「つまんない事はないわよ……でも、せっかくなら浅井の歌も聴いてみたいけど」
「おやっ、惚気か?」やめてあげて今村さん、小森さん、寺沢の前では。
……寺沢がバツの悪そうな顔をしている。
「……つーか、本当に1人なんだな、募集とかしないのか?」
「募集はしないかな……1人の方がずっと練習できるし」
「1人なら、部活の必要ねーじゃん」
寺沢の言うことはもっともだ。でも——
「……無料で機材使えるし……大きな音鳴らせるし……だから、むしろ入ってこられたら困るというか」
「……なかなか黒いな……お前」
——なんて話をしていると誰かが部室の扉をノックする音が聞こえた。
「失礼します」ノックの後、登場したのは、ハーフツインの大きな目が特徴的な、童顔美少女だった。……リボンの色的に一年だけど、もしかして入部希望者?
彼女の登場に「すっげー可愛い!」寺沢が思わず心の声を漏らした。
しかし「先輩それセクハラです」童顔美少女は、そんな寺沢に鋭い視線を送り。
「あ……悪りぃ……つい」瞬く間に撃退した。
寺沢……弱っ!
「ここ、ソロエレキギター同好会で合ってます?」
「うん合ってるよ。ここがソロエレキギター同好会の部室だよ」
「ふむ」と呟くと童顔美少女は俺を凝視した。
「もしかして、あなたが部長ですか?」
「うん、部員は俺1人しかいないから俺が部長ってことになるね」
「そうですか……じゃぁ、このとても可愛いお2人とこの人類ギリギリの男はなんですか?」
「やん、可愛いって正直!」遠慮のない小森さん。
「人類ギリギリ……」ガチでへこんでいる寺沢。
「…………」今村さんは今のところ静観している。
「見学だよ」俺の言葉に眉をしかめ「ギターも持たずにですか?」と彼女は切り返してきた。
何だろう……この子、なかなか圧が凄い。
「先輩……部室を溜まり場にしているだけじゃないんですか? 本当にギター弾けるのですか?」——直球だ……普通なら言いにくいことをずけずけ言ってくる。
しかし、この言葉には今村さんが黙っていなかった「あんたね! この人はね『継ぐ音』の……」
「この人は『継ぐ音』の何ですか?」
今村さんは俺が『継ぐ音』のアキラだって皆んなに知られたくないって言ってたけど……。
「……『継ぐ音』の曲が弾けるのよ……」
「……はあ……そうですか」
……よく分からないアピールになった。
「別に溜まり場にはしてないよ……俺たちも今着いて、これから始めるところだったんだ……そんなに上手くないけど、これから皆んなにも披露するところだったから、君も見ていく?」
「
まさかと言うかやっぱりと言うか入部希望者だったか……俺1人なら適当に手を抜いて、入部させないように仕向けるんだけど——そんなことしたら、きっと今村さんが怒るよね。
部員は欲しくない……だけど、今村さんを怒らせたくない。
妙な板挟みにムニムニする俺だった。
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